side 石田先生 ラブラ・ドール 突きつけられた使命
石田先生視点のお話です。
ここは……?
気が付くと私は、見慣れないヨーロッパ風の街に佇んでいた。
日直の瑞希が号令をかけた後、急に眩暈がして身体が震えたと思ったらここに立っていた。
夢?
――違う。
意識がはっきりしているし、風も匂いも感じる。
それにしても、見かける人はみんな外人さんね。
道行く人々や街並みから察するに、それ程大きな街では無さそうだけど……
まさか、と思い、自分の容姿が変わっている事を確認する。
嘘でしょ?
こんな事、物語や小説の中だけかと思ってたけど……
「痛たたっ」
自分の頬を抓りながら、異世界で外見の変わった自分を認識し、歩き始めると、誰かが私の肩を叩いた。
「勇者殿、お待ちしておりました。
私はあなたのナビゲーターのラケシスと言う」
振り返ると声を掛けて来たのは、思わず胸が時めく程の美青年!
中性的な顔立ちに、金色の髪をした長身で騎士風の服を着た男性……
いや、男装をした女性!?
どうしよう!
このままじゃ私、禁断の恋に陥ってしまう!
その為に私はこの世界に転生してしまったのだろうか!?
否!
落ち着け私……
フラグはまだだ!
ってそんな事じゃない!
この人は私を勇者と呼んだ。
勇者と言えば魔王!
それなら、魔王と戦う事が使命なのかもしれない!
いいえ、そうに違いない!
例え、目くるめく恋に花を咲かせようとも、名目の上では勇者!
なら、建前とは言え、魔王討伐をしなくてはならない!
ラケシスは女の子だけど、異世界ならありね!
好印象を与えつつ、それっぽく振る舞わないと!
せっかく異世界に転生したんだし、勇者としてのロールプレイも楽しまなきゃね。
「君が私のナビゲーターか。
これから宜しく頼む。
早速だが、魔王の居城は突き止めているのかい?」
「既に魔王の存在を存じているとは恐れ入る。
聡明な勇者殿に会えて頼もしい限りだ。
魔王の居城についてだが、怪しい城がこの近くに出現した事を確認している。
魔王はモンスターを操り、世界を滅ぼす……
当然だが、魔王本人も強大な力を持っていると言う話しだ。
しかし、出現したばかりの魔王であれば、大した力を持っていないかもしれない。
私であれば今すぐにでもあの怪しい城に向かっても良いのだが、勇者殿はどうされる?」
え?
魔王の城、近くにあるの?
さすがに本物じゃないでしょ?
この世界の事も何も知らないし、いきなり行くのはさすがにまずい気がする……
勇者って呼ばれてるくらいだし、特別な力はあるはずだけど……
それに魔法なんかもあるかもしれない。
魔王を倒しに行くにしても、この世界で生き延びる為に、必要な知識は集めておかないと!
「怪しいお城に行くのは少し待って。
魔王が居るのかもしれないのなら尚更!
ラケシス、この世界の知識を教えて!」
「勇者殿はやはり聡明だな。
それでは、私に与えられた知識を纏めて伝えよう」
涼し気な微笑を浮かべてラケシスは、快く語り掛けて来る。
もうこれが私の運命の出会いで構わないわ。
高鳴る鼓動を抑えつつ、話の内容は聞き逃さない様に、しっかりと意識を向ける。
そして、私が得た知識。
まずはステータス。
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名称:ラブラ・ドール レベル:1
種族:人間 種族レベル:1
HP :14/14
MP :23/23
攻撃 :5
防御 :2
魔力 :6
敏捷 :3
耐性
【精神属性軽減(微)】
種族スキル
【霊感】【アストラルギフト】
通常スキル
【スピリッツリープ】
魔法
【マジカルガード】【プリフィケイション】【ホーリーアロー】
称号
【勇者】【霊能者】
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我ながら完璧な名前である!
私は犬好きである。
そして、ラブ=愛!
ドール=人形
私はこの世界で、愛の傀儡となり、平和を齎す!
いい加減ステータスに注目するかぁ。
基本ステータスはもの凄く弱く見えるけど、比較すれば攻撃と魔力とMPが高めかぁ。
【スピリッツリープ】は私の生霊を残して、その場から回避するスキル。
【アストラルギフト】は常時発動型のスキルで、自分を含めた周囲の味方のHPとMPを持続的に回復させる!
このスキルがあれば、MP不足の心配もいらないし、少し休めばHPも回復する事が出来る。
大袈裟かもしれないけどチートスキルって奴かな?
【マジカルガード】は相手の魔法攻撃から身を守り、ダメージを軽減させる魔法。
【プリフィケイション】はアンデッドや霊的な存在に効果的な攻撃魔法として使えて、更に自信や味方を清潔に保つ効果もあるみたい。
【ホーリーアロー】は聖なる力の矢を放ち攻撃をする魔法か……
勇者と言っても後方支援型か。
レベルを上げれば攻撃魔法が増えるかも知れないけど、私一人じゃ魔王は倒せそうにないかな?
でも、きっと大丈夫!
見るからに剣で戦ってくれそうな、ラケシスを支援して戦えばいいんだから!
それにしても――霊能者か。
意識を向けて性能を確かめて見ると、スキルの霊能を使えば死者の声を聞く事が出来る。
他にも、私の身体に降霊させて直接誰かと会話させる事も出来るのね。
これだけなら普通の能力。
でも……それとは別に、魔王に殺された勇者の声を、元の世界で聞く事が出来る……
この世界では無く、元の世界?
わざわざ分けて書かれているって事は、勇者が魔王に殺された場合に特別な意味のある能力……
更に、殺された勇者は私に対して嘘を付く事が出来ない。
質問に対して沈黙する事も出来ない。
ただし、魔王の事に関しては聞き出す事が出来ない。
この意味を考えると、勇者は私以外にも複数いる?
話を聞く事によって何らかの情報が得られる?
ああ、ダメダメ……嫌な気分になって来た。
この情報だけ見ても、悪い予感が胸の中で広がってざわついている。
冷静に――もっと分析しなきゃ……
魔王に殺された勇者が私に嘘を吐く。
質問に答えない。
魔王の事を話す。
これによって不都合が生じるから出来ないと考えると……
真実を把握出来る。
魔王の事は話せないけど、自分の事を伝える事は出来る。
そして私が質問して強制的に答えさせる事も出来る。
それってやっぱり……
元の世界で、誰が魔王に殺されたのか分かると言う事?
能力の性質から勇者が複数いる……それに、心当たりがある。
そして、誰が殺されたのかを確かめる事の意味。
誰が魔王なのかと言う推理が出来る。
いやいや……考えすぎ!
そうよ、あの子たちが殺し合いなんて……
それに、魔王の正体が掴めた所でどんな意味があるの?
魔王もあの子達の誰かだとしたら?
さっきまでの私みたいに、自分一人で転生しているのだと思っていたら?
ナビゲーター!
ステータス!
スキル!
魔法!!
どれもゲーム見たいで楽しそうじゃない!
あの子達皆遊ぶのが大好きなの!
急がなきゃ、急がなきゃ、急がなきゃ、止めなきゃ!!!
先生の私があの子達を守ってあげなきゃ!
「ラケシス!
今すぐ城に乗り込む!
でも、見かけたモンスターは全て狩って行く!」
「承知した。
しかし全てのモンスターを狩って行くとなると時間が掛かりそうだ。
食料の調達の為、資金を稼ぎ、準備する必要がある」
「そんな時間は無いわ!
食料なら現地調達で賄える!
急ぎましょう!」
ストックは有りませんがマイペースに更新していくつもりです。
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