狼憑きの娘
「元々、獣憑きの子は生きることを許されてない。産婆さんが口と鼻を塞いで産声がお母さんに聞こえんようにして。後は分かるやろ? そやけど私は村長の娘やった。親の権威ということやな。何とか殺されるのは免れたけど、村から追われて、こんなところに住んでる」
「でも、同情はせんといてや。私は今幸せや。あの子ら。狼のファミリーが私を家族にしてくれた」
流されることは免れたものの、村から遠く離れたところに捨てられたアキコを狼たちが育ててくれたということなのだが、どうやらこうなることは彼女の父も織り込み済みだったようだ。
全く遺棄していたわけでもなく、住う家を建て使用人が交代で幼いアキコの面倒をみていたらしい。今でも月に一度は生活物資の援助が届いているとのことだ。
彼女は純粋な「人」ではない。今までの経験からいって人族以外ならある程度信用していいのではないかと思う。体力が回復するまでアキコの家に逗留させてもらうことにした。なにより彼女は狼属性をもっている。人のように年中盛りがついているわけではない。夜毎、安らかな眠りも保証されていた。
彼女のところには、時々、白い狼が訪ねてくる。真っ白な毛で赤目。アルビノということらしいが、額のところだけ稲妻型に毛の色が違う。オレの「機能」はAIというからには機械学習する。狼の言葉を何度も聞くうちに理解できるよになってきた。
「白き稲妻」というのが彼の狼流の名前らしい。狼族というのはずいぶん厨二病なようだ。彼はオレへの非礼を詫びるとともに狼流の名前をくれた。「鋼の乙女」。アイアンメイデンかよ! と思ったが鋼という言葉に彼らは畏怖を感じているようだ。鋼の乙女は強いリスペクトの表れと考えてこの名を受諾することにした。
彼の訪問はアキコにウサギなどの生肉を届けることだ。
「ちょっと後ろ向いといてな。食べるとこ見られんの恥ずかしいねん」
狼の属性を持つ彼女は人の食事だけでは体力を維持できず、時々は生の動物を皮ごと摂取する必要があるようだ。
「もうええよ。血ぃも流したし」
いつも血の臭いを気にするアキコだが、嗅ぎなれているオレにとっては特に気にするようなものでもない。いつものごとく平穏な朝と思われたが、狼達が突然騒ぎ出した。白き稲妻、オレの命名でシロは玄関に走り出てきて警戒の唸り声をあげている。他の仲間も集まってきた。
よく晴れた空の下、遠くから馬車と馬に乗った兵士が三名。ログハウスに近づいてくる。オレの体調はほぼ回復している。状況により死の魔法の行使も厭わぬ覚悟をしていたのだが。
百メートル以上、距離を置いてとまった馬車から一人の男がまろび出てきた。兵士たちは下馬し馬車のあたりで立て膝になり首を垂れて鞘ごと剣を腰から抜き右側に置いた。左利きの剣士がいるのかもしれないが、作法として恭順するという姿勢だ。
貧相な男だが、悪人ではないように見える。関西弁のイントネーションでこう言った。
「私は、アキコの父です。リブラ様にお目通りしたく馳せ参じました」
「ごめんなぁ〜。貴女に言うたら誤解されると思たから黙ってた。ツルをお父さんに飛ばしたんや」
ツルというのはこの世界の通信手段だ。魔法が込められた紙なのだが、メッセージを書いて折り鶴を折り風に飛ばすと目的の場所に飛んでいってくれる。雨や風向きによっては途中で落ちてしまうこともあるようだが、晴天が続いたここ数日を考えると最短でメッセージを届けられたようだ。
でも。でも。当初の予想を上回る方に読んでいただいているようですので、完走するよう頑張ります。ストックの方は、あと少しでちょっと停滞気味というか、いいアイデアが出てこない状態ですが、2イベントくらい追加すればひとまず本編は完結です。
せっかくキャラを作ったので外伝も書こうと思います。今のところ既に登場しているアナシア、アキコ、アストリア予定です。女の子一人称となりますが、そっちは大丈夫な気がします。アストリア編がかなり毛色が変わったものになり、実は、今日書いてたんですけどね。今、話すと、頑張って仕込んだ本編の伏線を自ら台無しにするので禁則事項にしておきます。
で、今回ですが、アキコの父がなぜか主人公の素性を知っています。これは予言によるものという設定です。この物語では神様が直接人界に影響を行使できない前提です。でも、間接的ならなんとかなる。
アストリアは三度の失敗の反省から天界でそれなりに手は打っていた。それが予言となり仲間が集まってくる。ただ、あくまでも間接的な手法。私的なイメージとしては風邪薬を飲むようなもの。なんらかの風邪対策なのですが、具体的にその薬が体の中でどうやって効力を発揮しているのか、具に見ることはできないですよね?みたいな感じです。リブラはもちろんのことアストリア自身もどういう予言になり、どの人に影響を与えたのかまでは分からないということです。
あと、獣憑きの子供の運命ですが「どろろ」を観ていてふと思いました。こういう感じかなぁ〜って。




