東西が交わる街
この姿は女らしいハズなのだが、皮肉にもショッピングもスパも女の子を楽しみにくくなった。何より魔族の姿は敵意の対象だ。ひとつ間違えばリンチに会ってしまうかもしれない。あの日以来、王宮からは一歩たりとも出ていない。夜毎、搾精させていただいている以外は。
暇ではあったが、王宮には立派な図書室もあったので退屈はしなかった。あっという間に数日が過ぎ、出航の日となった。今日は曇り空。雨がちらつき始めて肌寒い。だが、三寒四温。少しずつ春の気配が近づいてくるのだろう。
ワタツミ丸は二日で七人を乗せトプカプの港に着いた。元の世界でも洋の東西というが、この異世界でも西の人族が多く住む世界で、魔法産業革命が起こった。西の方の生産性が高まり軍事力も強大になり東の地域を植民地にしていったという経緯は前に話した。
植民地という言い方をしたが、魔法があるので特別な労働力が必要だったわけでもなく、香辛料のような特産品が必要というわけでもなく、国という概念もない東の地域から西の国は不平等な取引で搾取したということに尽きる。
魔族の侵攻があっても国という概念がない東地域だが、大まかにわけて、南区域が淫魔、中央が吸血鬼、北が悪魔という形で魔族幹部の三種族が分け合って統治している。
魔都と呼ばれる魔王の拠点は悪魔支配域のさらに北に位置している。オレたちはそこから約二千キロ。遥か南の地域に降り立ち、これから二ヶ月をかけて陸路目的地に向かうことになる。
トプカプは洋の東西の分岐点となる地域だ。元いた世界とそのあたりは同じのようで、アキコのような褐色の肌をした人、ネグロイド、モンゴロイド系と思しき人も多い。ただ、そもそも人族と魔族が存在する世界だ、人族間の肌の色というのは些末なこととされている。
ターコイズブルーのドーム状屋根、高い尖塔が四隅を取り囲む。石造りの立派な門の左右には円錐形の塔。建物の構造からも西の地域とはどこか違う文化圏であることが分かる。
魔族支配地域と言ったが、その表現は正確ではないかもしれない。東側はもともと魔族が多く住んでいる地域。人族は少数派であり魔族と共生していた。この地域については魔族が失地回復したという解釈もできる。全ての地域で人族が皆殺しになったということではない。
この街では、普通に人族、亜人、魔族が生活している。税金の納め先が人族から魔族に替わっただけともいえる。
そもそも、魔法による発展を遂げたこの世界だ。基本自給自足で経済が成り立っていた。交易という概念は近年出てきたくらいで、当然、軍艦や空母などは存在しない。
魔族にしても艦船を仕立てて南から人界へ攻めこむという選択肢はないといっていい。従って、こちらの地域に軍隊が押し寄せることもなく比較的平和な状況が続いている。
だが、ここから先は魔族のみが住う町村がほとんど。本能的に人族を襲うことがあり、それが違法とはならない現状では、魔族に変装しての潜入が安全であるには違いない。オレにはアストリアの魔法が効かないこともあって、他の仲間がどんな姿なのかは分からない。
ジジはちょっと恥ずかしがっているようだ。まさか淫魔ではないと思うのだが、どういう姿なのかは誰も教えてくれなかった。シロは喜んでいるようにも見える。どうせケルベロスか何かだろう。
港近くに海豚亭という酒場兼宿屋があった。今宵はそこに泊まることにした。ツイン二部屋とシングル一部屋を確保した。シロは床、オレは新月の夜以外はアストリアと一緒ということになる。幸い小柄であることは変わらないので、寝具の心配はない。
この店は一階が酒場、二階が宿屋になっている。オレは酒場でワインを少し飲んだ。あんなに好きだったフルーツも今は泥を食べているように感じてしまう。酒の味は変わっていないようだが、固形物は不味過ぎて口にすることはなくなった。そっと席を立って今夜の狩に行くことにした。
フュレンツと違い、ここは魔族の領域。Hな格好のサキュが夜に徘徊していても特に咎める者もいない。狩は楽に進められる。今日の獲物わぁ〜。
どこの世界でも粋がった若者はいるものだ。敢えてサキュの誘惑に乗り生死ギリギリのチキンゲームを楽しむ輩。オレは美味そうな二人連れに声をかけた。必ず複数人を誘惑することにしている。調子に乗って一人から必要量を搾精し殺してしまうリスクを避けるためだ。死ななくとも寿命はそれなりに縮むのだろうが。
トプカプはフュレンツに比べ、かなり南に位置しており既にこの季節、夜になってもそう寒くはない。野外で気絶しまっても死にはしないだろう。さっさと路上で十分ほど。二人を片付けた。手早いさ。なにせオレは娼婦。それもプロ中のプロだ。
少し飛べるのはいろいろ便利だ。海豚亭に戻って自室の窓を叩く。アストリアが窓を開けてくれた。
「おお、ロミオ、どうして貴方はロミオなの」
「あら。ジュリエット。私はノー・サンキューよ。児ポ法でお縄になるのはごめんだわ」
「よく知ってるな」
「何言ってるの? これは貴女の知識でしょ。それはそうと、生臭いから早くシャワーを浴びてきて」
「この姿になって、メス臭さ十倍増しだと思うのだが、それでも臭うか?」
「まぁ、嫌いな臭いは敏感に感じるのよ。さ、早く!」
シャワーの後のことはご想像にお任せする。
いやぁ〜M3(音系・メディアミックス同人即売会)に出店しているのですが、辞退したサークルも多いようで、何だか歯抜けです。お客さん、あんまり来ないかなぁ〜。
ということで。私がお仕事以外で唯一の海外経験。イスタンブールイメージのトプカプです。建物はアヤソフィアとトプカプ宮殿の城門をイメージしています。もうちょい描こうかなと思いましたが、長くなるのでちょっとだけです。今は行きにくい場所だと思いますが、異国感が半端なく、すごく良かったです!
魔族は北からの全面戦争で人族を虐殺していますが、こちらの地域はそもそも人族が少なく、かつ、歴史的に共生してきているので、あまりヒドイことにはなっていないという設定です。いずれにしても、ここから先は、一部の例外を除き、ほとんど魔族しかいません。
ロミオとジュリエットは、窓からというだけの連想です。児ポ法うんぬん言ってるのは、お分かりでしょうか? シェイクスピアの設定ではロミオ16歳、ジュリエット14歳だからです。知り合ってから二人が後追い自殺するまで、わずか5日の物語です。
映画の方は昔(1968年)のが好きなんですけどね。オリヴィア・ハッセーの黒髪ジュリエットが、私的にはピタリきます。




