白き稲妻
「待ってくれ」
朝来ていたシロの遠吠えで情報がシェアされたのだろう。狼ファミリーがログハウスの周りに集まってきた。彼らは慎重に馬との距離を測りながら、アキコに語りかけている。ファミリーの長である「黒き岩」が言うのには、アキコが選ばれし子だということは直感的に理解していた。いつかこのような別れが来るだろうと。それぞれに別れと激励の言葉を述べた後、仲間の中からシロが前に出て言った。
「我も同行してよいか?」
狼はなんとなく芝居がかったセリフを吐く。厨二かなぁ〜。
「えっ?」
「我は白い子として生まれた。本来、白い子は長生きできない。成人できずに死んでしまう。だが我には狼族には希有な魔力があるからだろう。ここまで生きながらえてきた。足手まといにはならないつもりだ。それに、これも女神様の導きだと思うのだが。どだろう?」
AIの魔力スキャンで見てみると。これはすごい! この世界の魔法は六つの属性を持っている。風土火水光闇。普通、魔力を持っているといっても属性は一つだけだ。オレは闇、アキコは土という具合だ。
ところがシロは風、土、火、水、さらには光の五属性までの魔力を持っていた。それぞれ、すばやさ、防御、力、癒しといった自己強化形の静的魔力ということのようだ。そうでなくとも恐ろしい狼の基礎力を数倍にした存在らしい。
「そうかもしれない。オレもこれは女神アストリアが作ってくれた必然だと思う。だが、同行するということは命の保障はないということになるが」
「我を見縊ってもらっては困る。我は誇り高き種族に生まれた。死など恐るるに足らず」
ああ、厨二やなぁ〜。ま、頼りなるには違いなく、何より嘘は人、魔族、亜人などヒューマノイド型種族のもの。獣の性を持つ彼は信頼に値する。
「ならば少し離れてついて来てくれるか?」
狼もその姿は馬を不安にさせる。
「我はお主のように不器用ではないぞ」
うっ。どうせオレは死の魔法以外無能でAIや魔道具に依拠する存在ですよ。シロは光属性魔法である精神誘導を使った。闇属性が強いオレに彼の魔法は無効、何の変化も感じられないが、他の人や動物には白い犬に見えているようだ。
「もふもふぅ〜♪」
アキコがたまらず彼に抱きついて頭を撫でていた。
「ささ、早く行かないと日が暮れてしまいます。どうぞごゆるりと」
マンサが馬車に乗るよう促した。シロも歩くのがメンドウなのか、ひょいと馬車に乗り込みオレたちの足元に丸くなった。本当に犬のようだ。兵士たちも騎乗して後に続く。道すがらアキコの父は。
「この国はまだええ方です。全く差別がないというたら嘘になりますが、エルフやドリュアドといった森の種族と人族は上手いことやっとると思います。アキコがこんなふうに生まれたからということでは決してありません。人は人同士でもそうかもしれませんが、自分と違うものを畏れます。疎みます。そういう人の感情をアカンもんやと思うのがむしろ悲劇を生むんやないかと。それを受け止めた上で、お互い冷静に実利を求める。その方が現実的やと」
饒舌に話すこの村長、なかなかの人物と見える。人の心を無理に変えようとすればむしろ歪みを生む。差別の全くない世界など非現実的だ。むしろ、お互いそれを受け止めつつもビジネスライクに妥協点を見つける方がよい。そういう意味だろう。
彼が言うにはここポルクランド王国は比較的穏便に人と亜人の共生関係が成り立っているとのことだ。隣のダルク帝国は人族至上主義がとても強いらしい。こんな姿、存在にされてしまったが故に分かることがある。
本当に「人」というのは尊大で狡猾でクソッタレな生き物だ。彼らに手を貸すのがバカバカしくなることもないではない。アストリアもさすがというか、その辺りは十分理解した上でこの世界では人族に肩入れすること考えているのだと思う。
正義の神と言われるが彼女が希求するのは教条的な「正義」などではない。彼女の目的は魔族を殲滅することではなく「バランス」をとることだ。確かにこのまま放置すれば魔族の侵攻で人族の世界は滅亡するだろう。それが阻止されれば、冷戦状態でも構わない。全面的な大規模戦争がない世界となればそれでいいということだ。
私事ですが、10年ほど暮らしていたワンコが最近亡くなりました。保護犬で連れてきたので多分15歳くらいです。小型犬なんですけどね。結構、ワンコ好きです。まだショックを引きずってます。
シロ君も旅の仲間にすることにしました。登場時に書いていませんでしたが、イメージは、ソ○バン犬というより、「ゲーム・オブ・スローンンズ」のゴースト君です。ただ、アレ、映像で観ると、どうみても狼じゃなくて大型犬だったします。狼ってなんとなく森の王というか、厳しい雰囲気を感じるので厨二病設定にしました。
これも書いてなかったですが、名前について。狼でも亜人でも言語体系が違うはずで、それを無理に日本語発音させるより、意訳した方が面白いかなという工夫を少し。
あとはリアリティーへの拘りです。単純に魔王を倒したところで平和にはならないし、平和といっても全く争いのない世界というのは非現実的だと思います。無理に完全平和を押し通そうとして、結果、何もできないくらいなら、少しでも争いが少なくなるように妥協点を見つける方が、ずっと、ずっと、世界のタメになるという意味です。現実世界でもそう思います。




