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魔術の探求者 キャロラディッシュ公爵  作者: ふーろう/風楼


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ロミィ


「お前にもソフィアにとってのアルバートのような良き友人が必要かと思ってな……。

 件の魔術を使ってやろうかと考えたのだ……どうだ? 好きな動物はおるか?」


 小首を傾げるマリィ、キャロラディッシュがそう言葉を続けると、マリィは目を丸くして驚き、ソフィアは手を打って「わぁ」と声を上げて表情をほころばせる。


 そうして少しの間があってから周囲をきょろきょろと見回したマリィは、うんうんと声を上げながら悩み、悩みに悩んでから声を上げる。


「ふ、フクロウが良いです。

 フクロウならきっと、森に帰っても一緒にいられると思うから……」


 その言葉にキャロラディッシュは「それも良いだろう」と頷き、マリィの側へと近づき……その手をそっと差し出す。


「手を重ねるが良い。

 そして手を重ねたなら、魔力を練り何処かにいるだろうフクロウに心の底から語りかけるのだ。

 自らと共に生きてくれと、知識を得た新たな存在となって共に生きてくれと。

 ……その声がフクロウに届き、フクロウがそうなっても良いと望んだなら、ここに……お前の側にやってきてくれるだろう。

 そうしたなら改めて儂と共に件の魔術を使うとしよう」


 キャロラディッシュにそう説明されたマリィは「はい、キャロット様」と返し、その小さな手をそっとキャロラディッシュの手に重ねて、瞑目し、魔力を練りながら呟き始める。


「あたしと一緒に、あたしの側に来て……フクロウさん、お喋りをしましょう」


 その呟きと想いはキャロラディッシュの魔術によって波のようにうねり、キャロラディッシュ達を中心とした円の形に広がっていき……その魔力が届く範囲に拡散され、何処かに居るだろうフクロウ達の下へと届けられる。


「……その言葉が届かないことも、応えてくれぬこともままあるが、それでも二度三度と試せばいつかよき相手に出会えるだろう。

 根気良く続けなさい」


 好奇心旺盛な猫達は、あっという間に集まってきて集まりすぎて困ったものだが……気難しいフクロウ相手だと時間がかかるかもしれないと、そんな事を考えてキャロラディッシュがそう言うと、マリィはこくりと頷き……瞑目したままつぶやき続ける。


 そうしてどれくらいの時間が経ったか、そろそろ諦めるべきかとキャロラディッシュが悩んでいると……ばっさばっさと大きな羽音をさせながら一羽のフクロウがこちらへと飛んでくる。


 途中にある木や柵などに止まり、羽根を休ませながらじぃっとマリィのことを見つめて……ばさりと飛び、また何処かに止まって見つめて、ばさりと飛んで。


 そうやってじわじわと近づいて来たフクロウが、いよいよマリィの目の前へとばさりと舞い降りる。


 くりっとした目、鋭いクチバシ、まるで眉毛かと思うような形で生えた白い羽毛に、手のひら程の大きさの全身を覆う茶と白の羽毛。


「……小フクロウか」


 と、キャロラディッシュが呟くと、瞑目していたマリィがぱっと目を見開き……その表情を崩して、今にも泣き出しそうな程に嬉しそうな表情を見せる。


「……お、お友達になってください!」


 そう言ってマリィが手を差し出すと、小フクロウは目を細めながらその手に身体を擦り寄せてきて……それを見たキャロラディッシュはマリィの手を……小フクロウに差し出された左手ではない、ずっと重ねていた右手をそっと握り、すっかりと使い慣れたあの魔術を発動させる。


 心の大樹に魔力と願いを込めて、熱を帯びさせ、マリィの心の若木にその熱を伝えて……そっと語りかける。


「さぁ、マリィ。

 その子に知恵を与えてやりなさい、言葉を与えてやりなさい。

 細かい所は儂が手伝ってやるから、気兼ねすることなく想うように、その子と自らの心を繋ぎなさい」


 その言葉にマリィが頷いて、瞑目して念じて……そうしてキャロラディッシュが主導する形で魔術が発動する。


 キャロラディッシュの大樹から枝が伸び、マリィの若木から細い枝が伸び……小フクロウがそれを受け入れて枝に身を任せて、小フクロウの身体が光に包まれる。


 集められた魔力がほとばしり……魔術を発動させ、発動させる中で漏れた魔力や、余分な魔力が光となって発散されて……そうして周囲を光と熱で包み込んでいって……キャロラディッシュとマリィの心に、心の世界に……魔術が成功したという確信が到来する。


 それを受けてキャロラディッシュが魔力を込めるのをやめると光が収まり、熱がさっていって……その中心にいた小フクロウがぶるぶると身震いをし、クチバシを開く。


「あー、なるほどなるほど。

 これが人間が見ている世界かー……頭が良いとこんな風にものを考えることが出来るんだねぇ。

 あー……なんか喉も変な感じ、言葉のために作り変えたってこと?

 魔術ってこんなことも出来るんだねー」


 軽快に快活に、女性のような高い声でそう言った小フクロウは、周囲を見回し、マリィのことをじっと見やり……そうしてからマリィの肩の上にばさりと飛び乗る。


「まー、何はともあれ、こうなったからにはこうなったなりの生き方をしていくつもりだよ。

 ……とりあえずあれだね、名前をつけてくれないかい?

 アタシはメスだから……なんかそれっぽい名前が良いねぇ」


 マリィの肩の上で翼の毛繕いをしながらそう言う小フクロウに、マリィは嬉しいやら驚くやら、様々な感情が混ざりあった複雑な表情をしながら言葉を返す。


「な、名前……名前。

 女の子の名前……ろ、ロミィとかはどうかな、小フクロウのロミィ……とってもかわいい名前だと思うけど……」


「ロミィか!

 うん、良いんじゃないかな、呼びやすい名前だし、気に入ったよ。

 ……えぇっとアンタの名前は……? そうかマリィっていうのか。

 マリィ、よろしくね。

 ……で、よろしくついでにお願いなんだけど……アンタの部屋か屋敷のどこかに、ちょうど良い止り木と巣箱を置いてくれないかい?

 アンタの肩もまぁまぁ悪くないんだけど……やっぱり木にがっしりと爪を立てられないとどうにも気持ち悪くてね、安らかに休むことができなくてね、こんなにも疲れもたまっていることだしよろしく頼むよ」


 そう言って身震いし、その身をぐぅっと細く伸ばしたロミィは……それがまるで疲れている時にする定番のアピールだと言わんばかりに、伸ばした身体をゆらゆらと左右に揺らし続けるのだった。


お読み頂きありがとうございました。


小フクロウ=コキンメフクロウです


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