1-3 ロールパン子とフランスパン子
目を覚ますと病室だった、という話。
―――静かだ……。
どうなったんだ、俺? 確か、電磁嵐が迫っていて……。
生きてんのかな……、今。こーやって、考えてるって事は、やっぱ、生きてんのかな?
でも、何だか疲れた……。
ごめんな、みんな。俺、いつまでたっても何にも出来ないまんまだ。
このまま起きなければ、楽になれるかな? 何もかも、忘れて……さ。
憎悪も後悔も、そして許せない俺自身も。何もかも、終わりにして。
『また、逢えるよ』
―――誰だ? 子供? ……髪の長い、綺麗な子。
『ボクが、………て、あげる。』
そうだ、約束したんだ。あの時、また逢おうって。魔法を使う、不思議な子。そう、名前は……。
俺は、ここで目が覚めた。あたりを見渡すと真っ白いカーテンで四方が仕切られている。天井も、白い。
ちなみに俺が寝ていたベッドのシーツや上掛けなんかも全部真っ白だ。微かに消毒液の匂いが漂っている。恐らく、病院とかのたぐいの場所なのだろうけど?
耳をすますと人の話し声が聞こえる。
「もう~、またなの~? 最近働き過ぎよ? こんな事でもなきゃ、全然顔も見せないしさっ!
リエルやアイカが寂しがっちゃって仕方ないわよ」
若い女性の声だ。
「―――すまないな。時間が空いたら会いに行くよ。
じゃあ、ツクミ。後を頼む」
続いて、若い男か、或いはハスキーな女性の声。
「はいはい。ツクミさんにお任せっ!」
足音が遠ざかっていく。そして今度はこちらへ近づいてくる軽い足音。そして、シャッとカーテンが勢いよく開かれる。
「うわ、ビックリしたッ!!」
……いきなりそんな事を言われても。でも、綺麗な人だな。長いストレートの黒髪がよく似合っている。
「……あの、ここはドコなんですか?」
ようやく一時の驚きから立ち直ったのか、白衣を着たその女性は柔らかい笑顔で答えてくれた。
「……ああ、ごめんなさい。ここは貴方が目指していた場所の……まぁ、病室よ。
ライト・エルズワースさん」
「え、じゃあ、俺―――」
辿り着いたのか? 忍者組織の本星に?
「だけどよくもまぁ、あんな無茶な事するわー。幾ら防衛用って言っても、あの嵐までは管制の方でも制御出来ないんだから。救助に行った人に感謝しなきゃダメよぉ?」
白衣の彼女は茶目っ気たっぷり、と言った感じで俺を窘める。
「そうか、俺、二度目の嵐にやられて―――――そうだ! 俺の船は……?」
「ちゃんと曳航して、今は整備部のメカニック総出で修理中よ」
そ、そうなのか。良かった。
―――――いや、ちょっと待て!!
「だ、ダメだ! いきなり部外者が触れたら、防御システムが働く!」
慌ててベッドから体を起こそうとしたのだが。
「いっ……!!!」
胸がズキリと痛んだ。一瞬、呼吸が止まる。
「ダメよ。まだ、安静にしてなくちゃ。
船内で打ち付けられたのが原因だと思うけど、貴方、肋骨3本折れてたのよ。
処置が完璧だったから、もう安静にしてるだけですむけれど……。
それでもあと2~3日は絶対安静にしてなさい!」
仕方なく、俺はゆっくりと元通りに体を横たえる。
「それから、貴方の船のセキュリティさんはちゃ~んと納得させてから作業にかかってるから、安心してちょうだい」
「ケルベロスが外の人間の言う事を聞くなんて、ちょっと意外だな」
「ふふふ。ま、その辺はね。此処には色んな人材が居るからねー。
あ、そうそう。私はツクヨミ・ナカミカド。こう見えても一応この研究室の責任者なのよ」
「お若いのに、凄いんですね」
素直に感心した。だって、見たトコ俺とそう変わらない位の年齢みたいだし。
そこへ、にぎやかなお客さんがやってきた。
「せんせー! お腹空いた~」
「ドクター、お昼にしませんか?」
ひょっこり顔を出したのは、よく似た雰囲気の二人の女の子。
「こらこらぁ、怪我人が居るのよ! 静かになさい、二人とも」
そういうツクヨミさんが一番声が大きいようなw
「あ、ごめんなさいっ!」
「す、すいません」
少女達はクビをすくめて怒られている。
「この子達も紹介しなくちゃね。
金髪でロールパン見たいな頭の子がリエル、
銀髪でフランスパンの方がアイカ。
さ、二人とも。ライトさんにご挨拶して」
も、ものすごい紹介の仕方だなぁ。
確かに髪型はそのまんまだけど。
「ライトさん、こんにちわー! リエルだよ~」
「初めまして、ライトさん。アイカです」
「へぇ、しっかりしてるんだね。俺はライト・エルズワースって言うんだ。ヨロシクね」
と、初対面の相手に名乗ったら、意外な返事が返ってきた。
「『黄金の調停者』さんでしょ? リエル、知ってるよ~」
「マスターが以前話してくれましたから」
えっへん、とでも言いたげな二人に慌てた? のはツクヨミさん。
「えー? なにそれ? 私、聞いた事無いわよ? なんであんた達だけなの?」
「知らな~い。それより、せんせー、お腹空いたっ!」
「お茶、もう入れてありますから。ご飯にしませんか、ドクター」
どうも少女達にとっては俺の事よりも、食事の方が大事らしい。
ま、当然か。俺だって超腹減ってたら、何か喰うまで機嫌悪いし(笑)。
「じゃあ、そうね。アイカ、食堂で適当にライトさんの分のお昼ご飯見繕ってきて。
みんなで一緒に食べましょ、ね」
ばちん、と美女にウインクされては断れない。それに、彼女たちと一緒なら楽しいだろうと思う。
「……そうですね。食事は人が多い方が楽しいですからね」
「はいはーい、そんじゃ、リエルちゃんが行って来る~!」
元気良く手を挙げて、早速出て行きかけるリエルちゃんの手を、ツクヨミさんがはっしと掴んだ。
「はにゃ? せんせー?」
「アンタはダメよ! アンタに任せたら果物とかケーキとか、そんなのばっかり取って来ちゃうでしょ!
アイカ、行って来て!」
「えー、だって、果物もケーキも甘くっておいしーのに~!」
「はい、分かりました」
くすくす笑いながら、アイカちゃんが出ていった。