ペトラ村
早めに準備が整ったので、オレたちは数日は街をブラブラして観光を楽しんだ。九月九日、青龍が指定した日にオレたちはペトラ村を訪れた。今夜は晴れて満点の星空だ。異世界の星座は知らないが、天の川らしき星雲が見える。山沿いの村は昨日降った雪が道端に残っていたが、このあたりまで来ると積もるということはないようだ。
ペトラ村はエルフ族だけの村のようだ。差別が少ないとはいえ、この国でも全くの平等ということはない。それはオレたちの世界と同じことだ。一つの種族が肩を寄せ合うコミュニティーというものは必ず存在する。夕暮れ時、村の中央にある広場には輿が準備され生贄となる若い娘が座っていた。なぜかエルフは例外なく美男美女だ。運命を感受する覚悟はできているのだろう。心なしか顔色が青いが前を向くそのアクアマリンの瞳は強い意志の力を持っていた。
「我らベルムートのギルドより命を受け青龍を撃ちにきた者。娘よ。その身を賭して村を守る覚悟、天晴なり、なれど我らに任せよ」
こういう芝居がかったセリフはオレ担当だ。アキコとの首輪コンタクト経由でオレは少し枷を緩めるように依頼した。
「おおおお!」
その場にいたエルフの神官らしき者を筆頭に皆がその場に膝をついた。
「娘。我が代ろう」
決死の覚悟から解放され茫然自失となる娘からオレは衣服を借り受けることにした。元いた世界の巫女服に似た着物風の上着と緋の袴。頭には花を編んだ冠をかぶる。いかにも生贄という感じの服装だ。装備の上から着たかったのだが、さすがにゴロゴロして無理なようだった。防御にさらなる不安はあるが、ここは相棒を信じることにしよう。
巫女のコスプレは、そのままではブカブカで袴を引きずってしまう。心得のあるエルフの女に魔法でサイズ調整はしてもらった。オレたちの作戦はこうだ。オレが生贄に扮しアキコが介添人という役回りで青龍の前に立つ。青龍が生贄を喰らわんと隙を作ったら死の魔法。以上。のハズなのだが。シロは目立たぬよう少し離れて待機という具合だ。
刻限に間に合うよう、オレは輿に乗って青龍の祭壇に向かった。ついでにワインの樽を二つほど運んでおいてもらった。この手の魔物。酒好きじゃないのかな? オレたちは青龍が住むという山の中腹にある祭壇にたどり着いた。祭壇といっても、魔法陣のように丸い石造りの円形に舗装された踊り場とエンタシス風の柱四本が存在するだけの建築物だ。
村の者は感謝の意を述べて三々五々村に引き揚げて行った。やがて日が落ち刻限が来た。大きな羽音がして青龍が祭壇に降り立った。
もう少し東洋風の龍を想像したのだが、青龍は頭部が小さ目のティラノサウルス。巨大なスタンディングドラゴンだった。角と大きな羽があるのが、恐竜との大きな違いだろう。この世界がある惑星の円周は約一万キロくらいらしい。地球の四分の一ほどだが、マントルを構成する物質密度が高いのだろう、重力は地球とほぼ同じの1G程度だ。巨大といっても地上でその体重をささえ生きていくには限界がある。身長、約六メートルといったところか。
とはいえ、身長140センチのオレからすれば見上げるばかりの巨体だ。そう言えば、あのセーラー服。アストリアがオレのためにせっせと丈を詰めていてくれたようだ。ご配慮感謝する。だが、スカート丈は詰めすぎだ。アニメのように、空を飛んでもパンツが見えない魔法も付与しておいてくれればよかったのだが。
須佐之男命の八岐大蛇退治のように酒を飲んで泥酔してくれればと思ったが、青龍はワインの樽には目もくれない。で、アレ? 人語を話す。
「冒険者か?」
ゲッ、速攻バレとる。
ペトラ村というのはヨルダンのペトラ遺跡をふと思ったので拝借しました。行ってみたいところの一つという以外、特に他意はありません。
この物語に中のエルフは「指輪物語」のレゴラスのように大活躍じゃないです。どちらかというと、森に依拠する少数民族という感じで、ひっそり暮らしているイメージです。ワインを売ってというのは、ぶどう栽培に適した痩せた土地で暮らしているって意味です。民族という単位でそれなりの人口がいないと、いろいろ厳しいのかなぁ〜と考えてみた次第です。
あとは、魔法があれば何でもアリですが、重力とドラゴンの大きさという点に、リアリティーを考えてみました。重力1Gでスタンディングドラゴンならティラノサウルスが限界のハズです。私が描ける世界観を考えて、この異世界の広さは地球と比べて円周1/4、面積1/16がなんとなく妥当。そのままの設定だと重力も小さくなるので、マントルうんぬんの蘊蓄となります。
スカートについては、レールガンT観てて、なんでミサカはあんな短いスカートで空を飛んでるのにパンツ見えないんだ? とふと思ったからです。しっかし、今時ルーズソックス。禁書も時代を感じますねぇ。
その他、主人公の身長が具体的には初出のハズです。この間「身長140センチです」という方(大人の方です)とお会いして、ああ、こんくらいだよな。。。と思ったのです。




