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魔術の探求者 キャロラディッシュ公爵  作者: ふーろう/風楼


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43/101

シー


 翌日。


 キャロラディッシュ達は馬車に乗り、件の町を離れて目的地へと向かっていた。


 昨日の妖精騒動で少しごたつきはしたものの、なんとか予定通りに出立することが出来ていて……そうして道を行きガタゴトと揺れる馬車の中でキャロラディッシュは大きなため息を吐き出す。


 人前でソフィア達が呪いに侵食された妖精をもとに戻してしまう程の癒しの力を使ってしまった件については、あくまで解呪の魔術だったということでなんとか誤魔化し、またそれを目撃したのが病院の職員だけだったということもあり、どうにか口止めに成功していた。


 魔術の才能に恵まれたキャロラディッシュの後継者。

 その力について触れ回れば職を失うのは勿論のこと、将来の領主に目をつけられてしまうということにも繋がる。


 であればと進んで口を閉ざす者が大半で……更にはかの妖精が、元の姿と正しき力を取り戻したあの妖精が、あの光景を目撃した者達をしっかり見張ってくれるというのも、大きな安心材料であると言えた。


 元の姿を取り戻し、妖精としての力を取り戻したそれは、病院の敷地内に早速とばかりにりんごとぶどうの苗を植えて、その世話をしながら……病人達に恵む為の果実の世話をしながら、職員たちを見張ってくれているようで……何かがあればすぐに報せてくれるとのことだ。


 あの場面を目撃した職員全員を、たった一人の妖精が見張れるかという疑問を抱きもしたが……、


『ああ、それなら大丈夫、オイラは群体の妖精だから。

 インプだって世界のそこら中に居ただろう? それと同じでオイラはオイラが思うがままに、魔力がある限りはいくらでも数を増やせるんだよ。

 そして意識は群れ全体で共有しているからね、何かがあった時の連絡は一切の遅れ無しに、一瞬でお届けさ!』


 とのことだった。


 一瞬で連絡が届くのはありがたいことだったが、それは連絡を受け取る為の、一人の妖精がキャロラディッシュ達の側にいなければ成り立たない話であり……つまりは今この馬車の中にも、かの妖精のうちの一体が存在しているのだった。


「まぁまぁ、そんな渋い顔をしなくたって良いじゃないか。

 悪さをしようってんじゃないんだ、ただあの子達にお礼をしたいっていうか、あの子達の役に立ちたいだけなんだよ。

 それにほら、アンタの家にも色々な果樹があるんだろう?

 ならオイラが側に居て損は無いってもんだぜ、どの果樹も元気に育て上げて病気知らずの虫知らず、滋養たっぷりの美味しい果実を成らせてやるってもんさ」


 自称女性の、シーと名乗ったその妖精は、少年のような声でそう言って、その小さな体を宙でくるりと回転させる。


 手に乗る程の小さなその身体は、妖精にありがちな羽根ではなく、魔力によって浮かされていて……実際にシーの背中には羽根のようなものは一切なく、インプの時にあった尻尾も綺麗さっぱりと無くなっている。


 大きさ以外は完全に人の姿をしていて……だが魔力の保有量と在り方が完全に人外のそれで……そんなシーをじっと見やったキャロラディッシュは、もう一度大きなため息を吐き出す。


 シー自体に思う所がある訳ではない。

 ソフィア達の味方が増えることは喜ばしいことであるし、キャロラディッシュは重ね世界の住人達にはそれ相応の、他の魔術師以上の敬意を抱いてもいる。


 そんなキャロラディッシュが渋い顔をしたのと、ため息を吐き出した理由は、ソフィアとマリィの想定以上の成長具合にあった。


 マリィがいつの間にか大樹の魔術を習得していることにも驚かされたし、ソフィアとマリィが共同でとはいえ、呪いを癒しの力で無理矢理に崩し、シーを回復させたことにも大きく驚かされた。


 解呪の魔術ならまだしも、癒しの魔術でもって回復させるとは。

 それもこちらの生物ならまだしも、重ね世界の住人……未だその在り方の解明がなされていない妖精を治してしまうとは……。


 一体二人がどうやってそれを成したのか、キャロラディッシュには想像することすらかなわず……そうしてキャロラディッシュは渋い顔をし、大きなため息を吐き出していたのだ。


 それは嫉妬でもあり、焦燥でもあり……探求者として、二人の保護者としての喜びでもあり、70過ぎのキャロラディッシュは、己の感情をうまく整理出来ず、露骨な態度として表に出すことしか出来なかったのだった。


 そんなキャロラディッシュのことを見つめながら、もう一度くるりと回転したシーは、無言ながらもどうやらキャロラディッシュのため息が自分に向けられたものではないと……悪意あってのものではないようだと理解して、ソフィア達の方へとふよふよと飛んでいく。


 シーが飛んでいった先でソフィアとマリィは、ビルから人前で力を使わないようにと、何かする前に一言相談して欲しいとの説教を受けていて……長々と説教を続けるビルの後頭部に狙いを定めたシーは「もうそれくらいで良いじゃないか!」とそんなことを言いながらの体当たりを決めるのだった。


 


 それからキャロラディッシュ達はいくつかの町に立ち寄ることになったが、ビルの説教のおかげか、ソフィアとマリィが力を使うようなことはなく、これといったトラブルが起こることもなく、平穏無事に旅程は進んでいって……そうして何日かが過ぎた頃、街道を行く馬車の中に潮の香りが流れ込んでくる。


 今日中に目的の港町、フェリークスに到着すると聞いていたソフィアとマリィは、海が近いことを感じ取り、そわそわと心を沸き立たせ、早く海をみたいと、海を眺めながら散歩をしてみたいと、言葉をかけあって、手を取り合ってきゃぁきゃぁと騒ぐ。


 そんな二人の子供らしい様子を見ながらキャロラディッシュは、さて、フェリークスに現れた化け物とはどんな存在であるのかとそんなことを考えながら……ビルから受け取った怪物に関する資料を手に取り、その中身を眺めるのだった。


お読み頂きありがとうございました。


次回はフェリークスに到着です。

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