表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術の探求者 キャロラディッシュ公爵  作者: ふーろう/風楼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/101

雨の日


 翌日。


 いつものように朝日が昇り、いつものように朝食を食べて……そうしてキャロラディッシュが散歩に出かけようとしていると、しっとりとした風が開け放たれた窓から屋敷の中へと吹き込んできて、窓の向こうに見える空の雲がぐんと色濃くなる。


 明らかな雨の予兆であるその光景を見てキャロラディッシュは、まぁこういうこともあるかとため息を吐き出し、いつ降り出すかも分からないからと散歩に出かけることを断念し……仕方なしに書庫へと足を向ける。


 日課となっている散歩にいかないとどうにも調子が出てこない。

 脚がしっかりと動いてくれないし、身体が温まらないし、腹具合までが悪くなってしまう。


 ……とは言え雨の降る中を歩いてしまえば、余計に身体を冷やすことになってしまい体調を悪くしてしまうことだろう。


 そういう時にキャロラディッシュは、書庫に並ぶ本棚の間を、ゆっくりと本の背表紙を眺めながら、時折気になった本を手にとって開き、ゆっくりと歩き回ることにしていた。


 それはいつもの散歩とは比ぶべくもない行いだったが、それでもやらないよりは良く、相応の時間をかけながら、本を読みながら行えばまぁまぁ悪くないものであり……靴をコツコツと鳴らしながら、さぁさぁと雨音が響き聞こえてくる書庫の中を何周も何周も飽くことなく歩き続ける。


 そうしていくらかの時間が経った頃……屋敷の何処からか猫達の声が響いてくる。


 『ニャァンニャンニャン』と繰り返し繰り返し、リズムを刻む楽しげな声が。

 

 それは雨の日恒例の、キャロラディッシュにとってすっかりと慣れてしまった出来事だった。


 雨の日の湿気に毛をやられ、毛繕いをし始め、一人では大変だからと屋敷中の猫達が一箇所に集まって、皆でブラシを片手に皆の毛繕い。


 綺麗に毛繕いをしてすっきりしたなら、外に出られないからとその場で歌い始め……皆で一緒に大合唱。


 忙しい時には煩いと思ったこともあったものだが、今ではすっかりと耳慣れたもので……キャロラディッシュは気にした様子もなく本に視線を落としたまま、カツコツと書庫を歩き回る。


 自然と靴音のリズムが、猫達の歌声と同じとなっていって重なり合っていくのだが、キャロラディッシュはそのことに気付くことなく歩き続ける。


 そうやって書庫を何周もして……そろそろ良いかと本を閉じて本棚に戻したなら散歩の時間は終了。

 次はソフィア達の勉強の時間となる訳だが……さてあの子達は何処に居るのだろうと、キャロラディッシュは軽く首を傾げる。


 いつもであれば勉強の時間になったと、あの子達の方から駆けてくるのだが……と、そんなことを考えながら書庫を出たキャロラディッシュは、屋敷中に響き渡っている猫達の歌声がいつもとは微妙に違うというか、いつもとは違う音がそこに混じって居ることに気付く。


 そうして音の聞こえる方、屋敷の二階廊下へと向かうと……廊下に一直線に並んだ猫達の姿が視界に入る。


 一直線に並ぶ形でペタンと足を投げ出す形で廊下の上に座り込んで、全く同じタイミングでもって身体を左右に揺らし『ニャニャンニャン』と歌っている姿が。


 そこにはソフィアとマリィと、アルバートとシーの姿までがあり、彼女達もまた猫達のように身体を左右に揺らしながら『ニャンニャンニャンニャニャン』と歌声を上げている。


 雨が凄いから、外に行けないから、外で遊べないから。


 そんな思いを込めながらソフィア達と猫達は何処までも楽しそうに歌い続ける。


 その様子を少しの間無言で見守っていたキャロラディッシュは、何も言わずに踵を返し、サンルームへと足を向ける。


 勉強の時間だとそう声を上げても良かったのだが……今日くらいはああしていても良いだろうと、たまにはあんな風に子供らしくしていても良いだろうと考えて、サンルームで一人、静かに魔術に関する論文の執筆をし始める。


 そうしていると慌ただしく、ドタバタと子供達がこちらに駆けてくる足音が聞こえてくる。

 いつの間にか歌声も聞こえなくなっていて……ようやく勉強の時間を過ぎていることに気付いたかと、キャロラディッシュが苦笑していると、ソフィアとマリィと、ヘンリーとアルバート、シーがサンルームに飛び込んでくる。


 息を切らし肩を揺らし……気まずそうな表情をし、謝罪の言葉を口にしようとするソフィア達。


 それを受けてキャロラディッシュは、ペンを一旦置いてソフィア達の方へと振り返り、右手をすっと上げて、その必要は無いと態度で示す。

 

 そうしてキャロラディッシュは用意していた杖を軽く振り、駆けてきた全員分の椅子を用意してやってから、そこに座るようにと、上げていた右手でもって促す。


「……こういう日もあるだろう。そう気にすることでもない。

 今日は少し変則的な授業となるが、自然界における水の循環と、魔力への影響の話をするとしよう。

 少し長い話になるが……ランチの時間になったら中断するから心配する必要はない」


 そう言ってソフィア達の緊張をいくらか解したキャロラディッシュは、ゆっくりと立ち上がり……サンルームに置かれている各資料を使いながらの授業を始めるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 狸囃子ならぬ猫囃子。化かされないけど抜けられない。 [一言] こういう日もありますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ