お人形屋しゃん♪
順風満帆ということか、物事が前向きに動き出した。アレ、こういう考えは妙なフラグを立てている気もしないではないが。
ダルク帝国に来て以来、オレたち七人はいつも一緒に食事をしている。全員分の毒味をしておきたいことと、内々の話もしやすい。
「アストリア。知っていると思うが、この国には魔族のスパイがいるのではないかと疑っている」
「貴女の記憶を見せてもらったし、調べてみたのだけど、それらしい人物はいないのよ。でも、なんらかのトラップがまだある可能性も捨てきれない。何かがあった時のために、貴女の『死体』を準備しようと思うのだけど」
アストリアはサイコ・リーディングができるくらいだ。人の心を読むことだって可能だ。
しかし、彼女は今までの転生では積極的に人の心を読む行為をしてこなかった。とんでもない淑女だが、根はとても真面目で繊細な女神様なのだ。人の心を覗き込むという行為に嫌悪感を感じていたらしい。だが、前世で毒殺されたこともあり宗旨替えをした。そうせざるを得なくなったというべきか。
「死体?」
「魔王が一番恐れているのは貴女よ。そうでしょ?」
「まぁ、神すら殺せるといえばそうだが」
「貴女が死んだと彼が信じてくれれば、私たちの戦略が楽になるわ」
「具体的にどうするかはまだノーアイデアだけど準備は進めておきたいの」
オレとアストリアの間で隠し事をするのはかなり難しい。だが不可能ということでもない。彼女はそもそも神なのだから。ノーアイデアのタームを妙に強調している気がする。嫌な予感しかしない。
ということがあり、オレとアストリアは二人で外郭区のネオマーケットにある人形屋を訪れることになった。相手が魔王の影響下にないのなら、アストリアは無敵だ。「畏怖」という概念を周りに振りまいて歩くだけでいい。
強面のオッさんが手を繋いだ小娘・幼女ペアを慌てて避ける様はなんだか面白い。例の猥雑ともいえる通りの奥にそこだけ浮絵のように不釣り合いな木造の扉がある。随分、儲かっているのだろう。
「お人形屋しゃん♪」無理に日本語化するとそんな感じ。どういう趣味か理解に苦しむファンシーな看板がかかっている。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ」
うん? すごいな。自動人形か。金色のショートにエメラルドの瞳、美しいメイドが挨拶した。一見して人形であることは分かる。神が創ったオレほどではないものの精巧なお人形さんだ。ジジがとても喜びそうだが、黙っていた方が安全な気もした。
自動人形がお茶を入れに奥へ行くのと入れ替わりに店主が出てきた。白髪で前歯の欠けたマッドサイエンティストタイプを想像していたのが、金髪ロン毛、四十がらみのイケメンが出てきた。
「この子そっくりのお人形を作ってほしいのだけれど」
「この方は!」
イランイランか? 甘くてクセのある香水臭。むしろ気持ち悪い。ペタペタさわるんじゃねぇ!
「自動人形ではない?」
「『好奇心は猫をも殺す』妙な詮索は止めてもらおう。それからオレの体を嫌らしい手で触るな」
「おお! 怖ゎぁい」
コイツなかなかの玉かもしれない。
「私は貴女のような『暖かい』女性に興味はございません。何もしませんから、どうかお体を見せてください」
とんでもない紳士じゃねぇか! 冗談じゃない。
「断固断る!!!」
「お察しの通り、オレの存在は魔法的なものだ。だから、オレには排泄という概念がない。分かるな? あとは普通に女だから、そう考えて作れ」
服の上からは採寸させたが、妙に冷たい手がちょっと触れただけで鳥肌がたつ。十分ぐらいだと思うが、ずいぶん長い時間に感じた。
「ちゃんと血が出て、土に埋めると腐るようにしてほしいの」
「おおおお! 死体を作るのですね。腕がなります! 普通のお人形は金貨十枚でお引き受けするのですが、そのようなチャレンジができるのなら、タダでもよいと思います。金貨一枚で」
うわぁぁ〜 もう無理、無理、無理ぃぃぃ!!! アストリアが平然としているが不思議に思えた。
自動人形が出してきたお茶に口をつけるのも憚られた。とにかく早くここを出たい。前金を払い終えたアストリアの手を引っ張るようにして店を出た。
「いつも冷静な貴女なのに。なんだか意外かも」と淑女さん。
「お前、類は友をじゃないよな? オレはいたってノーマルだからな」
「ふぅ〜〜ん。そうかしら? でも、でも。可愛い♪ 大好きよ!」
「人前でキスするなと言ってるだろう!」
などと言っていたら、この人形が役に立つ事態になってしまった。
すいません! 手違いで本文だけ入れておいた明日予定が出てしまいました。このまま行きます!
ネクロフィリアの人形屋は、私の別の物語でも出して見たのですが、気に入っているので再登場です。お人形と書いてここではラブドールです。あはは。この異世界でも当然ありますよね! ちゃんとした後書きは明日、また。




