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チュートリアル② 異世界《フィレント》

 「魔王様? 魔王様??」


 ふと我に返ると、執拗(しつよう)にラフナが俺を呼ぶ。

 


 「待ってくれ、状況を整理している。

  なんなんだここは……」

 「ここですか?

  ここは魔王様のお城です!」

 


 「それは分かる。

  どういう状況――っと言うか、なぜ俺が魔王なんだ?」

 「魔王様は魔王様です!

  ちゅーとりあるを始めますか?」



 チュートリアル?

 ゲームみたいだな。

 状況は飲み込めないが、とりあえずチュートリアルを受けて見るか。


 

 「わかった、頼む」

 「この世界フィレントは、三百年に一度、魔王様とその対となる勇者共が生まれ、両者は世界の覇権を掛けて戦うのです!」



 「そうか、なぜ両者は協力をしない?

  お互い力を持っているのなら話し合い、両者で世界を統治した方が――」

 「そんな事!

  出来るはずも御座いません!

  人間である勇者共と手を組むなどと――その様な事をお考えになられるのですか?」



 急に声が大きくなったな。

 俺の言葉を(さえぎ)り、怒りの声を上げたラフナは瞳を(うる)ませ、上目遣いで見上げて来る。



 良く出来ているな。

 女の子にこんな顔されたら、ついつい言う事を聞いてあげてしまいそうだ。

 


 「落ち着け。

  例えばの話しだ」

 「いえ、申し訳ありません!

  ですが、魔王様の疑問にお答えするなら、それは魔王様だからです!

  それ以上の理由はありません!」



 俺の質問は怒らせる様な事だったか?

 いや、ゲームの様な世界だ。

 そう考えると不都合な事を聞いたのが悪かったんだろう。



 「にしても、クソゲーだな。

  俺そういう所、結構気にするんだよ。

  争う理由が無いのなら、死んでゲームオーバー。

  そうすりゃ元の世界に帰れるんじゃないのか?」



 「元の世界……難しい話は分かりません!

  ですが、人間共と敵対するモンスター達は、魔王様がいる限り勝手に人を襲い続けます!

  元の世界がなんなのかは知りませんが!

  ラフナは魔王様に居なくなって欲しくない!」



 瞳に涙を溜めるのも演出か?



 それにしても、このナビゲーター。

 この世界がゲームみたいな物と考えると、NPCって扱いだと思うんだが、意外に感情をぶつけてくるなぁ……



 チュートリアルなんて言葉を使っておいて、元の世界が分からない?

 そんなわけがあるかと言いたい所だが、よくある都合の悪い事には答えられない設定か。



 人間と敵対するモンスターは俺の勢力に属し、その上で勝手に人間を襲う。

 そういう仕様なら和解は不可能と言う事か。



 と言っても、モンスターが人間にとって利益になるなんてのはよくあるし、交渉しだいなんじゃないのか? と、言う考えをするのは野暮だな。



 後はゲームオーバーか。

 こんな世界観とは言え、死ぬのはごめんだ。

 元の世界には戻りたいが、それを考えるのは最終手段として、留めておこう。



 「悪かった、続きを話してくれ」

 「魔王様は現在、お生まれになったばかりですので、現在は弱いモンスター達しか生まれません。


  強力なモンスターを生み出す為には、新たなモンスター達を生み、そのモンスター達を使って徐々に勢力を拡大させます。

  そうするとレベルが上がっていくので、更に強いモンスターを生み出し、人間共を滅ぼしながら世界を支配して行くのです!」



 つまり、勇者を含めた人間達と勢力争いをするゲームか。

 この手のゲームはやり込んだ事もあるし、その経験も生かせるかもしれないな。

 


 「どうすればその土地が俺の領土になったと言う事になるんだ?」

 「人間共を追いやり、モンスター達が支配すれば我々の領地となります!

  我々の領地となれば新たな拠点を立て、強力なモンスター達が周囲を徘徊するようになります」



 「それなら初めから強力なモンスター達に進軍させて支配すれば簡単なんじゃないのか?」

 「それは可能ですが、普通のモンスターは、魔王様の支配する土地から離れれば離れる程、レベルが下がる為、遠くの土地をいきなり攻める事は難しいです。


  ただ、それに影響を受けない特殊なモンスターも、魔王様のレベルが上がれば生み出せる様になるので、ラフナは魔王様が成長されるのを楽しみにしております!」



 「そうか、中々楽しめそうなシステムだな」

 「はい!」



 「チュートリアルはまだあるのか?」

 「あります!

  まずはステータスをご覧下さい!」



 どうやるのかは分からないが、ステータスと念じるとそれは目の前に現れた。

 まずは、名前を決めろって事か。



 そうだな……アムルタット。

 不滅を意味する神の名前だったと思う、後はファミリーネームっぽい名前を後ろにつければそれっぽくなるか。



 それじゃあ、アムルタット=バンデット。

 意味は知らないが、そこはかとなくかっこいい感じがするし、これで良いだろう。



 名前を決めると、目の前にステータスが表示される。

 


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名称:アムルタット=バンデット レベル:1


種族:魔王 種族レベル:1


HP :250/250


MP :300/300


攻撃 :43


防御 :32


魔力 :60


敏捷 :17



耐性


【物理ダメージ軽減(小)】【魔法ダメージ軽減(小)】【状態異常無効】



種族スキル


【クリエイトモンスター(低位)】【低位モンスター召喚】【クリエイトアイテム】【マジカルペネトレート(小)】【フィジカルペネトレート(小)】【HP自動回復(小)】【MP自動回復(小)】【魔狼開放】



通常スキル


【テレパシー】【ショートテレポート】



魔法


【ショックウェーブ】【ダークアロー】




称号


【魔王】


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 レベル1からのスタートと言う事は、ラスボスとして生まれた主人公を育成して行くタイプのゲームと言う事か。


 

 チュートリアルで勇者が攻めて来るって事は、徐々に攻めて来る勇者が強くなり、きちんとレベルを上げて地盤を固めて置かないと大変な目に合いそうだな。



 最終的な目標に、チートクラスの勇者の撃退があるのか、それともレベル上限間際になれば完全に俺率いる魔王軍の無双状態になるかで、ゲーム性は変わってくる。



 「ラフナ、勇者の強さは分かるのか?」

 「いえ、勇者と言えど中身は人間。

  それなりに個体差はある様ですが、御心配には及びません。

  魔王様の足元にも及ばないかと」



 「それじゃゲームにならないだろう。

  勇者は魔王を倒せるだけの力を持っているんじゃないのか?」

 「さすがです!

  確かに勇者共が協力すればその力は脅威となります。

  ですが、単身で魔王様の脅威に成程の者は現れないでしょう」



 ラフナの言葉通りなら、魔王である俺は、個人としては世界最強?

 悪く無いな。

 軍を率いて圧倒的な力で王国を滅ぼす。



 痛快だろうな。

 魔王としての行動を早く取ってみたい。

 だが、焦らずにもう少し見直してみよう。

 


 【クリエイトモンスター(低位)】は低位のモンスターを作るスキル。

 一度作ってしまえば、この世界の何処かで、勝手に湧いて出て来る仕様となっている。



 そのモンスターを【低位モンスター召喚】で直接呼び出す事も可能。



 【ショートテレポート】は僅かな距離を瞬間移動するスキル。

 どんな物かは安易に想像出来るが、一度試してみるか。



 数回俺はショートテレポートを使う。

 最大飛距離は三メートルくらい、僅かにHPを消費するが瞬時に使える為、回避にも攻撃にも使える便利なスキルだ。



 【魔狼開放】は俺のHPが尽きると勝手に発動するスキル。

 潜在する魔狼の力を解放する事により、魔狼の姿へと変わる。

 全てのステータスが大幅に向上し、スキルも強化され、専用スキルも得られる。



 ただし、レベルの低い魔王ではその力を制御する事が出来ない



 よくあるラスボスの第二形態の様なものか?



 力を制御出来ない事でどんなデメリットがあるのかは分からないな。

 称号なんてのもあるし、この力を制御出来るレベルになってこそ真の魔王と言う事だろうか? 



 他に気になるのは魔法だな。

 なんの捻りもなく、MPを消費して使用する、よくあるタイプの魔法。



 【ショックウェーブ】はそのままの意味で、強い衝撃波をぶつける魔法だ。

 【ダークアロー】は闇属性の魔力で作った矢を放つ攻撃する魔法。



 属性の概念があるのなら、魔王である俺は聖とか光とかの属性が弱点の可能性もあるな。

 まあ、考えるまでも無く、勇者がそうなんだろう。



 「チュートリアルはこれで終わりか?」

 「ラフナからはそれで終わりです!」


 「ラフナからは?

  それじゃあこの後、何かイベントでも起きるのか?」

 「はい!

  近いうちに勇者がここに攻め入って来ます。

  ですが、安心して下さい!

  魔王様であれば、容易く打ち伏せる事が出来るでしょう」



 なんとなく理解が追い付いて来た。

 チュートリアルの戦闘イベントが始まるわけか。



 争う理由なんかはともかくとして、システム的には面白そうだ。

 さっそく俺は【クリエイトモンスター(低位)】を使い、低位のモンスターを作成する。



 まずは定番のゴブリン。

 バランスも考えて、ゴブリンメイジやゴブリンウォーリアーみたいに、数種類のゴブリンを作ろうと思ったが、モンスター達は生活をしながら勝手にレベルを上げて、俺の与えた概念(がいねん)によって種類も増えるみたいだ。



 スキルでゴブリンを作成すると、ステータスにリストが追加され、どんなモンスターなのか見れるようになっている。



 ゴブリンの他にも最初から登録されているモンスターも居るようだ。



 ◆



 【ゴブリン】 

 人間を食料とする他、女性であれば住処へと連れ去り、苗床とする醜悪なモンスター。

 知能は低く、力も弱い為、単体では弱く、群れで行動する。

 繁殖能力が高い。


 【フライングラビット】

 土で作った巣穴に住む空飛ぶ兎。

 丸めた尻尾の先には毒針を持ち、縄張りに近づく者を攻撃する。


 【ジャイアントフロッグ】

 沼地や水辺に生息し、鋭い歯を持つ肉食のモンスター。

 低位の水属性魔法を使用し、溺れて弱った相手に噛みつき捕食する。


 【ロブバット】

 人を襲い、金品や食料を奪う大きな蝙蝠。

 奪った後は逃走する習性を持つ。



 ◆



 せっかくなので、ゴブリンと他の三匹も【低位モンスター召喚】を使い、目の前に出現させる。



 ゴブリンは大体イメージ通りで、腰布を巻いた小さくて汚い緑色の人型モンスター。

 ジャイアントフロッグは思いのほか大きく、大人の人間でも丸呑み出来そうなくらい大きい。

 ロブバットも蝙蝠にしては大きく、サイズ的には中型犬くらいありそうだな。



 フライングラビットは手のりサイズの兎で見た目も可愛い。

 背中には白い半透明の羽が生えていて、ブーンと蜂の様に飛行している。



 俺が召喚したモンスター達を観察していると、ラフナがゴブリンに対して食い入るような視線を向けている。



 「素晴らしいです!

  この様な醜悪なモンスターを生み出せるなんて!

  さすが魔王様です!」


 「アムルタット=バンデットだ。

  アムルタットと呼べ」

 「アムルタット様!

  素敵なお名前です!」



 「そうか?

  それじゃあ、こんなのはどうだ?」



 ◆



 【スライム】

 不定形のモンスター、物理的な攻撃に強い。

 知能は低く、強い酸を体内で作る事ができ、獲物を自らの身体に取り込み、酸で溶かしながら捕食する。

 

 【スケルトン】

 人間のように動く骸骨で、人間を襲う。

 知能は低いが、拾った武器を手に持ち、殴る程度の事は可能。


 【インプ】

 邪悪で小さな悪魔。

 角、蝙蝠の羽、尖った尻尾を持ち、魔法で人間を惑わせる場合もあれば襲って殺す事もある。


 ◆



 「どれも人間共にとって天敵と成り得るポテンシャルを持ったモンスターですね!

  ああ、アムルタット様――これ程のモンスターをあっという間に……」



 ラフナは両手を口に当て、言葉もない様子。



 気分が良いな!



 現実世界に出て来る架空のモンスターを想像して作っただけだが、知識は力だ。

 僅かに罪悪感の様なものを感じるが、俺がこの世界で作ったモンスターには違い無い。

 気に留める必要も無いだろう。

 

 

 「どうした?

  俺が怖くなったか?」

 「いえ、ラフナは感動のあまり、言葉を失っておりました!

  これ程のモンスターが居れば人間共はアムルタット様に畏怖し、自ら命を差し出して来る事でしょう!」



 「人間を侮るな。

  奴等は神すら支配下に置こうとする程の傲慢さを持ち、他の種族を絶滅に追いやる程の欲がある。

  この程度のモンスターで満足していれば、いずれこちらが圧倒される事になるぞ」



 「そこまでお考えになっているとは……感服致します!」



 シナリオやストーリーはともかく、だんだん気分が乗って来た。

 この調子で魔王ライフを楽しむのも悪く無い。



 人間を滅ぼしてゲームクリアなのかは分からないが、そこに至るまでに色々と楽しませて貰うとしよう。

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