森を統べるもの
このまま接近を許せば不意打ちをくらっていたと思えば行幸だったのかもしれない。狼か。多い。十頭はいるか? 遠巻きに囲まれた。狼はとても聡い生き物だ。獲物の力量を推し量りながら慎重に狩りをする。ヤバイ。MPはほぼない。体も重い。くそ、ここまでかっ。
最後の悪足掻きのつもりで、オレは指輪から双刀を取り出した。二つ目の異世界は元いた世界の東洋に似ていた。そこでオレは剣舞を学んだ。超高速で動けるのをいいことに何の心得もなく叩き切れば疲労も大きい。剣舞の型を覚えてから戦いがずいぶん楽になった。
双刀と言っても中国式の両刃の長いものではなく、日本刀のような片刃。刃渡り三十センチほどでサーベル状の持ち手が付いている。オレの体格に合わせた作りということだ。もちろん魔法がかかった魔道具で、その切れ味は岩でも両断できる。
狼たちが剣を見て逃げてくれないかと思ったが甘かった。間合いを計りながら、油断なく包囲している。もうなけなしの体力しか残っていない。弱目に祟り目ということだろう、空から雨がポツポツと落ちてきた。
緊張感のある睨み合いが三十分も続いただろうか。雨脚が強くなってきた。体が濡れて急速に体力を奪われる。頭にモヤがかかってきた。狼の晩飯になるのか? 一思いに殺してくれ。腹をかじられるのは痛かろう。と、その時。
「おやめなさい!」
女性とおぼしき声がした。どうしたことだろう。その一喝で狼たちは尻尾を下げてすごすごと森の奥へ消えていった。助かった。思った瞬間にオレはその場に崩れ落ちた。
「大丈夫?。さ」
この女性、うん? 獣の臭いが、かすかにする。あ、耳が。獣人か? だが、友好的な種族のようだ。と考えたところまでの記憶はあるが、次に目が覚めたのはその子の家のベッドだった。森の中の隠れ家といった風情の小さなログハウス。払暁の時間といったところか。雨上がりの空が微かに白み始めている。
ずっと付いていてくれたのだろう。ベッドの脇の椅子に座る獣人の娘はうたた寝しているようだ。青みがかった灰色の髪と同色のケモ耳、上手に巻いた尻尾はモフモフ感が半端なさそうだ。ただ、それ以外は、普通の人。年齢は十代後半くらいか。スラリとした体躯は身長百七十センチを優に超えている。褐色の肌の美少女モデルといった風情だ。
オレの動く音に耳がピクリと動きこちらを見つめるその瞳は、狼族の証である金色に輝いていた。
「ああ、良かった。目覚めたんやな。死ぬんちゃうかと思ぅたで。よかった。よかった」
なぜに関西弁? というかオレの翻訳AIはどうなってるんやぁぁ。
「ごめんなぁ。あの子ら許してやって。悪気があったわけやないねん。貴女、物凄い匂いさせとる。『死』の匂い。匂いゆうのは私ら狼の間の言葉や。貴女らの言葉やったら気ぃみたいな意味やからな。臭いわけやないで。メッチャ凄い『死』の匂いを撒き散らすヤツが縄張りに入ったら警戒して当然やろ」
「私ら狼の仲間はな。遠吠えゆう強力なメッセージングツールをもってる。『不審者発見』を聞いて慌てて駆け付けたんやけど、間におうて良かった」
「ありがとう。オレの名はリイ」
咄嗟に偽名をつかったが、リブラからの連想だからな、特に他意はない。
「そやけど、貴女は悪い人やないて分かる。私と同んなじ匂いもするからな。怖れ疎まれる悲しみの匂いや。好きで人を殺めてるわけやないゆうのはよう分かる。ツライんやなぁ〜 貴女も」
「前世ではオレは男だったんでね。この話し方は我慢してくれ……」
微妙に正体を隠しながらオレはアキコ、日本風の名前か? と名乗る獣人の女の子にこれまでのことを語った。この異世界での獣人は獣の聖霊が人に憑くことで半人半獣の姿やアビリティーを獲得するということらしい。
当然といえばそうなのですが、ブックマークって減るんですね。今日見たら2件減ってました。いやぁ〜一人でも読んでもらえばいいじゃんと思い始めてるのに。こんなことに一喜一憂って。メンタル弱過ぎです。でもメゲずに行きます!
ピンチと書きましたが、実は初めての仲間ができるイベントでした。狼というのは前にも書きましたが、この物語の発想の原点「ウルフガイ」からでもありますし、D&Lエディングスや「時の車輪」「氷と炎の歌」などにも登場します。さらにはローマの建国神話ですよね!ファンタジーではキーとなるケースの多い生き物です。私にとってもいろんな意味で思い入れがあります。サブタイトルも少し凝ってみました。狼は森の食物連鎖の頂点という意味です。
アキコの元ネタは「ウルフガイ」の青鹿晶子です。キャラは全然違っていますが、名前だけ拝借しました。と思って命名したのですが、友人にアキコという名前で、かつ、関西出身者がいることに気付きました。君のことちゃうからなぁ〜。
関西弁については、一度、そういうキャラをやってみたかったのです。ただ、厳密に関西弁にしてしまうと、喜劇っぽく聞こえるかなと。そもそも完全に再現するのは不可能ですし、ほどほどな感じにすることにします。なので一人称は「私」、二人称は「ジブン」です。なんとなく現代関西人がTVなどで標準語の影響を受けつつ喋っているイメージです。
で、主人公の得物ですが力がないので、双剣といっても短剣を2本持っているという感じです。後日、武術を学ぶイベントがあり使う得物も技も変わってきます。あまり万能ではない死の魔法なので、剣で戦わざるを得ない場面も多くでてきます。私、柴田錬三郎さんとか好きなんですけどね。黒澤監督映画も。チャンバラ書きたいんですけどね。ファンタジー世界なのでちょっとだけです。




