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チュートリアル終了。 

 痛い、苦しい……誰か助けてくれ……声すら出す事が出来ない……



 何て情けない姿だ……

 俺は魔王だと言うのに、自らを抱きかかえ、地に伏し、もがき苦しんでいる。



 チュートリアル?

 これが?

 話が違う!



 勇者が強すぎだろ!



 HPも残り僅かしか残っていない。

 怖い……



 あの雷に打たれた瞬間、ありえない程の痛みが全身を駆け抜けた。



 攻撃を受けている間、体の細胞全てが強靭な糸で、縫い合わされたように動かなくなり、激しい激痛から逃げ出そうとしているみたいに、筋肉が勝手に俺から離れようと、激しく身体を揺さぶり続けていた!



 あんなのは二度とごめんだ。

 どうすれば――どうすればこの戦いを終わる事が出来るんだ……



 「さすがね!

  ラケシス、もう一息よ!

  頑張って!

  ナビゲーター!」



 ナビゲーター?

 そうだ!

 ラフナはどうしている?



 ラフナがもう一人の男を倒して、こっちの戦闘に加われば……

 俺は後方から安全に戦う事が出来る!



 重い身体を起こし、朦朧(もうろう)とする意識の中、ラフナの方へ視線を向ける。



  「くっ――ラフナ……

   お前も負けてるじゃないか……」



 視線の先にはボロボロにされたラフナが横たわっていた。

 目が(かす)んでいる為、生死までは分からない……



 ただ、あれはもう動かない……



 初戦でゲームオーバーか。

 やっぱりクソゲーだったな。



 勇者は余裕を見せているのか、中々止めを刺しに来ない。

 そのお陰で少し冷静さを取り戻せた。



 ナビゲーター?

 そう口にしたのは勇者だった。



 あの男が勇者のナビゲーター?

 だとすれば、勇者は……



 あの教室に居た誰か――なのか?



 そうだとしたら――どうなんだ!?

 分からない?



 いや、理解したくない!



 胸をモヤモヤした何かが締め付ける……

 ゲームじゃ――なかったのか?



 「勇者、ナビゲーターと言ったな――

  名前を聞かせてくれ……」



 声が枯れているが、何とか伝わっただろう。

 勇者が言葉を口にするのを俺は待った。



 その間、俺の知らない誰かであってくれと必死に願っていた……

 時間にすると一瞬だったはず。



 勇者の口が開く。



 「私の名前はラブラ・ドール!

  それ以上は言えないわ!」



 勇者は名乗った。

 しかし、その言葉はおかしい。



 それ以上は言えないって事は、それ以上の何かがある。


 

 「私はあなたを――ラケシス!」



 真相に辿り着く間も無く、俺の胸を男の剣が貫いた。

 HPはもう殆ど無い。



 だが俺は、痛みよりも先に自分のスキルの事が頭を(よぎ)った。



 【魔狼開放】

 俺のHPが尽きると勝手に発動し、潜在する魔狼の力を解放する事により、魔狼の姿へと変わる。


 全てのステータスが大幅に向上し、スキルも強化され、専用スキルも得られる。

 ただし、レベルの低い魔王ではその力を制御する事が出来ない。



 俺の頭の中で何かが繋がっていく。

 これがこのゲーム、いや、この世界の裏側で俺達をあざ笑う奴の目論見(もくろみ)か!



 血反吐を吐きながら俺は、突き刺した剣を引き抜いた男に叫ぶ!



 「待て、俺に止めを刺す……な……」



 しかし、もう何もかもが手遅れだった。



 「往生際が悪い。

  止めだ!

  魔王!」



 あっけなく俺は首を跳ねられ、電源の切れたモニター見たいに、目の前を闇が覆った。

 俺の意志とは無関係に、閉じられた目が開く……



 俺の首を跳ねた男……

 いや、こいつ女だったのか。

 何故かは分からないが、匂いでそれが分かってしまう。



 そして、目の前いっぱいにその女の顔がクローズアップされたと思ったら……



 生暖かい感触が口いっぱいに広がる……

 それと同時に満たされていく。



 すごくいい気分がいい。



 だが違う!

 そんなの俺じゃない!



 俺は勇者を見つめ、御馳走とばかりに舌なめずりする。

 ゆっくりと歩み寄る。



 駄目だ!



 駄目に決まっているだろ!

 止めてくれ!



 勇者は背を向け、振り返る事無く出口へと走り出した。



 そうだ!

 逃げればいい!

 逃げれば……どうした?



 俺から逃げる勇者が反転して戻ってくる。



 どうした!

 何故逃げない!



 何かを思い出したかの様にはっとした顔を見せた勇者は、また背を向けて逃走する。

 しかし、勇者は再び俺の前へと戻ってくる……



 挙句の果てには杖を構え、戦う意思を見せ始めた。

 どうして!?

 


 勝てるわけないんだ!

 逃げてくれ!!



 心の中で何を叫んでも相手には伝わらない。

 そして俺の意志とは無関係に体は勝手に動いてしまう……



∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


名称:アムルタット=バンデット レベル:10


種族:魔王 種族レベル:8


HP :29800/29800


MP :48900/48900


攻撃 :3990


防御 :3750


魔力 :7300


敏捷 :2200



耐性


【物理ダメージ軽減(大)】【魔法ダメージ軽減(大)】【状態異常無効】【痛覚無効】【ノックバック無効】【スタン無効】



種族スキル


【フィジカルペネトレート(大)】【絶望の魔眼】【属性ダメージ強化(大)】【HP自動回復(大)】【MP自動回復(大)】【ブラッドイーター】【ジエンドオブデスティニー】



通常スキル


【テレパシー】【ショートテレポート】【ブラッディスラッシュ】【魔狼の咆哮】【ブルータライズストレングス】



魔法


【ダークエクスプロージョン】【ダークフレイム】【ダークネスヴェール】【マインドディストラクション】




称号


【魔王】【魔狼】


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽



 僅かな期待を胸にステータスを覗いた……



 なんだ……これ?

 ステータスの値が五十倍以上になっている。

 その上スキルや魔法も強化されている……



 ステータスを覗き、勇者が逃走を諦めた理由が判明した。



 【ジエンドオブデスティニー】

 逃走を完全に阻害するスキル。



 俺は勝手に動く自分の身体に(あらが)う事も出来ず、ただ傍観(ぼうかん)する事しか出来なかった。

 立ち向かって来る勇者を軽くあしらい、ジワリジワリと追い詰めて行く様を。



 その度に押し寄せて来る幸福感に嫌気が指し、早く止めを刺してやれと願った。



 やがて勇者はMPも尽き、片腕を食われ、足も折られた。

 俺はその勇者を片腕で持ち上げ、ペロリと顔を舐める。



 「そう、ゆっくりと(なぶ)り殺すつもりなのね。

  もう十分楽しめたかしら?」



 ここまでされたにも関わらず、勇者の声は落ち着いていた。

 


 「よく、聞きなさい。

  私はあなたの事を信じているわ。

  ここで私を殺す事を誰かに仕組まれた罠なのだと確信を持っている!」



 この感じ……こんな風に話しかけてくるのは先生だ!

 先生はこんな俺の事を……



 視界から先生の顔が消える。



 やめろ! やめろ! 止めてくれ!




 胸の奥底から何度もそう叫んだ!

 


 「強く生きなさい」



 それが先生の最後の言葉だった……

 口に残る温かさ、勇者を倒した事で得られた幸福感は凄まじいものだった。



 これ程の喜びは無いのだろうと言うくらいの充実感。



 そして、それを覆す程の怒りと憎しみ、自分への不甲斐なさでどうにかなりそうだった……

 しばらくして身体を動かせる様になると、俺は玉座に座り込み、項垂(うなだ)れた。



 横たわるラフナを起こす気にもなれず、ただ茫然(ぼうぜん)と玉座に座り、目を閉じた。






 ◇



 誰かの声が聞こえる。

 眠っていたのか?



 俺は先生を殺したのか?

 先生はどうなった?

 


 『恐ろしい魔王に勇者が殺されました』



 うるさい……



 微睡(まどろみ)の中で、誰かが俺を呼ぶ……



 この声は……



 「――きて」



 「朝よ、起きて」



 母さんの声を聞き、はっとして目が覚めた!


 

 「か――母さん!?」

 「何よ?

  汗までかいて。

  怖い夢でも見たの?」

 「ゆ……夢?」



 「朝ごはん出来てるから、着替えたら下りて来なさい。

  今日学校お休みになったから制服と間違えちゃ駄目よ!」



 学校が休み……良かった。

 あんな夢を見た後じゃどんな顔で皆に会えば良いのか分からない。



 適当な服を選んで、食卓に着く。

 母さんは食べ終わっていて、父さんも仕事に出掛けた後か。

 時計の針は九時を回っている。



 最悪な夢だったが、よく眠れたようだ。

 


 「母さん、何で今日学校休みになったの?」

 「珍しく警察の人が沢山来ててね。

  事情は知らないけど騒ぎになっているの。

  学校からは今日は危険だから外には出ない様にって連絡があったから、お買い物もお父さんに任せたわ」



 「そう――なんだ」



 朝食を済ませた俺は、自分の部屋に戻って携帯を覗く。

 石田さんからメッセージが届いている。


 ≪話したい事があるの。

  今すぐ会いたい。

  お姉ちゃんが魔王に殺された。≫

 

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