ユグドラシルの葉
とにかく耐えがたきを耐え忍びがたきを忍んで外郭区に入ることができた。これは想定内だったが、この国では人族とその他は宿もレストランも別々、いわゆるアパルトヘイト方式となっているようだ。
キャラバンのエルフたちはオレ、アキコと同行。ジャンだけが別の宿に泊まるしかないのだが、シロをペットの犬ということにして連絡係とした。彼も大人だ。オレへの酷い扱いを見ていたこともあろう。狼の誇りがなどと余計な御託は並べなかった。
オレたちが泊まるのは、大都会とも思えぬ安宿だった。アキコと同室となったが、隙間風が吹き込むような建て付けだ。不衛生で客の体臭と食物が腐敗したような臭いが染みついている。マジでシーツを洗濯していないんじゃないか? ああ、さっきの魔道具屋で南京虫除けの使い捨て魔道具を買っておいてよかった。
樫の大木たちは、明日中に持ち込んだ荷物を売り払い、帰りの護衛を雇ったら早々に立ち去るとのことだ。ひとまず今夜一杯やろうということになった。がっ。おい。ここ風呂が沸かねぇぇ。こんな寒空で水浴びというわけにも行かず濡れタオル(のような布切れ)でアキコと体を拭きっこすることで我慢した。
女の子には男と違ってちゃんと洗っておきたいデリケートな部分もあるのだが。あれ。もしかして。人形のオレが風邪をひくとも思えない。明日は寒中水泳でもやってみるか。スク水ってあったっけ? 化繊のないこの異世界でも水抜きのある旧スクなら何とかなるだろう。
とはいえ服を着替えれば少しはさっぱりする。アキコは黒っぽいTシャツ(風の)インナーにオフホワイトのテーラードジャケット、ダメージデニム…… やるじゃん! マニッシュな格好が長身によく似合う。パンツの尻尾のところに穴を開ける必要はあるのだが。あ、オレ? いつもの定番。べ、べつに面倒なんかじゃないんだからね。
エルフたちもお酒は大好きなようだ。樫の大木も、さすがに吹っ切れた様子だ。
「本当に世話になった。ひとまず村へ帰ることにするが、この御恩一生忘れないと誓う」
酔いも手伝ってくどくどと謝辞を繰り返していた。
「貴女方。何の目的があるのかは詳しく聞くつもりもないが、この国に長居は無用。本当に無礼な輩多い。我々もワインが高く売れないのなら間違っても寄り付きたくない場所ですよ。老婆心ながら早々に別のところへ旅立たれた方がよいと思います」
「ありがとう。先ほどのオレの扱われ方に気を遣ってくれているのかな。ご忠告確かにそう思う。できるだけ早く用を済ませて退散するさ」
「そうやなぁ〜」とアキコ。
オレの心が十分に通じている証だ。門の件について下手な慰めはせず黙っていてくれるのがありがたい。
「そうだ。コレを受け取ってくれ」
「うん? すでに護衛の対価は受け取ったが?」
「餞別と言ってはなんだが、せめてもの償いにこれを」
「もういいと言ったではないか。こんな貴重なものを」
樫の大木はエルフ族でも高い地位にあるのかもしれない。秘宝ともいえるそれは、見た目は乾燥した木の葉の切れ端。世界樹の葉らしい。RPGでは蘇生アイテムとして重宝されるものだが、この異世界では死者を蘇らせることができるわけではない。
だが、重篤な怪我でも瞬時に直すことができるといわれている。ほんの一欠片を細かく砕いて飲ませればいい。もっとも注射器のようなものがないこの世界では燕下できない危篤状態では、如何ともし難いようだが。
虎の子の切れ端を切ってオレに渡してくれた。二回分を半分にしてくれたということだろう。今後、何があるかは分からない。彼の好意はありがたく受け取るとして、その切れ端をオレはひだスカートのポケットストレージに収納した。ちなみにスカートを3Dプリンター指輪で新調してもアイテムはなくならない。ストレージの中身はド●ラもんのように四次元空間に収納されているようだ。
夜。宿に戻ったのだが、臭いベッドに寝る気にはならなかった。寝袋を出したが部屋が狭すぎて一人分のスペースしか空いていない。小さな体のオレなのだからアキコと同じ寝袋で寝ることにした。彼女の体臭は部屋にもこもる臭いを低減してくれる。何よりモフモフ尻尾で体を巻いてもらえるのは安眠を誘う。
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完結まで残り2ヶ月くらいだと思います。ストックの方ですが外伝3つ予定の2つまでは書き終えました。一人称小説の制約上、主人公不在の場面を書くことができません。3つの内2作は本編を補完するものです。前に記しましたがアキコ編とアナシア編となります。本編終了後、次話で続けるつもりでしたが「シリーズ化」という機能があるみたいなので、上手く使えればそっちで行きます。
これは既報だったかな。もう1作のアストリア編ですが1日分の短編で、かつ、趣が大きく異なるものです。ネタバレを含むので大丈夫なところまで本編が進んだら単独で出しちゃいます。引き続きよろしくお願いいたします。
前回書き忘れたのですが、ジャンが三国志を知っていたり、この異世界に私たちの世界の情報が伝わっている設定での補足です。大前提として「魂は輪廻転生する」という点です。この異世界にも前世、私たちの世界にいた人がいます。主人公のように確実に記憶が残ることはなくとも、朧げな前世の記憶が元となって創作が生まれているというイメージです。ですので、不正確なことがあるという点もネタにして行きます。物語だけではなく、前世の記憶を元に異世界で製作することで、絵画やアクセサリーが紛れ込むという場面もちょっと出てきます。
で、ユグドラシルの葉です。すいません。北欧神話使いました。それとなく出した(と思ってくれるかなぁ〜)つもりですが、お察しの通り、後々、ピンチを救ってくれる切り札になります。ファンタジーの中で蘇生可能にしてしまうと、何でもアリになって物語の進行が厳しいです。ですが、ここでの魔法は見えているものに有効=治癒魔法も外傷には有効だが……という設定を引いている点が伏線です。ああ、蘇生と言えば「リゼロ」がこの禁手を上手く逆手にとっていますね!
また、リアリティーという点で、宿が汚いとか虫がぁ〜みたいなのはD&Lエディングスの影響です。ちなみに南京虫=ツツガムシ=リケッチアは「恙無し」という慣用句があるほどヤバイ代物です。コロナウィルスの件もあるし生々し過ぎるかしら。
あと、スク水の蘊蓄わかりますよね? 透水性があまりない布地でも、あのスタイルなら大丈夫って意味です。
ということで、如月も頑張ります!!




