説明回らしい説明回
ヒノはプレハブ小屋に入ってアンズと話すことにした。
さっき引きずられてった男の人とか、気になる事は滅茶苦茶色々あったから。
さて、小さめのプレハブの中は雑多な物で溢れかえっていた、将棋盤や苔の飼育書やアイドルの壁掛けポスターのような趣味臭さ溢れるオブジェクトたちがあり、家具はぼろっちい円テーブルがあったり、高級そうで威圧感のある壁時計があったり、とにかく統一感が無い。
そんな多様性が色んな人間の出入りを感じさせる。
「で、なんで俺を呼んだ?」
ヒノは円テーブルを挟んでアンズと向かい合いながら、問う。
「ヒノ君、私一緒に戦ってくれるなら来てって言ったよね?」
アンズは怪訝そうに答える。
「ああ、そうだけど、お前のあの程度の言葉だけで伝わるわけないだろ」
「あのね、一緒に戦ってくれる仲間を探してるんだよ、私」
「……だからさ、何と戦うのか言ってくれよ」
アンズは一瞬文句を言いたそうな顔つきをした、だがすぐにそんな表情を微笑を携えた者にした。
「うーん、どう言えばいいかなぁって昨日から迷ってるんだよね、壮大な話だから……本当のこと話しても中二病とか言われそうだから」
アンズがどう伝えるか迷ってる間暇だったので、ヒノは部屋を見回す。
「あれ?」そして円テーブルの上に写真があるのに気付いた。
アンズと、先ほど引きずられていった男と引きずった女、そして知らない人が何十人もうつった集合写真があった。
「あー、それ?これはこのプレハブによく集まってた人たちだよ」
アンズは写真を手に取って寂しそうに言った「この中で私と」とうつっているアンズ自身に指を差し「この男の人と女の人」
そして先程ヒノが見た二人を指さし、そして数人を続けて指差していく。
ほとんどの人間は指さされなかった。
「”敵”と戦って生き残れたのはこれだけ、その”敵”と一緒に戦ってほしい」
アンズはヒノが写真を見つけたのをきっかけに、話したかった事を話し始める。
「……え?」
ヒノはそう聞くしかなかった。
「そのね、この前戦ったガードの一番強い奴がこの世界そのものを何か月か前にデリート……つまり世界崩壊させようとしてたの」
「何言ってんだ、お前」
アンズの言葉はヒノの理解を越えていた。
「だから、今の私たちみたいにチートが使えて、武器を出せて、そいつらに攻撃が出来る……戦える人たちで集まって、戦ったらほぼ死んだ」
昨日彼女と共にガードと戦い剣をふるったヒノは、嘘のような彼女の言葉が真実と理解できてしまった、スケールが大きくイマイチ実感はできなかったけど。
世界を崩壊させようとする連中と戦って、それで被害者が大量に出ましたなんてそうそう実感がわくわけが無い。
「その後戦いはどうなった?」
「うん、その"最高位ガード"に犠牲を出しながら痛手を負わせて、3割くらいのダメージ与えて撤退させた」
犠牲を出しながら、その一言に重たい物語が隠れていることはヒノにわかったが気にしないフリをする。当たり前のように彼女が言ったのはほじくられたくない内容だからなのかもしれない。
わざわざつっついて面倒な怖いことにヒノはしたくなかった。
「3割?ってなんか、微妙な数字じゃね?」
「そう3割、今から一週間か二週間くらいたったら怪我を修復してまたデリートしようとするだろうくらいしかダメージ与えられなかった」
「なるほど、つまりこういうことか」
ヒノは彼女がやってほしいことを理解した。
「……この世界を消そうとしてるクソ強い奴と、お前と一緒に戦えってことだな?」
そして、その理解を口にした。
「そう、そういうことだよ、まぁあっちの方が強いからどうしようもなく負けちゃうかもしれないけど」
「なるほど……世界を滅ぼすような敵は、まぁ強くて当然だろうな」
「うんそうだよ」
アンズは当然のごとく頷く。
「ところで世界を文字通り消滅させる奴は本当にいるんだよな?しかも数週間後にそれするんだよな?」
またしてもアンズは当然の如く頷く。
「そんなのがいるなら戦う力をつけないといけないじゃないか!特訓とかしなきゃダメなんじゃないか?!」
ヒノは焦る。世界を滅ぼす存在がいるという恐怖がようやく沸いてきた。
「訓練もしてるし、仲間も集めてるよ、だけど戦いたくない人が多いみたい」
アンズは少し怒り交じりに言った。世界を滅ぼす相手以上に、戦わない人に文句がありそうだ。
「……じゃあ、俺の他にお前と一緒に戦ってくれる人はいるのか?」
アンズはさらりと「いない」と言った。
冷たく寂しい言葉だったし、若干恨み節が混じっている。
「さっきの羽交い絞め二人組は?写真にいるし仲間なんだろ?」
「一緒に戦ってくれないって言ってた。それどころか……私も戦うやめて残りの人生過ごせって言うの」
この言葉にもまた恨み節が混じっている声だった。
「ほかに仲間のアテはあるのか?」
「全然ない、前回でほとんど戦意喪失した……私のチート"他人のダメージを肩代わりする"があって死人普通に出たしね」
「世界が滅ぶっていうのなら、もっと一緒に戦ってくれる人いると思うんだが?」
「そもそもガードと戦える"力"を持った人が少ないし、相手が強すぎるんだよ、正直ヒノ君も怖気づいたなら邪魔だから戦わないで」
ヒノは苛立った、怖気づいてるんじゃないかと問われた気がして、そんな事はないと言い張りたい妙な意地があった。実際のところ恐怖は普通にあるけど。
「大丈夫だ、俺は戦う、よくわからないけど俺が世界を守ってやるよ」
だからアンズにややかっこつけた声と顔で宣言した。状況とかいまいちよくわかってないけど、世界がなんかヤバいのはわかったから。
「ありがと、ヒノ君、一緒にたくさんの命を守ろう」
アンズはヒノの手を握りしめた、握手である。
ヒノの胸が熱くなった、目の前の少女を……アンズを助けられるような人間になれるかもしれない、世界を救う人間になれるかもしれないと。
英雄になりたい。その期待は何かを成し遂げたい子供が持っていてもおかしくは無いモノだ。だからヒノがこの場面に直面して、俺がそれになってやると意気込むのはある意味仕方ないと言える。
だが、ヒノはその英雄願望が自分の歪みから来るものと、気が付いていなかった。