incident 1『死を渇望せしセカイ』
彼が求めたのは死だった。しかし彼は死なない。死ぬ事は許されない。彼は文字通りのセカイなのだから。
〜死を渇望せしセカイ〜
彼の身体的特徴を説明する事は、簡単でありながらとても難しい事だ。
何故なら彼は、我々人類……果ては全生物が住まうこの地球そのものなのだから。
地球と言えば簡単だが、地球の身体的特徴と言われると難しいものがある。
小難しい事は何もない。いや、彼が存在している事自体が小難しいのかもしれないが。彼は意志を持っている。我々がそれを発見し、分析した。
分析の結果、彼は死にたがっている事が分かった。しかし当然、地球が死ぬなんて事は許されない。それを防ぐ為に、我々は更なる分析を行った。その結果彼との意思疎通に成功した。
以下に彼との意思疎通の記録を載せる。
『あなたは誰?』
『やぁ、我らが母。私はあなたの上に立ち、下にある者だ。貴方の目的が知りたく、何とかコンタクトを取った』
『僕は、死にたいんだ。でも、生まれた時から死んではいけないと言われているんだ』
『死んではいけない……それは誰に言われたんだい?』
『分からない。ただ僕は死んだらいけないんだ。でも僕は死にたい。早く終わりたいんだ。でも誰かが僕を縛るんだ。僕は死にたいのに』
『どうしてそんなに死にたがるんだい? 私としては、貴方が死ぬのはいただけないのだが』
『僕、死にたいんだ。死にたい。何で死なせてくれないの?』
『私の居住地が無くなってしまうからだ』
『でも僕は死にたいんだ。何で死なせてくれないの?』
『……』
……これ以上は平行線だと思ってね。彼との会話はここで打ち止めだ。
まぁ現状、地球がどう死ぬのか方法は不明であるし、何者かによって彼は死なないようだ。事を急く程の事は何一つとしてない。
記録はここで終わりだ。