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魔術の探求者 キャロラディッシュ公爵  作者: ふーろう/風楼


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クラーク


 盛り上がりに盛り上がり、白熱した所長の話が一段落し、役所見学はこのくらいで良いだろうとの判断を下したキャロラディッシュは、役所はここまでにして港の方にも言ってみるべきだろうとの声を上げて……そうして一行は、件の男の後処理で忙しいビルを残し、役所を後にした。


 男がしでかしたことを耳にしたのか、役所の外にまで響き渡る所長の絶叫に背を押されながら足を進めて……いくつもの船が停泊し、屈強な男達が激しく行き交い、馬車や荷車、人力などなど様々な方法で積荷が運び出されていく港へと足を踏み入れる。


 すると港のそこかしこに立っている黒いコートの男達が緊張した様子を見せる。


 先端を尖らせ、後ろに向かって上がっている、鳥の羽根のような意匠をつけた帽子に、水濡れを防ぐ為なのか、しっかりと鞣され、油を塗り込まれた厚手のコート。

 がっしりとした作りで足を守る黒ブーツに、黒手袋。

 腰には剣とハンマーが下げられていて……足元には一人につき二頭の凛々しく筋肉質な大型犬。


 黒い短毛を持つその犬達はつんと鼻先を上げながら男達の側に腰を下ろし……そうしながらも鼻をすんすんと鳴らしていて……どうやらそうやって行き交う積み荷の匂いを嗅ぎ取っているようだ。


「なるほど、禁制品が持ち込まれぬように、あの者達が見張っているのか」


 その姿と視線の動きと、犬達の様子を見てそう呟くキャロラディッシュ。

 男達の異様な姿に緊張していたソフィアとマリィとヘンリーとアルバートは、その言葉を受けて「なるほど」と納得し、緊張を解す。


「連中が妙に緊張しているのは、雇い主の雇い主たるこの儂に、良い所を見せようとしている……と言った所か」


 キャロラディッシュがそう呟き、港の隅にある港湾事務所へと足を向けようとすると……少し離れた地点で鼻を鳴らしていた犬達が「うぉん!!」と声を上げて、荷車で運び出されようとしている荷箱を取り囲む。


 犬達の反応を受けてすぐさまに、コートの男達が抜剣し、荷車を囲うように動き始めて……荷車を挽いていた男を拘束し、腰に下げられていたハンマーでもって荷箱の蓋が破壊され、中身が検められる。


 どうやらその中身はよろしくない品……禁制品の類だったようで、拘束されていた男は縛り上げられ、荷箱に張り付けてある伝票の確認が行われて……この品をこの港へと持ち込んだ船へと向かってコートの男達が突貫していく。


 それを受けてかある船が、慌ただしく離岸の準備をし始める。


 停船ロープを解く手間も惜しいと斧で叩き切り、帆を上げ錨を上げ、船員達が慌ただしく動き回り……そうしてコートの男達と船員達とで一悶着があるかと人々が緊張した瞬間……いつからここに居たのか、シーがひらりと舞い飛んできて、大きな声を張り上げる。


「クラーク! この船は悪者だからやっちゃって良いよ!

 詳しい話を聞く必要があるだろうから、船員は殺さないようにね!」

 

 すると海から大きなタコの足が現れて、その船へと巻き付き、凄まじい力でもって船を持ち上げ始める。


『アイアイ! おまかせくださいッス!

 ああ、黒コートの人達、そこからちょっとどいてくださいッス!

 今からそこにコイツらを落としますんで!!』


 そんな声が響いてきたかと思えば、キャロラディッシュの魔術によって巨体となったタコ、クラークが姿を見せて……持ち上げた船を雑に振り回し、乗っていた船員達を港へと振り落としていく。


 振り落とされた船員達は強かに身体を打ち付けて倒れ……それを捕縛しようと黒コートの男達が一斉に殺到する。


 そうやって船員全員を船から無理矢理下船させたクラークは、掴んでいた船をそっと水上へと戻し、巻きつけていた足から解放するが……その船体は歪んで軋み、吸盤の跡がくっきりと残っており、どうやらそこから浸水までしているようで……ゆっくりとその船体が沈んでいく。


『あ、いけねっ!?

 これ、沈めちゃ拙いんスよね? でもずっと持ってるってのもダルいしなぁ……何処か陸上に置いて良い場所ありません?』


 いきなりそんなことを言われても、大きな帆船を置ける場所などある訳がないだろうとか、そのまま支えていろとか、どうしてもなら造船所まで運んでいけとか、そんな声が黒コートの男達から上がり……クラークは渋々といった様子で、沈みかけている船を足で支えて、造船所があるらしい方へと運んでいく。


「……全く、姿を見ないと思ったらシーは一体何をしておるんだ……。

 クラークもクラークで馬鹿な真似をしおって……」


 その様子をぽかんと眺めていたキャロラディッシュがそう言うと、ソフィアとマリィはなんとも嬉しそうな声を上げて笑い出し……シーを呼ぼうと、その名を呼び始める。


 するとクラークの側を飛んでいたシーは、キャロラディッシュ達がここにいるとようやく気付いたようで……拙い所を見られたなと、そんな顔をしながらキャロラディッシュ達の下へと飛んでくる。


「いやー、ごめんごめん。

 クラークと色々話してたらなんか盛り上がっちゃってさ。

 積み荷の積み下ろしとか、魚の水揚げとか、色々手伝ってたんだよ。

 いやー……海は海で色々あって楽しいもんだね? ここにオイラの分体を残しておくのも良いかもしれないなー」


 飛んでくるなりそう言って、笑顔を見せてごまかそうとするシーに対し、キャロラディッシュはただただ大きなため息を吐き出すことしか出来ないのだった。


お読み頂きありがとうございました。

次回はこの続きとなります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クラーク、楽しそうで何より。 [気になる点] シー、お前さんはお前さんで…… [一言] お子たちには大受けでしょうね。
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