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side 石田先生 ラブラ・ドール イダルの街

 夜中にモンスター達が襲って来るような事は無かったけど……

 周囲の様子が変わった?



 朝になって、霧が出ているからそう感じるだけかもしれない。

 イダルの村に向けて歩き始めると、徐々に霧が濃くなってくる。



 「ねえ、ラケシスはこの辺りの事って詳しいの?」

 「私も土地勘があると言う訳では無い。

  なんとも言えないが、少なくとも、道に迷う事はない」



 「そう、この霧ってお昼には晴れるよね?」

 「晴れるといいな」



 幸い視界はある程度確保出来ているので、問題無く進む事が出来る。

 モンスターも倒しておきたいし、目を凝らして周囲を見ていると、人影の様なものが見えた。



 「ラケシス、人影かな?

  そこに何か居たように見えたけど」

 「確かに気配を感じる。

  近づいて確かめてみよう」



 影を見た方へ行ってみると、そこには男女のカップルが抱き合っていた!?

 こんな霧の深い日に朝っぱらから何を!

 と思っては見たものの、様子がおかしいので声を掛けて見る。



 「ねえ、大丈夫?

  彼女さん顔色が悪いみたいだけど」

 「村が、イダルの村が魔王軍に襲われた。

  俺達はもう駄目みたいだ。

  あんた達は逃げて魔王が現れたと世界中に伝えてくれ」



 「もう駄目みたいって、動けるのならあなた達も逃げた方がいいんじゃないの?」



 「わ――わたし、もう、タスカラナイ」

 「しゃべらなくていいよ、アンジェリーナ。

  僕達はずっと一緒だから」


 

 赤い服を着ていると思っていたけど、よく見るとアンジェリーナと呼ばれた女性の腹部からは大量の血が流れ出ていた。


 

 「意識があるなら助かるわ!

  傷を癒す魔法を使えるの」

 「駄目だ……彼女はもう、死んでいるんだ」



 「どういう事?」

 「村の奴等が殺された後、次々に蘇って来たんだ。

  そしてそのまま魔王軍の仲間に……

  アンジェリーナはゾンビにされちまったのさ。


  もうじき僕の事も食べようとするかもしれない。

  それでも僕は最後まで彼女と一緒にいるつもりだ」

 


 これが映画館だったら感動出来たのかもしれない。

 けど、これは現実。


 

 何をどうすればいいのか……



 「アイシ……テル、ニゲ、テ。

  オ、ネガイ、コノヒトヲ、ツレテッテ」


 「ねえ、彼女はあなたに生きていて欲しいみたいだけど、あなたはどうするつもり?」

 「僕はアンジェリーナと一緒にいる!」



 「勝手な人ね。

  そんな気持ち押し付けられたって彼女は嬉しくないでしょ」

 「うるさい!

  僕にとってアンジェリーナは全てなんだ!

  放って置いてくれ!」



 「ア、アア――ア」

 「大きな声を出してごめんよアンジェリーナ。

  僕を食べたいのかい?

  痛くても我慢するよ。

  さあ、お食べ」



 「アアア……イ、ヤ……ネ、ガイ、イキテ」

 「プリフィケーション」



 アンジェリーナの魂が、呪われた肉体から解放され、天へと昇って行くのが見えた。

 魂が見えるのね。

 これが霊能者の力か……



 「アンジェリーナ?

  アンジェリーナ!!

  おい!

  お前何をしたんだ!」

 「浄化の魔法で魂を解放したの」



 「そんな……

  この――人殺し!」

 

 ラケシスは激高して「いい加減にしろ!」と叫び声を上げて、この男の人を殴り飛ばす。



 「アンジェリーナ……アンジェリーナ……」



 消え入りそうな声でアンジェリーナを呼び続け、(すす)り泣くこの男の人はどうしよう。

 仕方が無い、当人同士で決めて貰うか。



 「彼女の声を聞きなさい」



 アンジェリーナに呼びかけると彼女の声が私に届いた。



 「私はフィリオに生きて居て欲しいの」

 「どうして僕の名前を……」



 「私はアンジェリーナよ。

  あなたからもらった指輪に掘った言葉も言える。

  僕の物語って言葉だったよね」

 「そうさ、アンジェリーナと出会って、初めて僕の人生は動き出したんだ。

  ああ! アンジェリーナ」


 

 いきなり私に抱き着いて来たフィリオを、ラケシスが引きはがし、投げ飛ばす。

 


 「何をするんだ!

  僕のアンジェリーナ!

  ずっと一緒に居よう」

 「フィリオ、この人の体は私の体じゃないの。

  私はもう死んだわ。

  ちゃんと私の死に向き合って」



 「そんな……アンジェリーナの居ない世界で、生きていけるわけない。

  どっちでもいいから今すぐ僕を殺してくれ」

 「フィリオ、私はあなたに生きて居て欲しいの」



 「どうして?

  どうして僕と一緒に旅立ってくれない?

  ずっと一緒にいるって約束したじゃないか」

 「ずっと一緒よ。

  ずっと近くでフィリオの事を見守ってるから」



 「それじゃあ、これから僕はどうすればいいんだ……」

 「かっこいい所いっぱい見せて!

  いつまでもかっこいいフィリオを見て居たいから」



 「……君達はこれからどうするんだ?」

 「……ラブラ殿?

  まだアンジェリーナでいる様だな。

  勇者であるラブラ殿と共に、魔王を倒しに行く。

  その為にここへ来た」



 「勇者か、凄いな。

  僕はアンジェリーナの仇を打ちたい。

  けど、僕が行って役立つとは思えない。


  魔王が復活した事を知らない人も沢山いる。

  僕はそれを伝えに行く!

  アンジェリーナ、安らかにお眠り、僕は君にとってかっこいい僕でいつづける!」



 「ありがとう。

  ずっと傍にいるから……さようなら」

 「ああ、さようなら」



 ふう、結構疲れるな。

 フィリオも立ち直った様だし、一件落着ってとこかな。



 フィリオに別れを告げ、私達はイダルの村へとやって来た。

 すごい腐臭、それにゾンビやスケルトン。

 巨大な石のゴーレムに木のお化けまで居る。



 まずはアンデッドモンスターから浄化して、倒していく。

 遠くにいるモンスターはホーリーアローで攻撃して、近くを彷徨っているモンスター達はプリフィケーションで浄化していく。



 ゾンビや腐敗した犬、そして、スケルトンは問題無く一撃で倒す事が出来た。

 来ている服を見ると、村の人だったゾンビもいたようね。



 胸糞悪い。



 これがゲームだったら、大きな蛙や空飛ぶ兎よりも経験値も豊富で爽快だったんだろうけど、村の人達が皆殺しにされている現実を見て嫌な気分になる。



 アンデッドモンスター達を一掃すると、徐々に霧が晴れて来る。

 後は、ゴーレムと木のお化けか。



 木のお化けは見るからに火に弱そう……



 「ラケシス、炎の魔法とか使えない?」

 「昨日あれだけ時間を掛けて火を起こしているのを見ただろう。

  そんな便利な魔法が使えるならあの時に使っている」



 「そうよね……仕方ない。

  私が援護するから好きにやっちゃって」

 「承知した」



 ラケシスの剣の腕は素人の私が見ても分かるくらい凄い。

 細かい事までは分からないけど、無駄な動きをしないし、美しいって思えるから。

 そこに私の補助魔法とスキルがあれば鬼に金棒!



 でも、さすがに石のゴーレムや木のお化けに剣で攻撃が通るとは思えない。

 私もホーリーアローで援護しながら一緒に戦う。



 ラケシスがモンスターを惹きつけてくれているから私は安全だし、ラケシスもモンスター達を翻弄する様な動きで、攻撃を躱しながら、反撃もしている。



 そして、上手く同士討ちを誘って、残り一体にまで追い込んだ。

 私のホーリーアローの集中砲火と、ラケシスの攻撃でその一体もしばらくして倒す事が出来た。



 「モンスターの気配はもうない様子、このまま先を急ぐか?」

 「ちょっと待ってね」



 死んだ村の人達の言葉を聞くと、女の子が魔王軍を率いてやって来たみたい。

 その女の子は、大きなモンスターで村を囲い、一人ひとりゾンビ化して行く様を、楽しそうに眺めながら鼻歌を口ずさんでいた。


 

 逃げ出した村人は、足の速い腐食した犬に追いかけられて神殺され、最後に残ったのがアンジェリーナ達。



 一人だけゾンビ化させ、フィリオの(なげ)き苦しむ様を眺めた後、何もせずに帰って行ってしまったみたい。



 酷い事をする……



 「ラケシス、ここで食事をしましょう」

 「ラブラ殿……いくら勇者とは言え、火事場泥棒をするのは見過ごせない」



 「大丈夫よ。

  家主にはちゃんと許可を貰ったわ。

  皆優しいしからちゃんと準備していけってうるさいけど」

 「そう言う事なら頂いて行こう」



 村人達の霊に聞いて、色々な食料を分けて貰った。

 食欲なんて湧かないけど、この人達の為にも、無理やり口に入れて空腹を満たした。



 村長の家に良い剣と防具があるかもしれないからと教えて貰ったので、それを譲ってもらう。



 「どう?

  使えそう?」

 「ああ、良い剣だ。

  手入れもされている」



 「私もいい杖があったから譲ってもらったわ」

 「防具は今、身に着けている物の方が質は高い様だ」

 「私もそう。

  それじゃあ、このまま魔王の城へ向かいましょう」



 「いや、今日は村に泊まり、日が沈むまでこの辺りでモンスターを狩る。

  その後この村で一晩休み、夜明けと共に城へ向かった方が良いだろう」

 「んー……そうね。

  モンスターを倒しながらだと日が暮れてしまいそうだし、その方が賢明か」

 


 ラケシスの提案に従い、周囲を探索しながらモンスターを狩続けた。

 村人の霊も協力してくれて索敵が捗り、結果的に効率的な狩が出来た為、日が沈むまでの間に、いっきにレベルを上げる事に成功。



 それにしても、ゴブリンか……新たに見かけたモンスターだけど、あれが他の街に出没する様になれば大変な事になる。



 速く魔王をなんとかしなければと、焦る気持ちを抑え、ラケシスと共に村長の家で眠りについた。

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