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9月4日から9月5日  だいたい同じもの

 9月4日  23時43分

 

 男が裏路地をふらふらと歩いていた。どこに行けばいいのかわからず彷徨っていた。


 偶然、ゴミ捨て場にまだ綺麗なフード付きのコートが投げ捨てられているのを見て、それを取った。

 そして迷うことなく着けて深くフードをかぶる。誰にも顔を見られたくなかったから。

 ゴミとして扱われるようなものは、当然着たくなんてない。

 だけど、自分にはそんなものこそあっていると彼は思った。

 ただただひたすらに絶望と虚無を感じている彼は。


 ふと、彼に声をかけるモノたちがいた。

「おい!痛い目見たくなかったら金を出せよ兄ちゃん」

裏路地には不良の集団がいた。

 どこにでもいるくだらない不良だ。フードをかぶった男は舌打ちした。

 頭をガシガシと掻いて、不良達に忠告する。


「邪魔なんだ、アンタら怪我するぞ」

「あ、テメエこっちは5人だぞ?なめてんじゃねーぞ!」

 不良の一人が男に殴りかかる。

 しかし男は攻撃を見切って最小限の動きで躱した、そしてローキックを当てて転ばせた不良の首を蹴りつける。

 不良は気絶した。首の骨も折れたようである。死んだかもしれない。


「なんで弱い奴が出しゃばるんだ」

 男が、寂しそうにつぶやいた。


 残りの不良がざわつく

「テメエ!よくも仲間を!やっちまえ!」


 男は攻撃を仕掛けてくる不良どもの攻撃を流れるように避けて反撃し、そんな流れ作業で気絶させていき、手早く全滅させた。


 一応、不良達は生きていた。骨折していたり、目が潰れていたり指が潰れたり、二度と治ることない大怪我をしているが。


 だけど、男はそれを見て罪悪感や感慨に浸ることも無かった。

 ただ「クソ!」とフードを強く握りしめる。ひたすら苛立っていた。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 9月5日13時23分


「この街って他と違うよね?」


 昼休みの終わり際に次の授業を担当する先生の声でヒノは目覚めた。学校に来てアンズの妙な視線が無くなってスッキリしたと張り切って勉強したら、疲れてしまい昼休みは机につっぷして寝過ごしていた。

 そうしていると声が聞こえてきた。


「ああ、確かに三つに別れているのは独特ですね」

 教卓近くで田中君が最近転勤してきた先生と話していた。

 ヒノの少々苦手な人物である田中君の声が紡ぐ話は大して興味ないのに、耳の機能が無理やり脳にその声を届けた。


「うん、この学校に配属されて驚いたよ……同じ街なのにまったく場所によってまったく姿が違うんだもの」

「普通区、近未来区、回帰区ですね」


 ヒノは自分住んでいる桜織町が北の普通、西の未来、東の回帰、と三つに別れているなど知っている。

 ちなみに南は桜織町じゃない別の街、それがこの町の常識なのだ。


 なのに田中君への苦手意識が耳を傾けたまま戻さない。

 知りきった話を聞かせてくる。

 聞きたくないので持ってきた今にも打ち切られそうなマイナーラノベ「ヂーギンペムルマ」の三巻を開いてみたが田中君の声のせいでイラつきすぎて内容は一切入ってこず集中できない。


 物語がどんなものか、わからない。


「最初に作られた普通地区は僕やヒノ、アンズさんといった多く住む普通に作られた場所、近未来区は最新技術を盛り込んで、回帰区は江戸時代をモチーフにした一番新しい区域です」


 田中くんの論説が終わるとともに授業開始のチャイムが鳴った。

 ヒノはそれからの授業をほどほどに集中して受けた。

 ――――――――――――――――――――――――

 放課後。


 ヒノは手につまんだ紙を見て、スマホでそこに書かれた住所を検索した。

 そして、何か凄い事が起きるのではと少しワクワクしながらそこへ向かった。

 その住所は普通区の町はずれ。

 昔に設置されたであろう道路が長く長く、隣町へ続いているような場所。


 そこはひどく寂れている孤独が充満した場所だった。

 しかしそんなの道路の脇に一軒だけ堂々と立っている建物があった、小さめのプレハブ住宅でそこそこ綺麗なので最近建てられたようだ。


 ヒノはその建物の前でこんなへんぴな所に建てちゃうなんて酔狂な別荘か?と畏怖する。

 

「……」

そうして紙を見る、スマホを見る。やはりここがアンズに書かれた住所の場所だ。

「なんで俺来たんだ?」


 一緒に戦ってくるなら来てなどと言われたけだヒノは別に来るつもりはなかった。

 だがあの言葉が気になって自然と足が動いてしまった。


「……帰ろっかな」

 来てしまったがやはりなんだか右へ回りて帰るか迷う。

 静寂と不気味ばかりのこの場所からかなり逃げ出したかった。

 しかしヒノは、逃げ帰るのはダサいかもしれないと、後戻りするのも迷った。変な維持である。


 そうしてしばらくヒノが何も出来ずにいると。

「帰ってよ!」

 突然プレハブの中から叫び声がし、静寂からの轟音にビビって「すいません!」とヒノは謝ってしまった。


 次の瞬間バン、とドアが開いて。ヒノはさらにビビッて。


 ドアからずりずりとそこそこ強そうなムキムキ男が、そこそこ気の強そうな顔をした女に羽交い絞めにされて引きずられ出てきた。


「はいはい、ちょっと通るけど気にしないでね」

 女は引きずりながら、ヒノに気づいて言った。

「おい!離せ!俺はあいつと話さなきゃいけないんだ―――‼‼‼」

 男はとにかく拘束を解こうと暴れていた、しかしどこか遠慮がちな暴れ方であった。女に気を使っているようにヒノには見えた。


「離せ離せ離せ‼‼‼‼‼‼お前が離さないとアンズと話せないだろ!」

「もー、気持ちはわかるけどそんな押しつけがまし―態度じゃ話聞いてもらえないって」


 そしてそのまま男と女は羽交い絞めのままユウのそばを通り過ぎ、ずるずるどこか遠くへ行った。


「な、なんだったんだあの人たち?」

 ヒノは考えても何者かどうせわからない二人を一旦気にしないようにした。


 そして、プレハブの中を見た『帰ってよ!』と叫んだ声は昨日からよく聞く声だったからそちらを見やる。

 やはり玄関にアンズがいた、叫んだ声はアンズのものだった。


 ヒノは「よう」と彼女に声をかけた。

 アンズがなぜだか涙ぐんでいるのには気づいてるし興味もわいたが、それに踏み込んでいっていいか迷って、結局ひとまずそれは気にしないことにした。


 触れない優しさというのとはちょっと違う。ヒノはこの状況に触れたいけど、ビビってたからそうしないだけである。

【設定資料;チーギンペムルマについて】

チーギンペムルマの内容はファンタジー。

主人公が、幾人かのヒロインとともに世界を冒険していく邪道ファンタジー。


一巻は普通の涙あり笑いありの冒険ものなのに、二巻で主人公が借金を負ってギャンブルで逆転しようとする内容になり、三巻で主人公が金持ちになったことで冒険を完全に止めて貿易を始め外交問題と向き合うことになる。そして最終巻ではアイススケートで神と閻魔が対決している。

等と、ジャンルも雰囲気も毎巻変わる。なので、読者は置いてけぼり。


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