北の城塞都市にて〜プロローグ
Frailty, thy name is cute girl.
(弱き者よ、汝の名は幼女なり)
ここは我々の世界基準で西洋の中世と思しきところ。いわゆる剣と魔法のファンタジー世界のようだ。オレは、高い城砦の上に立っていた。
後ろには後見人だろうか、鎧をまとった女騎士が立っている。身長は百八十センチ近くあるだろう。鍛え上げられ均整のとれた体だが肩幅は狭くスラリとした体躯だ。鎧からのぞく栗色の髪に碧眼が美しい。宝塚の男役のようだ。
周りを見渡してみる。この城塞都市は長い渓谷の入り口に位置している。どうやらここから渓谷の向こうが人の国。逆側が魔族の国のようだ。二つの勢力は戦乱状態にある。渓谷の反対側に広がる平原は、オレのいた世界で言えば秋にあたるのだろうか。ススキに似た草が揺れている。
平原側はおそらく以前は人族の農地や放牧地だったのだろう。だが今は戦禍に荒れ見る影もない。遠くに見えるのは魔族の軍勢。攻城兵器は組み立て終わったようだ。規律正しく方陣を組み。今、城壁に迫ろうとしていた。「ガッ、ガッ」まだ数百メートルの距離があるだろうが規則正しい軍靴の音が城壁にまで届いていた。
ああ、「オレ」について少し語っておく必要がありそうだ。今でもオレで通しているのだが、その一人称に相応しくない姿形ではある。だがオレは、正確さに目を瞑り分かりやすく言えば、今時、よくある異世界転生者だ。
俺様つぇぇぇぇ要素は確かにあっての転生。巨乳エルフにローリィな吸血鬼、もふもふ尻尾の獣っ子・・・ハーレムな日々を期待したのだが、結局、そうは行かない姿にされてしまっている。
元々オレは二十一世紀の地球という星の日本という国に住んでいた。オレの人生観はただ一つ。すなわち
I(E)=-logP(E)
という公式で表される。情報量のエントロピー。この公式が面白いのは、事象が起きる確率が低いほど大きな値になる。そう。知識、いやそんな高尚なものでなくとも、よりレアな情報を得ること。それが、三十路を迎え魔法使いへのクラスチェンジが可能となったオレの唯一の楽しみだった。
もう少し具体的に? そうだなぁ〜。オレは小説、漫画、アニメ、ゲーム……あらゆる著作物に触れることが生きがいだった。本、特に紙の本は大好きだ。新刊を手にした時のあの匂いがたまらない。匂いだけで射精してしまいそうだ。だが、一度読んだ本は決して二度読みしない。分かるだろ?
古今東西世界にある本の数は膨大。どうひっくり返っても一生かけて読むことなんかできない道理だ。オレの中にある情報量のエントロピーを増やすためには、そう、当然。昔の情報を思い出す時間があるのなら、新しい情報を得る時間として使いたい。人には限られた時間しか与えられていないのだから。
女?ああ、興味がないわけじゃなかった。というか今この体になっても女が好きだ。もともと、もてないと言うほどキモくもなかったハズだ。小さい頃は「可愛い」とか言われて、むしろソレが虐めの要因になっていた。
中高生の時代はスポーツ万能で背の高い男子が注目の的でオレなんか相手にされなかったのも事実。だが、大人になると女の方も冷静に男を見るようになる。オレのようなタイプにも需要が生まれた。と思ったわけだが。
「ああ、貴方のことね。嫌いじゃないのよ。いいお友達だと思ってるわ。でも、私、男の人を愛することはできないの。ごめんね。貴方とお友達になったのも、どこか女の子っぽいからかな。男のお友達なんて貴方だけ。だから、これからも、いいお友達でいてね。お願い」
って。気安く手を握ってくるのはオレを男と思っていない証左だろう。
これで人生三回目。ある人がLGBTである確率を十パーセントとしよう。オレの周りにいる妙齢の女性が百合子である確率は十分の一。それが三回続くって、千分の一!!
盆と正月が一緒に来たようだ。なんてオレは幸運なんだ。ああ、クソッタレの神様よ。いるなら出てごいヤァ〜。ゴラァ〜〜。
「お前、サイコロ振らねぇんじゃなかったのかよ!」
「うん。待てよ。振らないからこそ激レア事象が起きるのか?」
と独り言を言ってたら、本物が出てきてしまった。
えっと。いきなりシェイクスピアのパロディーから始まりましたが、初回なので書こうとしたきっかけと、作者のプロフィールを入れておきます。
<きっかけ>
「なろう」に書いて途中挫折したり、某ラノベ賞に応募して一次審査にひっかかりもしなかったりな作者ですが、とにかく何か書きたい。(一人でもいいので)誰かに読んで欲しいという人です。でも、今までは独りよがりな作品ばかりでした。どうせ同人的にやっているので、それでもいいのですが。
実は去年、同じペンネームで音声作品の脚本を書く機会に恵まれました。一つは自サークル物、もう一つは声優さんが主管されるサークルに冬コミ(C97)に合わせて提供する物です。収録をご一緒(スタジオ、音響エンジニアもやってたり)させてもらったところ、声優さんが「面白い」と言ってくださいました。お世辞もあるでしょうが、私が書いたト書きを超える熱演をしていただいたのは聴いていて分かりました。「拙作を楽しんでくれる人がいるんだ!」というのは無上の喜びでした。なら、もうちょい、別視点のものを書こうと。もちろん、私の意図通りになるのか、さらにダメになるのかは神のみぞ知るです。
<プロフィール>
自分を語る上で次の4点を説明すると分かりやすいと思います。アニメ好きなので例がアニメに偏り詳しくない人には理解不能かもしれませんがご了解ください。
(1)ジェンダーと幼女
戸籍上は♂ですが小さい時から「女の子の遊び」が大好きでした。トランスジェンダーと言うほど極端でもなく、であるが故に中途半端な自分への引目、ソレを周りに察知されたイジメ。なので萌え系文化には、ものすごい感謝しています。「好きなものを好きと言っていいんだ」。という流れで私の原点は「なかよし」CLAMPさんです。そこから岡田麿里さんが好きになり「WIXOSS」アニメのタマちゃんはヨメだと思っています。という可愛いもの好きから来る幼女なので誤解なきように。ちなみに前期は「本好きの下克上」マインちゃんが最高でした。
(2)百合
「桜Trick」ましてや「Strawberry Panic」など男性向けはNGで、吉屋信子さん→今野緒雪さん→志村貴子さん→仲谷鳰さんというラインです。性的マイノリティーのセミナーに出て自分語りをし「気持ちを理解できる人」認定された私としては、志村さんの「放浪息子」もとても心に響く作品です。
(3)ネトゲ
10年くらいやっていましたが少し前に完全に辞めました。プレイ経験のある人から見ればヒヨッコですが、一般人から見れば廃人だと思います。もちろんネットの向こうでは女の子です。男はチョロイのでバレませんが、勘の鋭い女性は気づくようです。ちなみにその女性とはリアルで「お友達」になってもらいました。そういうところは主人公と同じです。
(4)エピックファンタージ
(1)〜(3)と毛色が変わります。ネトゲをやっていた関係上、北米の方とも「会話」できたのですが、その感覚からあまり日本人受けするジャンルではないようです。好きな作家名だけ羅列します。タニス・リー(ダークファンタジージャンルですが)、D&L・エディングス、ロバート・ジョーダン、テリー・グッドカインド。「ゲーム・オブ・スローンズ」「十二国記」も好きですよ。
本文より長い後書きな気がするので今日はこれくらいで勘弁してあげるんだからね。続きは次回。