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魔術の探求者 キャロラディッシュ公爵  作者: ふーろう/風楼


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61/101

シーの……


 新しい枝と、シーから告げられたまさかの事実と……。


 予想もしていなかった事態を受けて、思い悩むことになったキャロラディッシュは……それから二日後、これ以上悩んでも仕方ないとの開き直りでもって思い悩むことをしなくなった。


 悩んだところで答えは出ない。

 答えが出なくともなるようにしかならないだろうし、これから先何が起こってもただそれを受け入れるしかない。


 そんな結論を出したキャロラディッシュは……ソフィアとマリィに対しても、猫達に対してもいつも通りの変わらない態度で接し続けることにした。


 そしてソフィアもマリィも、猫達さえもがキャロラディッシュのそんな様子に気付くことなく、いつも通りの日常を過ごしていって……そうして日差しが特に強くなったある日のこと。


 屋敷に住まうほぼ全員が、特に涼しく風の通りが良い食堂で、昼過ぎの特に暑い時間をやり過ごしていると……ふわふわと食堂の天井近くを漂っていたシーが突然「あっ」との声を上げる。


 その声を受けてキャロラディッシュがなんとも嫌そうな表情をしながらシーのことを見上げていると、シーは慌てた様子でその小さな手を左右にブンブンと振ってから声を上げる。


「だ、大丈夫、大丈夫!

 分体の方でちょっとした事件があっただけだから!」


 その言葉を受けて眉をひそめたキャロラディッシュは……シーのことを見上げたまま、言葉を返す。


「何だ、一体全体何をしおった。詳しく話せ」


 その目は鋭く、声は低く重く……逃れることは出来なさそうだと悟ったシーは、渋々といった様子でふわふわとキャロラディッシュの目の前、テーブルの上へと降りてきて、おずおずと言葉を返す。


「いやー、ほら……オイラさ、クラークと一緒になって邪教徒共に嫌がらせしてたじゃない?

 船を攻撃したり、行く手を塞いだり、船を奪ったりとか、色々……。

 で、まぁ、今日もそんな嫌がらせをして、逃げ出した邪教の船を追いかけてたんだけど……追いかけた先で連中の隠し港って言うのか、隠し基地って言うのか、そんなのを見つけちゃってね。

 そしたらクラークがこれでもかと張り切っちゃってさ、物凄い大暴れをしちゃってるんだよね。

 もうなんか……港が港じゃなくなって、廃墟になっちゃいましたってくらいな大暴れ」


「……なんだ、そんなことか。

 無闇な破壊行為は確かに恥ずべき行いではあるが……相手が邪教徒であるなら、いちいち気に病む必要はない。

 連中が今も尚、繰り返している悪事の酷さを思えば、それを食い止める為の破壊行為だという見方も出来る訳だからな。

 ……となればむしろそれは善行であると言えるだろう」


 キャロラディッシュが髭を撫でながらそう言葉を返すと、もしかしたら怒られてしまうかもと案じていたシーは、ほっと胸を撫で下ろす。


 その姿を見て、その表情を見て……ふと思い出されることがあったキャロラディッシュは「ふぅむ」と唸って頭を悩ませ……そうしてから言葉を返す。


「……そう言えばシー、お前は以前服が欲しいとか、そんなことを言っておったな。

 なんだかんだとあってすっかり忘れてしまっていたが……そうだな、今回の件に限らず、お前は細かいことを気にしすぎるというか、つまらんことで気に病む傾向にあるようだ。

 それでは心が疲れてしまうだろう。気分転換になる……か、どうかはわからんが、ここは一つお前が望む趣向の服を作ってやろうではないか」


 と、そう言ってキャロラディッシュが杖を取りにいくために椅子から立ち上がると、シーは自分でも服のことなんか忘れてたよと言わんばかりの、驚愕の表情を浮かべてぽかんとする。


 その話を聞いていたソフィアとマリィがわぁっと盛り上がり、どんな服が出来上がるのかと、シーにはどんな服が似合うのかと、そんなことを語り合う中、シーはぽかんとし続けて……そうして数分後、杖を携えたキャロラディッシュが食堂に戻ってくる。


「で? どんな趣向の服が欲しいのだ?」


 そう言いながらキャロラディッシュが自らの席に腰掛けると、それに続く形で老猫グレースが率いる猫の婦人達が様々な布を抱えながら食堂へとやってきて……色とりどりの、なんとも華やかな色の布や糸を食堂のテーブルの上に、いつもの食事をそうするかのように並べていく。


 これだけの布と糸があればどんな服でも、どんな柄でもどんな色の服でも作れることだろう。


 そのなんとも美しく、心躍る光景にソフィアとマリィが笑顔を輝かせながら沸き立つ……が、誰あろうシーは何を言ったら良いのか、どうしたら良いのか分からずに、ぽかんとし続ける。


「……どうした? 何を一体呆けておるんだ。

 ……もしやよそ行きの服が欲しいとか、そう言っていたまでは良いが、実際にどういった服が欲しいのか、身につけたいのか……そこまでは考えていなかったのか?」

 

 そんなキャロラディッシュの言葉を受けてシーがこくりと頷くと……キャロラディッシュはやれやれと首を左右に振ってから、グレース、ソフィア、マリィへと順番に視線を向けていく。


 服のことなど……女性であるシーに似合う服のことなど、キャロラディッシュとて知るはずがない。

 ここはグレース達に任せてしまった方が良いだろうと、そんな考えでのキャロラディッシュの視線を受けてグレースとソフィアとマリィは、テーブルの上に並べられた布を手に取り、テーブルの上に広げ、折り曲げ、重ね合わせたりしながら、あれこれと言葉を交わし始める。


 シーにはどんな服が似合うのか、どんな服を着せたら可愛くなるのか。


 多少無理な造りでも、シーの身体に合わせた小さすぎる裁縫細工であっても、魔術ならばなんとでもなる、キャロラディッシュなら形にしてくれる。


 そんな考えでもってグレース達は、あれこれそれこれと、飽きること無く言葉をかわし続け……様々な形の可愛らしいドレスを考案し続けるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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