9月13日 木曜日 お前が俺と一緒の道を歩いてくれるなら
7時51分
テレビのモニターでは人が人と駄弁っていた。
「中東でテロ、数百人死亡ですか」これはニュース番組である、番組の放送時間合わせのためとりあえず喋っていた。
「恐いですねぇ、しかし、動機は?」
「今回は、宗教上の理由です、宗教の教えと国が反したのです」
「なぜここまで人を殺せるのですか」
「テロリストにも正義があるからです」
「正義のためなら、永遠に戦いが終わらないじゃないんですか?」
「ええ、そうですね、2000年を越えても人は戦争してますもの」
―――――――――――――――――――――――――プツン、と興味ないのでヒノは見ていたテレビの電源をきった。たまにはニュースでも見てみようと思ったが、やはり堅苦しい話は苦手である。
「うし、行くぜ」
とにかく今日は目的があるから、気持ちがはやる。
どうにかしてヨウスケ・アンズを和解させること、それをすることで頭の中はいっぱいである。
ゴキゴキと首を鳴らして、手を叩いて。
スピーディでグレイトにヒノは中学校へ向かった。走っていたら途中で転んで膝に擦り傷を作った。
だからちょっぴりローテンションに小走りで向かった。
「ホイ!」そしてヒノは教室のドアを開けて、入る。
「アンズは……?」中にいる奴を見回してもその中に目的の彼女はいなかった。
「え?まさかあいつ休んだ?」少し不安になる。
「まだか?」自分の席について二十秒待つ、しかしこなくて休んだのではとすごく不安になる。そうだとすると話し合いの機会がない。
「……いや、落ち着け俺」頭をぽりぽりかきながら、ヒノは気持ちがぐわんぐわん揺れるのを耐えた。
そして12.43分がたち、アンズは教室に入ってきた。
「アンズ、よう」
「うん、おはよ」アンズのそっけない返事は、まだヨウスケとの喧嘩を気にしていることを示していた。
「ヨウスケとの和解を諦めないでくれ!」いきなりヒノは言った。
「だから、無理でしょ、行動の原因が憎しみなんだし」
「諦めないでくれ!」強引である。
「あの、ヒノ君……」
「諦めるなよ!」ヒノなりになりふり構わず連呼した。
「ヒノ君!こっち見て」ヒノはそう言われたのでアンズの顔を見る。激怒していた。
「ふざけてるの?」冷たい、機械のような表情である。
「お……俺は本気だ!」若干恐怖しているのを悟らねぬヒノは前のめった。
「ハア……」失望としか言えないアンズのため息が出てくる。
「人と、人ってのは仲良くするものだぜ」ヒノはもう一息かと思いかっこつける。まったくもう一息じゃないのに。「ヒノ君、今日は話しかけないで」アンズは頭に血が上りまくりでいた、今にもヒノに殴りかかりそうな雰囲気だった。
これ以上やるとアンズがもっと怒ってしまってむしろヨウスケとの和解に遠ざかりなのでヒノは一時退散してた。一度時間を開けもっと良い作戦を考えながら、ついでにアンズを冷静にさせる目的だ。
3時間目の体育の時間は柔軟体操であった。グラウンドにて二人一組でペアを組んで体をほぐす。今日からやる予定だったものの用具が紛失したから柔軟体操くらいしかやることが無いのである。
ヒノのクラスは偶数なので、余る人間がいない。ヒノはよし!そろそろアンズも冷静になっただろう!と「よし!俺らでペアになろうぜ!」とアンズに言った。ヨウスケとの和解に前向きにさせたいから。
「男子と女子なのに?かなり密着する技もあるのに?」と言い返される。
そして周囲の女子から「堂々とした変態っちゃねあん人……」等と軽蔑の目で見られた、そして男子からは「クラスで浮いてるだけあって、スゲエなあの変態」
ヒノは男子と女子が密着することをいやらしいととらえる周りにいら立った。。まったくいやらしい気持ちは無かったのに。だがいやらしい気持ちを否定すると余計に”あっ、こいついやらしい気持ちあるんだな”と思われるので黙っておいた。
何をどう足掻いても、いやらしい気持ちが無いということを信じてもらえなそうだったから、ヒノはあえて何もしない!何もしないことは何かをやれば傷が広がる時の最良の選択である。
そして結局かなり嫌いな田中君とペアになった。
先程変態と思われたせいで他に組んでくれる人がいなかった。
この前青髪の陰謀から助けてくれたことに感謝はしているが、ヒノはそれでも嫌いである。
彼が勉強だけでなくスポーツも万能だという嫉妬込みで嫌いだ。
そしておまけに嫌いなのに田中君がクラスの中でそこそこ人気者という点もなかなかにヒノに嫌わせていた。
「おい、ヒノ」
「ん、なに?」田中君が体操でヒノの背中を押しながら聞いてくる。
「なんでアンズの様子が今朝からおかしい?やけに態度が冷たい」「あいだだだだだっ!」ヒノは体がそこまで柔らかくなくて苦悶にうめいた。そうしながらも、答える。「ちょっとあいつっ痛ッ、友達とッ、喧嘩してててていだだだ」
「なるほど、それでか、それで朝お前は騒いでたのか」
「どう思う?今のアンズ、田中君はどうしたら機嫌良くなるって思う?」田中君の高い観察力にヒノは少し聞いてみた、アンズがどうしたらよりよい状況になるか。
田中君は嫌いだが、それでも能力の高さは認めているのだ。
「お前は馬鹿か、なぜわからないんだ、だからクズなんだよ」
「あ?」イラっときながらも、ヒノは田中君の言葉を「じゃあお前はわかってるんだな?」と促した。
「当たり前だ、もっとまともにアンズに仲直りさせるアプローチを変えろ、お前の方が俺よりアンズと関り深いんだから」
「……わかってるよ!」ヒノは田中君に理解してることを言われてムカッと来た。アプローチを変える必要性、その程度も俺がわからない人間に見えますか?と。
だが、それと同時に納得した。アンズとここ最近ずっと一緒いる自分も観察力の高い田中君も両方が今のままじゃアンズを良くできないといった。つまりこれは確実に真実なのだろうということ。
―――――――――――――――――昼休み
アンズへのアプローチが思いつかず、ヒノは一旦よく考えることにした。
頭脳労働は苦手なことだったがある程度思考をまとめて昼休みが終わった。
思考がまとまっていないせいで朝まともなことが言えなかったとヒノは感じたのだ。
―――――――――――――――――放課後 二人しかいない廊下
「アンズッ‼‼」ヒノは、とにかくアンズに直行した。
もしも今日やるべきことから逃げたら、やるのは明日になる。明日に回せば明後日に流してしまいそうで、それがヒノは嫌だった。
「なに、ヒノ君?」
「言う事は変わらない、ただヨウスケと和解してくれってことだ」
「だから、私だけが和解する気でもあっちに和解する気が無いなら意味が無いんだよ、なんでわからないの」
「わかってるよ、わかってるから俺はまずお前に和解する意思を捨てないで欲しいんだ、その後でヨウスケにも和解する意思を持たせるから」
「私を殺そうとした相手と、和解させる?ねぇ、ヒノ君、もしも私が殺されたらどう責任取る気?」アンズの言っていることは、在り得ないことであったが、妙に重たさがありヒノは少し後ずさった。だが、踏みとどまった。
「私も考えたよ、どうやったらヨウスケと仲直りできるか、でもダメなんだよ、向こうは殺すとまで言い切ったんだよ、じゃあ、どうしろっていうの」
「俺が殺させない、絶対に俺が殺させなんかしない」二回言った。
「俺が、和解の環境を整える、お前のできない事を俺がやってやるからな!」勢いでヒノは言った。言いながら”俺に出来てアンズにできない事なんてあるのか?”と疑問が湧いたが口に出したのでもうしょうがない。
アンズは「そんなこと、出来るの?」と聞いた。ヒノがそういう方面に実力が無いことを知っているから、自身があるのかとても疑問であった。
「俺は……」ヒノは、俺なら出来る。と言い切りそうになった。だが、違うと感じた。
だから「俺だけじゃできない、お前が一緒に和解しようとしてくれるならできる」と返した。
いまいち決まらない気がしたので「お前が俺と一緒の道を歩いてくれるなら出来る」と付け加えておいた。
アンズはヒノがどのくらい本気で言っているのかしばし考えた後で「だったら、やって欲しい、お願いヒノ君」その言葉にヒノの手を取る。
「あぁ」ヒノは手と握り返しながら今の自分がまさにヒーローっぽいと満足しながら、英雄願望を満たしながらもそれではない別の、心の充足を得ていた。




