チュートリアル① 日常を振り返り今に至る
初投稿! 頑張ります!
世の中何が起こるか分からない。
とは言え、さすがにこんな事があるなんて予想外すぎるだろ。
ここは魔王城。
気を失って目覚めると、なぜか見慣れていない灰色の壁に覆われた部屋で、灰色の玉座に腰かけていた。
不思議な事に、この城の主であり、自身が魔王であると自覚している。
夢――なのか?
それにしては意識がはっきりしている。
などと考えていると、目の前で片膝をついた少女に話しかけられる。
「初めまして魔王様!
私はナビゲーターのラフナと申します!
私と一緒に人間を滅ぼしましょう!」
物騒な事を言っているが、俺が魔王なのだと言う事を考えれば普通の会話か。
ラフナと名乗った少女の見た目は、俺より少し年下くらいに見える。
好奇心が強そうな大きな瞳は赤く、虹彩は明るい色をしていて、瞳の奥に炎を閉じ込めている様な――
「うわっ!?」
その少女の瞳を見つめていると、ふいに顔を除き込むように近づいて来たので、反射的に仰け反ってしまった。
「どうしたんだ?」
「魔王様は金色の目をしているのですね」
ラフナも俺の瞳を見ていたのか。
それにしても距離が近い……
俺はラフナに距離を置く様、手で合図を送り、玉座に深く腰掛け頬杖を突く。
これが夢かどうかはさておき、まずは状況の整理だ。
記憶を遡り、今日あった出来事を思い浮かべる。
◇
俺は日直当番だった。
クラスメイトの石田さんも同じ日直当番で、朝のホームルームで石田さんが着席の号令を出したと同時に、激しく身体が揺れたと思ったら意識を失いここで目覚めた。
いつもと違った事なんて無い。
日直当番だから少し早めに家を出たくらいだ。
学校に辿り着いた俺は、職員室へ教室の鍵を取りに行った。
しかし、すでにもう一人の日直当番である石田さんが持ち出した後だった為、俺も教室へ向かった。
いつもの様にガラガラと木製のドアを横にスライドさせ、教室の中へ入ると、先に教室に来ていた石田さんが愛想よく「おはよう!」と、声を掛けてくれた。
彼女は俺と同じ中学二年生で、一つ上の柳先輩が、姫と呼びだしたせいで生徒全員に姫と呼ばれるようになってしまったが、本人は特に気にしていない様子で、たまに冗談だが、姫様振る舞いをして権力を行使しようとしてみせる。
柳先輩が姫と呼ぶようになった由縁は知らないが、彼女の仕草一つひとつが可憐で、そのうえ笑顔を絶やさない。
柳先輩じゃなくても、お姫様と呼びたくなる気持ちは理解出来る。
彼女に特別な感情を向けている訳では無いが、今年卒業してしまう柳先輩の顔を見て、大人になれば、この三人の関係も変わってしまうのだろうかと、不安を覚えたのはつい最近の事だったな……
柳先輩は俺を含むクラスメイト全員にとってのリーダーであり、俺にとっては親友でもある。
先輩呼びしているのは俺だけで、そう呼ぶようになったのは罰ゲームで負けたからだ。
何故か大事な勝負になると、柳先輩には勝った試しが無い。
元々は、下の名前で、伸弥と呼び捨てにしていた。
クラスメイトは、俺達の住んでいる島では子供が少なく、学校に通う小学生から中学生までの生徒達全員が、同じ教室で授業を受けている。
中学二年生は俺と石田さんだけで、中学三年生は柳先輩一人だけだ。
挨拶をしてくれた石田さんに、俺も普通に「おはよう」と挨拶を返し、自分の机に鞄を置いた。
昨日の放課後、誰かが書いた黒板の落書きを、石田さんと二人で綺麗に消して行く。
日直当番と言っても、やる事は朝、教室の鍵を開け、授業が終わった後の黒板を綺麗にする。
その他には、朝と放課後のホームルームと、一日の出来事や反省を纏める日誌を書く事と戸締りくらいだな。
学校のチャイムが鳴り、全校生徒――と言っても俺も含めて十二人しかいないのだが、教室に入って来て、それぞれの席に着く。
ガヤガヤと騒がしく、おしゃべりをしながら先生が来るのを待つのはいつもの事。
今日も変わる事なくそうして待っていると、しばらくして教室のドアを開け、担任の石田先生が入ってくる。
シーンと教室が静まり、先生が教壇に立って挨拶を始める。
「おはよう皆!
先生からは特に何もありません!
それじゃあ今日の日直当番は――大城君と瑞希ね!
それじゃあ!
祈念すべき二人の共同作業を皆で見守りましょう!」
人数が少ないし、日直当番は二週間に一度やってくる。
この妙な言い回しでホームルームを催促されるのは毎度の事なので、俺は聞き流す事にしている。
先生は石田さんのお姉さんで、今年で二十一歳。
この学校の教師になるまでは、島の外の短大に通っていたらしいけど、今年になって島に戻って来て俺達の担任となった。
頬を膨らませて怒っている事をアピールしている石田さんを横目に、俺がクラスメイトの名前を呼び、全員の出席を確認する。
一目見て全員が来ている事は分かるのだが、それでもしなければならない。
理由は分からないが、そう言うルールだ。
手に持った名簿の上から順に読み上げて行く為、年上の生徒から順に読み上げて行く。
最初は三年生の「柳 伸弥」点呼を取ると「はい!」と元気な声で返事をするのはどこの学校でもやってる事だと思う。
そして、日直の俺は、自分の番が来くると、自分で自分の名前を言って返事をしなければならない。
「大城 豊――はい! 石田 瑞希」
「はい!」
その下にいる小学六年生の岩崎姉妹。
性格は違うが、二人は顔も声もそっくりな双子で、普段から俺は彼女達を呼ぶ時にフルネームで呼んでいる。
姉の方は恵子で妹が尚子。
その下の小学五年生は五人居る。
まず、悪戯好きの佐野 隆太朗と中川 義嗣。
悪戯と言ってもこの学校では年上に、俺や柳先輩がいる為、黒板の落書きや、先生の胸を揉んだりする程度に留まっているが、同学年ばかり居る他の学校だったら手の付けられない悪ガキになっていたのかもしれない。
他にはいつも三人一緒に行動をしている女の子。
親が島の偉い人で、割と高飛車な西野 久遠、それを慕う物静かな性格の栗山 春香、二人の保護者的立ち位置の赤城 琴音。
最後に小学四年生で、昆虫が大好きで落ち着きの無い林 秋二と、中西 陽葵。
中西だけは正直何を考えているのか分からない。
いつも一人で行動して、話しかけても素っ気ない返事が返ってくるだけでそれ以上何もない。
他の生徒とも遊ぶ様子も無く、授業が終わると外に出て、ただボウっとしている。
俺が全員の出席を確認し、石田さんが「起立、気を付け、礼」と号令を掛ける。
礼の後、全員の頭が上がった所で、俺と石田さんは息を合わせて、「「おはようございます!」」と大きな声で挨拶をし、それに続いて教室にいる生徒達全員で「おはようございます!」と大きな声で挨拶を俺達に向けて返す。
そして、その時がやって来たんだったな……
石田さんの「着席」の号令の直後、激しく身体が揺れたのを感じ、倒れたと思ったらこの玉座に座っていた……