戦闘イベント開始
遅い……戦闘イベントはまだ始まらないのか?
あれから既に二日経つが、何の音沙汰も無い。
「ルフナ。
勇者はまだ来ないのか?」
「ラフナです!
モンスター達からの情報によれば、森を抜け何者かがこの城に向かって来ている様です!
勇者に違いないでしょう!」
やっとか、出迎える準備は整えている。
後は森を抜けて来た勇者がこの玉座の間に着くのを待つだけだ。
それにしても、この玉座の間……灰色一色で飾り気がない。
「ラフナ、この部屋は少し殺風景じゃないか?」
「そ――そうでしょうか?」
「そうだな、少し華やかにしてみるか」
「華やかに!
アムルタット様はやはり素晴らしい魔王様です!」
なんだ?
ただ部屋を少し華やかにしたいと言っただけだが、ラフナは涙を流し始めたぞ?
いくら魔王である俺に従っているとは言え、これは大袈裟だな。
過度な感情表現は見ていて萎える。
そういえば、気になったついでだが、ラフナの見た目は、特徴的な瞳以外は人間とほぼ同じだ。
人間を滅ぼしたいと思っているのは、魔王の側近だからと理解出来る。
それじゃあ、種族はなんだ?
俺の種族は魔王。
それならラグナは、ナビゲーターって種族なのかもしれない。
もしくは、魔族とかか?
目の前にいるし、聞いて見るか。
「ラフナ、お前は何故人間を滅ぼしたいと思うのだ?」
「この世界を蝕む害悪を生かしておく理由がありません!」
「そうか、では、ラフナは人間に近い外見をしているが、何という種族なのだ?」
「え?」
「ん?
どうした?」
「言わなきゃいけませんか?」
眉間にしわがより、物凄い嫌そうな顔をしている……
人間に近い外見とか言ったから怒っているのか?
もしくは、それ程自分の種族を明かすのが嫌と言う事か?
「言えない理由があるのか?
それなら――」
「意地悪するの止めて下さい!」
「ああ……ごめん」
急に怒った声を上げたから、謝ってしまった。
それに、なんか胸にグサっと来たな……
別に悪い事をしたつもりは無いが……
何が気に障ったんだ?
改めてラフナ見直すと、物凄い美少女だな。
この世界は作り物だろうし、探せば美人なお姉さんも沢山いるかもしれない。
見た目は少女だが、スタイルも良くて近づくと甘い良い匂いがする。
服装については詳しくは無いが、ゴスロリって言うんだったか?
いや、ちょっとチャイナドレスっぽくもある……
女性の服装についてはよく知らないからいいとして、戦闘スタイルはどうなんだ?
俺は剣を持っているが、ラフナは武器らしきものは何も持っていない?
魔法を使うにしても、杖やロッドみたいな武器があるんじゃないのか?
もうすぐ勇者が乗り込んで来る。
聞いておきたいが、さっき怒らせたばかりで直接は聞きづらいな。
遠回しに確認だけとっておくか。
「無粋な事を聞いて悪かった。
間も無く勇者が乗り込んで来るのだろう?
準備は整っているのか?」
「問題ありません!」
「そ――そうか」
問題無いと言うのであれば、そういう事なのだろう。
そんな事よりも、自分の心構えをしっかりしておく必要があるな。
ゲームと言っても、モンスターはリアル。
人間もラフナを見る限り現実と変わらない。
柳先輩と喧嘩した事はあったが、知らない人間相手だとさすがに怖い。
俺は魔王で、相手は勇者。
本当に殺す気で挑んで来るとなると、最低限の覚悟は決めなければならない。
手筈は整っている。
チュートリアルとはいえ、勇者は大義名分を掲げてここに攻め入ってくる。
モンスター達を消し、いきなり出迎えてやっても良かったが、魔王としての体裁と言うものもあるだろう。
勇者を出迎える為に、城には新たに作ったモンスター達を配置している。
◆
【シャドウウルフ】
影を纏った狼のモンスター。
鋭い牙を持ち、強靭な顎で獲物をかみ砕く。
低位のモンスターの中では賢く、スキル【シャドウブレス】で攻撃をしながら影に身を隠し、死角から攻撃をする。
【ゴースト】
実態を持たないアンデットモンスター。
物理的な攻撃手段を持たないが、精神攻撃で相手を混乱させる。
自我は無く、生者を見つけると攻撃を仕掛ける。
【インスタントゴーレム】
指定された地域を徘徊し、侵入者を迎撃するモンスター。
MPが少なく、魔法を打ち切るとその場で崩れ去り、消滅する。
【ジャッカロープ】
角の生えた兎で、幻影を作り出す魔法を使う。
縄張り意識が高く、縄張りに侵入する者を威嚇し、攻撃をする。
◆
低位モンスターなので戦力としては心元無いが、一応この城以外で勝手に出現しない様には設定してある。
雑魚とは言え、ここに来て初めて見るモンスターに、勇者も少しは楽しめるだろう。
ステータスを確認――よし、レベルが上がっているな。
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名称:アムルタット=バンデット レベル:6
種族:魔王 種族レベル:3
HP :620/620
MP :860/860
攻撃 :79
防御 :55
魔力 :120
敏捷 :43
耐性
【物理ダメージ軽減(小)】【魔法ダメージ軽減(小)】【状態異常無効】
種族スキル
【クリエイトモンスター(低位)】【低位モンスター召喚】【クリエイトアイテム】【マジカルペネトレート(小)】【フィジカルペネトレート(小)】【人魔の剣】【恐怖の魔眼】【属性ダメージ強化(小)】【HP自動回復(小)】【MP自動回復(小)】【魔狼開放】
通常スキル
【テレパシー】【ショートテレポート】【ブラッディスラッシュ】
魔法
【ショックウェーブ】【ダークアロー】【シャドウミスト】【ダークスピア】【マインドディストーション】
称号
【魔王】
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新しく得たスキルの確認をしておこう。
【人魔の剣】は剣で戦う場合に身体能力が向上するスキルの様だ。
その他にも相手の攻撃を先読みしやすくなったりするらしいが、剣で戦った事など無いので、それ程役には立ちそうに無い。
チュートリアルが終われば時間も出来るだろうし、剣で戦う練習も取り組みたい。
【恐怖の魔眼】は敵対する者に視線を向けると、プレッシャーを与え、恐怖心を抱かせる。
勇者相手には効果は期待できそうに無いが、仲間を連れて来たりした場合に有効か?
【属性ダメージ強化(小)】はそのままの意味で、俺の場合は闇属性の強化と言う事になる。
【ブラッディスラッシュ】は、一定時間のあいだ、剣による攻撃力を強化し、相手に与えたダメージの半分を自分のHPにする事が出来る。
【シャドウミスト】【ダークスピア】は闇属性による攻撃魔法で、シャドウミストは自分の周囲を闇属性の霧で覆い、その霧と同化して姿を隠す事も出来る。
【マインドディストーション】は精神攻撃で、相手の思考を混乱させる魔法。
大体こんなところか。
レベルはラフナが村を攻めた事や、モンスターの手によって人間が襲われたりすれば経験値が入ってくる仕様と確認は取れている。
ゲームとは言え、魔王として生きる事は、はたして良い事なのだろうか?
精神衛生上よく無いのでは無いだろうか……
まあいい、まずは目前に迫る勇者を倒すとしよう。
考えるならその後でいい。
「アムルタット様。
お気をつけ下さい!
間も無く勇者共が現れます!」
「案ずるな。
用意は出来ている」
深々と玉座に腰かけ、足を組みをし、魔王らしく勇者を出迎えよう。
高鳴る心音を無理やり抑え、深く呼吸をして心を落ち着かせる。
喉がカラカラだ。
さすがに緊張するな。
なぜなら俺を殺しに来る奴等を、もうすぐ迎え撃たなければならない。
廊下を歩く足音が聞こえてくる。
もうすぐそこまで来ている……
俺は魔王なのだ!
心の中でそう言い聞かせ、意識を全て目前に迫る勇者へと向ける。
そして、扉は開かれた。
中に入って来たのは二人。
青いローブを身に纏った女と、騎士風の男だ。
二人共汚れてはいないが、戦いによって生地や防具などに綻びが見える。
見た目は普通だな。
これはチュートリアルだ、落ち着いて対処しよう。
油断はしないが、警戒などする必要も無い。
魔王らしく振る舞い、軽く捻りつぶしてやる。
「待ちわびたぞ。
よくぞ我が前に現れた勇者よ。
人間を滅ぼし、人間として生まれた事を呪うがいい。
せめてもの情けに、魔王である俺、自らが絶望と苦痛を与えてやろう。
さあ、抗う事無くその首を差し出せ」
「魔王!
あなたの好きにはさせない。
必ずあなたを止めて見せる!」
女の方が食いついて来た所を見ると、こっちが勇者なのか?
俺は立ち上がり剣を構える。
「我が力を存分に味わうがいい。
死に魅入られた者共よ」
ついに勇者との戦闘が始まった。