その商人、世直し廻るぞ、金の亀
運搬馬車に揺られ、寝ている魔法使い男と周囲警戒している冒険者一行女4人。
終わりの音というのが団の名前らしい。
どの女も20前半だろうか。
魔法使い男は40代前半。
たまたま通り方向が同じだった事、一番権力名声が高い、金色の
亀という商人ギルド登録者だった為乗せてあげたのだった。
金色の亀の刺繍がしてある深緑色の大きな魔法フードコートは、品格を感じさせる。
先程、高いポーションをこの男から数本購入したばかり。
壁に寄り、すかピー寝ている魔法使い商人男。
剣士女「すまない、もし」
商人「・・ん?何だ?」
剣士女「他にどんな商品を扱っている?」
商人「何でもさ」
女剣士「珍しい武器、珍しい魔法書もか?」
商人「・・素人には売れないモンもある、鑑定結果によるのさ、俺が認めるステータスなら売る、が、鑑定嫌がる者が多いからな、それが難点だ」
女剣士「構わない、見てくれ」
商人「・・ランクはA、実力は金のS、宜しい」
女剣士に付与魔法書を5冊売った。
女剣士「私らは最果ての洞窟に行く、もし良かったら、入り口露店をやってくれないか?」
商人「・・シーズンなのか?」
女剣士「ああ、溢れているそうだ、依頼で行くんだが、・・どうだ?」
商人「・・客いんのか?」
女剣士「S級がゴロゴロ」
商人「何故あんたらは飛んで行かない?S級実力ともなれば・・」
女剣士「仲間が死んだ、ある戦いでな」
商人「・・悪かった、・・宜しい、同行しよう、ただし、討伐には付き合わない」
女剣士「勿論だ、宜しく」
握手を交わした。
全てが女で構成されたパーティーである。
剣士、攻撃と回復魔法使い、弓使い、大盾。
本来は後一人、テイマーが居たのだろう。
よくある話だ。
洞窟に着いた。
様々な露店が開かれている。
強者そうなパーティー達が沢山居る。
女剣士「よし、まずは地図だ、地図屋は何処かな」
商人「地図なら私が持ってます、高いですが」
女剣士「何?いくらだ?」
商人「白金貨500枚」
魔法使い「はあああ!?地図なんて金貨200~1000が相場じゃん!?高い!やめときなよヒビキ!」
ヒビキ「いや、しかしだなこの者は金の亀・・」
魔法使い「いくら何でもボッタクリよ!!」
弓使い「パーティー資金から出せば半分くらいで済みますわね」
魔法使い「カリンまで!?」
大盾「まあまあサリナ、地図大事、な?金の亀の地図だぜ?滅多に手に入らんよ」
サリナ「ニギル~」
カリン「良いかしら?ヒビキ?」
ヒビキ「ああ、この者の地図は信用出来る、先日の件、忘れた訳ではあるまい、サリナ」
サリナ「う、まあ、そりゃ・・うー・・白金貨500・・うぅ」
ヒビキ「沢山狩れば良いだろう?ボスを倒せば白金貨2万は下らん」
商人「買うのか?買わないのか?もう地図出したぞ」
ヒビキ「ああ、買わせて貰う、サリナ」
サリナ「解った、解ったわよ!!ほら!白金貨500枚!」
サリナはアイテムボックスからお金を取り出した。
サリナはパーティー財布の役割らしい。
商人「まいど、それじゃ、使い方について教える、よく見ておけ、あ、まず、地図の上の紐に触れ」
全員触った、地図を広げる。
〈ヴン〉 3Dホログラム映像が縦に飛び出た。
終わりの音『うお!?ふおー!?』
商人「この地図の半径1Mの者にしか見えない映像だ、今居るのが、この5点だ、それぞれに魔力の特徴である色がある、点にも色が付いてるだろ?」
終わりの音『何だコレえ、初めて見たあ、凄いわあ、白金貨500だけはあるわあ』
商人「ごほん、えー、この迷宮は殆ど通路、要所は変わらない、下層に行けば行く程にモンスターも強くなるがな、だから、地図性能は問題無い、この青い部屋はモンスターハウス、黄色はボーナスモンスターハウスか、宝箱、もしくは、採掘場所、白い部屋は休憩出来る場所か、オアシス、赤い部屋はボスハウスだ、近寄るモンスターは感知出来ない、あくまでもこれは地図だ、この黒いのは即死トラップの場所だ、・・解ったか?」
終わりの音『・・』
ヒビキ「安い買い物であろ?」
サリナ「しゅごい」 涎だらー。
ニギル「ははは!!コイツはすげー」
カリン「このような地図を作れるという事は、則ち、何度もクリアしているという事ですか?」
商人「ん?ああ、まあ、そうなるな」
終わりの音『ざわざわ・・ヒソヒソ』
商人「?」
ヒビキ「あ、あー、おほん、もっと、その、モンスター情報等を知りたいのだが」
商人「大丈夫だ、お前らならその地図だけで」
ヒビキ「本当か?」
商人「多少大行進が起きたところで、少々満身創痍になるだけだ、MP回復ポーションも俺から大量に買ったしな」
ヒビキ「うむ、その言葉信じよう!」
サリナ「ようし!稼ぐぞう!!」
カリン「あらあら」
ニギル「雑魚はアタシに大量に押し付けなあがっはっはっは!」
終わりの音は採掘部屋、お宝部屋を全て周り、その間、誰もボス討伐に至らずに、モンスター行進が発生。
モンスター行進を真正面から片付けていく、最強音魔法剣士ヒビキの活躍により、ボスハウスに到着し、大量のポーションをがぶ飲み、しかも美味しい、誰もが退却していったボスを見事討ち果たし、迷宮クリア。
チートな地図と、大量ポーションの成せる技であった。
洞窟入り口、外、露店列一角、まだ、彼の店はあったが、列は成していない。
どうやら、売る相手を選ぶ店は人気が無いようだ。
英雄扱いの歓声の音が響いた。
声をかけ続けられる終わりの音をみた商人は、一瞬ニヤけて、消えた。
水の国、ミルターナ国に帰還した終わりの音。
その後、国王から、冒険者最高の栄誉賞を貰い、出て行こうとした時。
国王「そう言えば」
終わりの音『?』
国王「金の亀の刺繍した男に出会ったそうじゃな?あ奴は元気じゃったか?」
ヒビキ「は、我らが迷宮クリア出来たのも、あの商人のお蔭です、素晴らしい地図でした、先程、博士と申す者に問答無用で買い取られてしまいましたが」
不服そうだ。
国王「ははは、許せ、アレが創るモノは異常でな、こうやって買い取るのもわしの仕事になっておるんじゃ、許せ許せはははは」
サリナ「あの!彼は一体何者なのですか!?」
国王「それを知って何とする?」
王圧。
ヒビキ「仲間が失礼を、お許し下さい、この者は好奇心が高い方でして」
国王「んー、まあ、ぶっちゃけ解らんのだがな」
終わりの音『・・え?』
国王「何せ各国をブラブラしておるしな、アッチへふらふら、コッチへふらふら、あ奴は自分の家を持たんのだ、もうかれこれ8百歳とも、2千歳とも、はたまた50万歳とも言われておるし、別の話では、神なのではないかとも言われておる」
終わりの音『・・か、神?』
国王「実際あ奴が立ち寄った村は、最低限の生活に使える技術、道具を伝え去る故に、神と奉られておるよ、いくつかの国や村では銅像やら、神殿やら建てられておると聞く」
終わりの音『・・』
国王「が」
終わりの音『?』
国王「あ奴は災厄の神とも、絶望の亡国とも言われておる、その由来は、あ奴が立ち寄る国で残虐な行為があり、犯罪警備団の機能不全があった場合じゃ、その場合、怒れるあ奴を誰も止める事叶わん、一昨年の、ほれ、サムタラーン国でボヘニール公爵家が炎上したろう?あれはあ奴の仕業じゃ、あ、これ秘密じゃった、漏らしたら死刑な?」
近衛兵らの視線、大臣ら、宰相らの視線が痛い。
終わりの音『・・(サリナあ~~!)』
サリナ「(ホンマごめんちゃい)」
国王「はははは、漏らしたらじゃよ、忘れるが良い、はははは、そうかそうか、この国に来とったかー、久しぶりに会いたいモノよのー」
国王は寂しい眼差しを伏せ、一瞬耽った。
国王「まだ質問はあるか?」
サリナ「いえ!ありません!」
国王「うむ、下がれ」
終わりの音『ははあ!』
授与式閉幕。
ミルターナ国内、メギド大町、商人ギルド、金の亀メギド支部。
サリナ「来ちゃったよー」
カリン「あらあらまあまあ」
ヒビキ「迷宮討伐に必要だから、それだけだから!いいわね皆!」
ニギル「そんな事言って彼の事で昨日は自己発電したんじゃないの~?」
ヒビキ「そりゃあんたでしょ?」
ニギル「は、はあ!?んな訳あるかあああ!?」
サリナ「うわ、トマトみたい」
ヒビキ「相変わらず解りやす!」
カリン「あら~まあまあ」
ニギル「てめーらあ~」
ヒビキ「ほら、行くわよ!ひょっとしてまた会えるかもよ!」
サリナ「ニギルの為だもんね!」
カリン「ニギル頑張って下さい」
ニギル「アタシを出汁にすんな!」
ギルド長室内。
ミルターナ国、メギド町、金の亀メギド支部商人ギルド長、トーファンが正座している。
トーファンは女ハイエルフであり、双腕の月と異名を持つ二刀流の業物使い、ブラックSクラスの実力者である。
そんな彼女が黙って床に正座している光景は、国王ですら見た事がない。
彼女は、権力には従順ではないからだ。
そんな彼女は、この町の別の角度からの治安維持という大役を任されているのである。
そう、彼女と対面し、紅茶を飲み、種無し冷凍高級葡萄を食べながら空中書類の本を速読しているこの男。
金色の亀、総本山、会長、白銀の命令によって。
白銀「・・」
トーファン「・・」
白銀「・・ふん、まあ、良いだろう」
トーファン「(ホ)」
白銀「立って良し、楽にしろ」
トーファン「はい!」
ソファーに座るトーファン。
トーファン「シルバ様、あの」
白銀「ん?」
トーファン「あの、先日周り下さった、隣町のミルドなんですが、家の妹が、何か失礼をしたそうなのですが、一体何をひ!?」
白銀「・・」
トーファン「ず、ぶびばぜん、でぼ、ぎにだっでええ」
白銀「ぶは!?ハハハハハハハハ!アハハハハハハハハ!相変わらずテンパると泣き虫になる癖直せトーファン!アハハハハハハハハ、ギャップが凄い!ふ、普段はキリ!シャキ!ってしてる癖に!アハハハハハハハハ!」
トーファン「妹おお、お、お、!左遷しないでくだざいいいい、お願いじばずううう、え、え、え」
白銀「アハハハハハハハハ!!や、やめ!その顔わざとやってんだろコラア!ぶふー!アハハハハハハハハ!!」
トーファン「うえ、うえ、うえ、うえ、うえ」
白銀「アハハハハハハハハ!!泣き方もっとあんだろコラア!アハハハ!!や、やめ!ひ!ヒイイイイ!!は、腹!腹がああ!!きつい!やべえ!!死ぬ!アハハハハハハハハ!」
トーファンは泣き上戸であり、普段からは想像出来ないくらい、泣いたら止まらない。
それどころか、普段は白銀に触れる事さえ出来ない筈なのに、泣き上戸の時は抱きつく癖がある。
トーファン「い、いも、いも、いもおっ!いもおっ!ひっぐ!うえ、うえ、うえ、うえ」
抱き付いて来た。
白銀「うわ、よせ、解った!妹は左遷しない!左遷しないから!離れろ!離れろお!〈グググ〉ぶふー!アハハハハハ何で泣く時だけ力強いんだお前は!?アハハハハ!!〈ギュウウウ〉痛い痛い!」
〈ガチャン!!〉
顔真っ赤涙目秘書女エルフ、リース「お客様がお見えですが!? (シルバ様ズルイ!!)」
白銀「お、おう、リース、相変わらずトーファンの事となると、熱くなるな、ほら、トーファン、妹は左遷しない、な?大丈夫だから、客が来たそうだ、落ち着け、お前のそんな姿他の誰にも見せられん、な?リース?」
トーファン「ぐす、ぐす」
リース「そうです!私だけで良いんです!」
トーファン「ぐす、ぐす」
白銀「は?」
リース「え?あ!〈カアア〉・・・・おお、お、お茶入れて来ます、お客様は通しますから、お早く〈バタン〉」
白銀「・・ほら、もう大丈夫だ、落ち着け、泣き虫、妹は左遷してないし、するつもりもない」
トーファン「妹は、何を、ぐす、したのです?」
白銀「あー、俺が入浴中にタオル無しで入って来ただけだ、テレポートでな、気にするな!反テレポートで直ぐに返したから!見えてないし!」
トーファン「・・私だって」
白銀「え?」
トーファン「・・」
白銀「・・さて、トーファン支部長」
トーファン「!!っは!」
いつもの凛としたトーファンに戻った。
白銀「客、来たぞ」
ノック音。
トーファン「よし、入れ!」
リースと、終わりの音達の姿。
白銀「あれ?お前ら確か」
ニギル「!!~~」
ヒビキ「失礼します!今回の件、貴方様に今一度お礼を申し上げたく参上致しました!ご無礼の程、深く詫びたいのです、失礼の振る舞いの数々、知らなかったとは言え、誠に申し訳ありませんでしたあ!」
終わりの音一同『申し訳ありませんでしたあ!』
片膝お辞儀。
白銀「うむ、許す!まあ、まあ、俺は偉い奴らは見張らないといけない立場だから、こうだが、偉くない奴らにゃ気さくで通ってる、楽にしろ、冒険者にはそういうのきついだろ? 〈ニコ〉」
ニギル「・・好き」
白銀「ん?」
ヒビキ「ああ!そ、それとお!今夜デスパレードを止めた記念パーティーがあるんですがあ!貴方様も是非に参加して頂きたく、どうか、お願いします!」
白銀「あー、そりゃ駄目だ、そういうの俺駄目なんだよ、ほら、俺は見張る役割だから、顔バレは不味いのさ、解るだろ?」
ヒビキ「!!し、失礼しました!私が愚かでした!で、ですが、何かお礼をしたいのですが・・」
白銀「んー、そうだなあ、お礼、お礼なー、うーん」
トーファンを見る。
トーファン「?」
白銀「トーファンをパーティーに連れて行ってやってくれないか?」
トーファン「え?」
終わりの音『え?』
リース鼻血「ええ!?(トーファン様のドレス姿!?ラッキー!?)」
白銀「リース、一応な?隠しカメラは死刑に当たるからな?」
リース「・・・・やだなあー、解ってますよー」
白銀「今の間は何だ?今の間は?」
ヒビキ「ププ、何だか思ってたより、ふふ、面白いですね、この支部アハハ」
サリナ「もっと怖い人かと思ってました!」
カリン「気さくな人何ですねうふふ」
ニギル「結婚してください!」
白銀「断る!!」
ニギル〈チーーン〉
カリン「あらあらまあまあ」
その後のニギルは暫くコップも持てない程茫然自失になったという。
その夜のパーティーで一波乱起き、トーファンを庇った低迷貴族のお坊ちゃん。
後にトーファンはこのお坊ちゃんと結婚する事になるが、それはまた別のお話。
パーティー最中。
町に蠢く最高位暗殺者達。
白銀の敵は多い。
同様に、金の亀の敵も。
金の亀下請け会社、メギド町、ポーリン社、社長、ダーク狐人、男、ダラン。
ダラン「手を出んじゃないよ、巻き添え喰うからねえ、徹底させなさい」
部下「は 〈バタン〉」
ダランは銀煙管を灯し、頬の傷を撫でる。
ダラン「お馬鹿さんだねえ、あの人は、違うんだよ、何もかもがね、死体すら出やしないよ、明日も明後日も、世は事も無し、さ、・・パ、パ、・・フーー」
その夜。
公爵家2つと、3つの子爵家が炎上した。
一週間後。
だいたい解ってきた。
金の亀の頭か、もしくは重要ポストを狙ったらしい。
しかし、暗殺者達を雇った公爵、子爵達の使用人達すら生きていない。
暗殺者達も大量の血痕のみを路地裏に残したまま、死体すら無い。
目撃者、無し。
巻き込まれて負傷した者、無し。
金の亀全てにアリバイ、有り。
一般民衆の間では、良い人が死んだという雰囲気の中。
葬式、蝋燭を扱う手が震える数人の貴族達。
誘いに乗らなくて本当に良かったと。
自身の首に死神の鎌が当たった状態だった事を、改めて、痛感し、心から普通の生活に安堵したのだった。
白銀のアリバイを保証したのは、元冒険者ギルド長。
タタラというサイクロプス種、女性、大剣が二つに別れる特殊大剣を使いこなす、歴代最強と唄われる南亜人である。
タタラと白銀は同じベッドで寝ていた。
白銀が目を開けた。
白銀「・・まあたかお前は、潜り込むなと言ってるだろう?」
タタラ「ん、む・・」
まだ寝ているようだ。
銀の長髪、長い睫毛。
かなり美人だ。
白銀「・・ったく・・」
タタラの毛布をかけ直す。
タタラ「・・」
白銀は冷めた緑茶ポットを魔法で温め、二つの茶器に注ぐ。
良い匂いが室内に行き渡る。
タタラ「ん・・おはよう」
白銀「ああ、おはよう」
タタラ「片付いたの?」
白銀「だいたいはな、まあ、残党も改心するだろ」
タタラ「相変わらず甘いのね」
白銀「・・俺は甘党だからな」
タタラ「私の体も甘かった?」
白銀「ぶぼ!?お前なあ、俺達は何にもしてないだろ」
タタラ「ふふ、こんな美人が進んで隣に寝てあげたのに、お礼は?」
白銀「勝手にお前が入っただけだ」
タタラ「んもー、私はいつでも良いのよ?貴方のお母様もハイエルフとサイクロプスのハーフなんだし、父親だって人間と、精霊のハーフ」
白銀「お陰で長寿だ」
タタラが起きて来て、白銀の後ろから抱き締めた。
タタラ「私、貴方が好き、私と結婚して下さいませ」
白銀「唐突だな」
タタラ「私、本気よ」
白銀「・・・・考えておく」
タタラ「本当!?」
白銀「ああ」
タタラ「だって前告白した時はー」
白銀「・・お前と俺は似てる、闇も、光も、知り尽くしてる、それでも、あの時、お前は立ち上がった、闘う為に」
タタラ「あー?あの時私に惚れた?ふふ」
白銀「心底こいつは戦士なんだなと思った」
タタラ「・・それ、恋愛フラグ立ってるの?」
白銀「グッて来たよ、正直」
タタラ「・・だったら、今からでも良いわよ」
白銀の顎を持つ。
白銀「・・まあ、また今度な」
すくっと立った。
タタラ「はら!?もー」
白銀「・・悪いな」
タタラ「いいわよ、待ってる、彼女の事、踏ん切りつくまで、そんな貴方だからこそ、好きなんだし、私も、踏ん切りつくまで結構掛かったもの」
白銀「・・ああ、助かるよ、それじゃあ、俺はもう行くよ」
タタラ「え?工房ギルドには挨拶して行かないの?」
白銀「チラッと挨拶はもうした」
タタラ「・・そっか」
白銀「おう」
タタラ「・・また寂しくなるわ」
白銀「・・」
白銀は指輪を取り出した。
緑の宝石だ。
白銀「ハイエルフの総本山、禁忌の洞窟の深層でしか採取出来ない伝説の石だ、名前は忘れた、やるよ」
タタラ「!!・・はめて良い?」
白銀「おう」
タタラは左手薬指にはめた。
タタラ「綺麗」
白銀「俺から貰ったって言って良い」
タタラ「自慢して良い?」
白銀「まあ、少しな」
タタラ「ありがとう!」
タタラは抱き着いた。
白銀「・・じゃあ・・行くよ」
タタラ「キス、して良い?」
白銀「・・・・」
タタラが迫る。
白銀「・・」
白銀が戸惑うのを感じるタタラ。
タタラ「・・」
タタラはオデコにキスをした。
白銀「!、何で?」
タタラ「だってー、待つって約束だから」
寂しげに笑うタタラ。
白銀「・・」
タタラを抱き寄せ、唇にキス。
タタラ「!?・・」
驚いたが、そのまま目を閉じるタタラ。
唇の動きだけ、唇を絡ませる。
白銀の方が攻めた。
1分経過。
最後にタタラの下唇を吸いながら唇でモミモミ。
タタラの足がガクガクと震えている。
白銀の唇が一瞬離れた。
タタラ「?」
タタラの両唇を軽く唇でゆっくりワンタッチ。
タタラ「あ、あぉ」カクンと気絶してしまった。
タタラをベッドに寝かせ、毛布を被せ、部屋を出た。
その後2ヶ月は、タタラの極上機嫌は治らなかったという。
白銀、婚約の報は、世界を駆けた。
勿論、お偉いさん方だけだが。
白銀に再び弱みが出来た。
しかし、その弱み相手は、冒険者歴代最強と言われるサイクロプス族、タタラ。
弱みに等なる筈もない。
むしろ強大になったと言って良いだろう。
治安監視包囲網は、益々強固になり、地元警備団にも、お偉いさん方から渇が入る。
特に政治犯罪、企業と政治癒着は厳しい目が向けられている。
北国に到着した白銀。
雪に閉ざされた門。
上から門番が降りて来た。
門番男「身分証を」
白銀「おう」
門番男「金の亀!?あ、し、失礼しました!どうぞお通り下さい!」
白銀「ん、寒い中大変だろう、ほら、ホット石、沢山入ってるから、皆に配ってやれ」
門番男「あ!うわ!こんなに!?あ、ありがとうございます!!」
白銀「おう、頑張れよ」
白銀は各地のギルドを周り、貧しい町を訪れては、大量の資金と、食べ物、使い捨て魔石を置いて行く。
教会で炊き出し。
小さな子供達が沢山食べる姿を見て、親達が握手を求めて来る。
技術も教え、炭作成、一酸化炭素中毒にならない煙突の作り方が書かれた薄い本も大量に配る。
面白くない炭、暖房魔石ギルドと、そのギルドと癒着している貴族達。
白銀は精霊と喋る事が出来る。
だから、その土地の情報は直ぐに手に入る。
夜。
単身、国の中にある、林の中、雪の上にテントを張り、寝る。
蠢く怪しい人影達。
影使いがテントの中に影を伸ばした。
影使い「は!?ぎっぐぐぐ、えっはうえええ!?〈ドサッ〉」
突然倒れた。
仲間が確認、死んでいる。
暗殺者1「何が起きた!?何故死んだ!?」
暗殺者2「解らん!影に物理は効かない筈」
暗殺者3「・・同じ影使いだったら話は違うんじゃないか?影に影を通すとか?」
テント「ほう?正解だ、ご褒美にお前を生かす係にしよう」
暗殺者達35人『!?』
テント「影使いに夜挑んだという事、どういう事か解るな?」
暗殺者達3「撤退!」
テント「出来ないんだなあ」
次の瞬間、暗殺者3を残し、全員の気配が消えた。
暗殺者3「ふ、ふ、ふ、ふ、ふ、ふ」
暗殺者3の左足が足首から下が無い。
テントから人影が出てきたのが解る。
暗殺者3「ふー、ふー、解った、もう解った、話す、どうせボスも明日には生きてない」
白銀「やはりお前は、賢いな、全部正直に話したら足治してやるよ、その代わり、俺の、金の亀のペットになれ」
暗殺者3「喜んで」
その夜。
商人ギルド、傭兵ギルド、憲兵ギルド、公爵家の城が燃えた。
翌日。
慌てている大臣達と、宰相達。
騎士団も慌てている。
金の亀が国王に会いに必ず来る。
亡国となるか、救国となるか、対応次第。
昼過ぎ。
白銀は城門の前に居た。
白銀「国王に会いに来た、金の亀会長、シルバだ、通る」
城門番達『ならぬ!!ならぬ!!』
素手で通せんぼ。
白銀「・・お前らは仕事をしているだけだ、殺しはしない、安心しろ」
城門番1「・・恩に着る」
白銀「おう、スタン」
城の土地丸ごと麻痺魔法。
国王の部屋だけは、防壁結界により、無事だった。
悠々と国王の間に到着。
鉄で出来た頑丈な扉を開けた瞬間、砲撃魔法の嵐。
鉄の扉、その周りまで、派手に爆散していく。
国王「やったか!?」
魔法使い達2人『いえ、まだです、ですが、魔力は削りました、後は宜しくお願いします』
侍女が刀を抜きながら、出口に歩いて行く。
異世界人のようだ。
侍女「お覚悟を」
〈バサア〉白銀が煙から現れた。
無傷。
侍女「そうこなければ!」
仕掛けた。
侍女の足が既に無い。
侍女「!?」
侍女は転び、回り、止まった。
起き上がれない。
侍女「ひ、卑怯者お!正々堂々立ち会えええ!!」
魔法使いニ人は見合せ、砲撃準備をー。
魔法使いが挟んでいる国王の首が突然落ちた。
魔法使い二人『!?』
白銀「王の首は落ちた、闘う意味があるか?あるなら、それは自己満足だ、国の為とかじゃない、大義でも何でもない、これを聞いても掛かって来るなら、誇りの問題だ、ただの喧嘩だ、偉そうにしたいだけの悪人に、俺は容赦しないぞ、それでも良いなら掛かって来い」
魔法使い二人は杖を投げた。
侍女「殺してやる!お前なんかもっともっと強くなって殺してやるうう!!」
白銀「うるせ」
侍女は影に一瞬にして解体された。
〈ビチャ、ドチャ、ベチャチャ〉
白銀「何で次があるって思うんだ?不思議だ」
そして、優秀な宰相が一時期、国を引き継ぐ事になった。
時期国王は、まだ10歳の息子。
その息子に圧倒的な圧力をかけ、悪人になれば、容赦はしないと言い聞かせた。
息子が漏らしたので、解放してやった。
金の亀の刺繍はまだまだ噂でしか知られていない。
タタラの父親が立ち上げたギルドであり、まだ、20年くらいしか経過していないからだ。
10年前。
タタラはまだ、冒険者をしており、その時白銀とその彼女にお世話になった。
その時は、まだ自営業をしていた白銀。
彼女は人間だった。
美しい冒険者ギルドの受付娘だったのを、白銀が告白し、付き合って居た。
だが、彼女は傭兵達に拉致られ、助けようとしたが、もう助からないとヤケを起こされ、爆弾でアジトごと自爆されてしまった。
タタラは落ち込む白銀に声を掛けたが、白銀は無表情のまま、その地を去った。
シルバというアイテムボックス商人が、世直しの旅をしているという噂を聞いてから2年後。
ある日、タタラの家に届いた新聞に、犯罪者シルバという見出し。
タタラはショックを受け、独自に再捜査。
見事、真犯人を特定するも、証拠が無かった。
そんな中、一夜にして、王城が燃え、公爵家が沢山燃えた。
あまりの出来事に、戸惑う住民達。
しかし、敵が大勢攻めて来たという気配は無い。
タタラは、直感し、王城へ走った。
騎士団最強と言われるザギルウスを殺した瞬間にタタラは駆け付けた。
タタラは白銀に戦いを挑み、軽くあしらわれ、気絶した。
その後、生き残りの大臣、騎士団の話によれば、何と、白銀の彼女を誘拐したのは、この国のトップ連中だった事。
何も後ろ立てが無いにも関わらず、偉そうにしている、ただ、それだけの理由で、白銀の彼女を拉致した事。
冒険者ギルドのランクS、不滅の牙が依頼を引き受け、傭兵、盗賊ギルドを下請けに宿していた事。
それを国王の前でペラペラ宰相が喋った後、国王までも殺そうとした事。
王城に放火したのは宰相の企てだった。
全ての罪を白銀に押し付ける為に。
ザギルウスは面白そうだと、全てを知っていながら黙認した事。
ザギルウスの実力、立場なら、止められた筈だった。
力がある者には、その力を行使する義務がある。
ザギルウスはその義務を怠ったのだ。
白銀がザギルウスを殺すのも、無理はなかった。
国王を救った英雄として、白銀は栄誉賞を貰い、再びタタラに出逢った。
タタラ「・・あの!、ごめんなさい!」
白銀「気にするな、お前は力の義務を果たしただけだ」
タタラ「あの!」
白銀「ん?」
タタラ「金の亀に入ってくれませんか?」
現在。
タタラと離れてから3年後。
結婚式を挙げた。
タタラ「・・」
白銀がベールを上げる。
一つしかない大きな瞳が青色から、ピンクに点滅している。
各国から集う冒険者、商人、村人、騎士団達。
勿論各国の王族達も、特別席で見守る。
白銀の両親は既に居ない。
タタラの両親は直ぐ近くのテーブルで泣いている。
タタラ「・・」
白銀「・・」
キスをした姿と同時に大歓声が上がり、ラッパと、太鼓、シンバルの音が鳴り響く。
待機していた様々な楽器達が演奏を始め、空には竜達が並列低空飛行。
竜達から花吹雪が舞う。
タタラ「うわあ・・あなた顔広過ぎ、こんなの、国同士結婚したとしても無理よ?私お姫様じゃないのに」
白銀「結婚式の事、誰にも言ってないんだがなあ・・」
タタラ「貴方が世界を変えたのね」
白銀「違う、俺は種を植えただけだ」
タタラ「・・ねえ、今夜は良いでしょ?」
白銀「ん?何の事?」
タタラ「んもー」
白銀「アハハハハ」
白銀の子供っぽい笑顔。
タタラ「えい!〈グイ〉」
白銀「んむ!?〈チュ〉」
《END》