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平和な日本で敵と遭遇ナウ

「あいつのことはガードって読んでる、細かい説明は今は省くけど奴は危ないってことだけ理解して」

 アンズはそう言ってしっかりとした足取りで『ガード』と呼ぶ大剣を携えた巨大デッサン人形に向き直る。

 ガードはその何の意思もない挙動全てからひしひしと『ヒノを殺そうとしている』という目的だけが伝わってくる。


「あなたは下がっといて、何も知らないまま戦ったら死ぬから」

「……お前はどうするんだよ?」

「私はあのガードと戦う、倒さないといつまでもどこまでも追ってくるし」

「お前を置いて逃げにくいだろ!お前も逃げろよ!」

「……とにかく逃げて!大丈夫、、私なら死なない、私があなたを守るから」


 ヒノは渋々従って、その場から回れ右して離れようとして。

 横目でアンズが一筋の汗を流しているのを見た、そうとう緊張しているようだった。

 それでも、どうせ何も自分には出来ないのだから、何か危険な奴に立ち向かっていくアンズを放っておいて帰ろうと思った。


 だけど、足が止まった。

 なぜ自分が消されそうなのか、いったい何が起きているのか、何もわからないが。

 アンズが恐怖しながらも自分を狙う何かに立ち向かっている。

 そんな状況で自分が逃げるのは、めったくそに言われるような行動ではないか?と思った。


 それだけでヒノは立ち去れない。

 自分には何も出来ないということを受け入れたくない。

 逃げてしまう人間になることが、怖い。


 例え合理的な判断で無いとわかっていても、馬鹿げているとわかっていても、ヒノは逃げなかった。

 そしてアンズと共にかなり近づいて来てるガードとかいう奴に向け拳を構える。


「ちょ……!?なんで逃げないの!?」

「ダメか?」

 正直に答えるのが嫌なので、理由は言わなかった。

 アンズは「ダメ」と頷く。

 そしてヒノを睨みつける。

「……ご、ごめん……」

 つい謝ってしまった。


 そして「あああ、もう!逃げられないじゃん!」と悲鳴をあげる。

 ガードはもうかなり近くにまで迫ってきていた。


 さらに、ガードが数秒前と見た目は変わらないが、ヒノには突如恐ろしく感じた。

 なんというか、殺気立っているように見える。

「戦闘モードになったね」

「え?」

「奴は権限を解放したの、今から攻撃してくるよ」

 イマイチどういうことか理解できなかった、だけど聞いてる暇は無いので、ヒノは知らないワードはスルーした方がいいのかなあと思った。


 なのでとりあえず今は、大事じゃなさそうな情報の濁流は受け流していくスタイルにヒノは決めた。


 そして。

「え?」

 ヒノは素っ頓狂な声をあげた。

「なに?」

 アンズの目に明らかに変なモノが映っている、文字だ。

『date>wepon>gun』

 という意味はわかるけど、なぜそれが映っているのかわからない文字がそこにある。

 そして、アンズが目をつぶる。その瞬間、彼女の手に拳銃が出現した。


 拳銃と言っても、片手で持てるちょっとしたハンドガンじゃない。

 それは大きく、両手でしっかりとアンズは持っている。


「デリンジャーみたいな形だな、大きいな」

 ヒノはアンズの持つ銃をドラマでしか見たことが無かった。

「フ―――――ッ」

 アンズは呼吸を整えてしっかりガードに向けて銃を構え、撃つ。

 ものすごい音が鳴り、そして銃弾はガードの頭を吹き飛ばした。


「おお!」

 ヒノは威力が凄いと思った、なぜ銃が何もない所から出せたのかということが気にならないほど興奮した。

 だがアンズは「チッ、まだか」と呟き舌打ちをして急いで銃をガチャガチャといじりだす。単発式の銃なのでリロードをしないといけないらしい。


「って、おいおい!アレヤバくね?!」

 ガードは頭をなくしたままブンブン大剣を振り回しながら歩いて来ていた。耐久力は高いようだ。

 それに、先程よりも速くなっている。


「あいつさっきより速くなってる・・・・・!?」偶々、ヒノが地の文を復唱するようなことをいった。

「戦闘の時には、ガードの権限が解放されてより強い敵になるの」

 ヒノは『権限』って何?とさらに聞こうとしたが、アンズが必死でリロードをしているのを見ると邪魔するのははばかられた、のでスルーすることに決めた。


 ヒノは何か出来ることはないかと思索する、せめて近づいてくる敵の足止めをすべきだと感じて

 すぐ行動に移した。

「うおーー―――っ!死ね――――‼‼」

 ヒノは走って、ガードの腹に跳び蹴りをぶちかました。

 素人のわりに、そこそこ良い調子と格闘技の知識とやる気達によって繰り出されるきれいなフォームの蹴りであった、上手く入ればまぁまぁ痛いくらいの蹴りだ。

 まぁ、ちっとも今の相手には効かないわけだけど。


「ぐあっ……」ヒノが攻撃したら逆に足を痛めダメージを受けた。上手く攻撃は入ったのに。むしろひねるとは。

「?」そして次の瞬間腹に違和感がした、見るとガードの脚がめり込んでいた。

「あぎっ」ヒノの肺の空気が無理やり外に押し出され、そして吹き飛ばされた、食らったことの理解が出来ない程の高速な蹴りで。


「げほ、げほ、くそ」欄干に激突しヒノはずりずりと重力に倒れるまいと抵抗しながらも崩れ落ちた。

 気絶しかけたようで、視界がくらくらと歪む。

 ガードは隙の生まれたヒノに大剣を叩きつけよう振りかぶってと走り寄ってくる。


「うわ」どうにか痛みに耐えながらヒノは転がって回避運動を取った。

 先程までいた空間を大剣が切り裂く、ついでに欄干もやすやすと切り裂く。

 一瞬反応が遅れていればヒノの脚あたりがトんでいたであろう威力だ。

 さらにガードはヒノに追撃を加えようと剣を振りかざす。ヒノは逃げようとしたが、間に合いそうになかった。なのに、ガードは素早くバックステップをしてヒノから離れる。


 次の瞬間轟音がした。そしてその刹那空気を何かが切るのをヒノは見た。

 アンズが銃撃で援護して、ガードはそれを避けたようだ。


「こーいうチートで出した銃みたいな武器とか、チートで強化した体とかしかガードには効かないの!データ自体を破壊しないといけないの!」


 アンズがリロードをしながら、叫ぶ。ヒノにその言葉の意味はよくわからなかった。

「あなたも出せるはずだから!それでそいつの隙を作って!囮が入れば私は戦える!」


 なのに彼女はろくに説明せずヒノに言う。

 ちょっと時間をおいて話を飲み込んだ。

 ……たぶん、彼女のように何もない場所から出した武器しか効かないという事か。

 ……そして、自分にもそういう武器が出せるという事か。

 相も変わらず状況がよくわからないけど、出来るだけ今のピンチを乗り越えるために無駄な事は気にしないでおく。


 だが、アンズのように武器を出せると言われても、ヒノにはイマイチどうすればいいのかわからない。

 やはり、ヒノはイマイチ”?”となってしまう。

「クソ!何がなんだかわからないけど、俺の武器出ろ!」とにかく武器が必要だと半ばヤケクソでヒノは叫んだ。


 武器は出ない。


 ヒノは目をつぶって”何かとにかく出ろクソが出ろよクソこの場で戦ってるメンバーの中で俺だけ武器もってねえ一人だけ不利過ぎんだろ、しかも敵は頭吹き飛ばしても動くとかざけんなとにかくなんかでろなんか出ろ、出ないと死ね”と文句と願望を念じた。

 強く、強く、何か自分に使えそうな武器を心の底からイメージする。


 すると、ヒノの手にいつの間にか剣が握られていた。

 真っすぐで長くて両刃でとにかくシンプルな形をしていた。

 この世界では在り得ないほど軽かった、片手でもっているのに一枚の羽の程度の重さにしかない。そんな薄っぺらくてしなる形状。

 ハッキリ言って違和感がある、持っているのに、持っていないような錯覚に陥る軽さ。

「……こんなもんで戦えるのか、重さが無い剣って切れるのか?」


 だけどそういうことは今気にしている時間がない。とにかくヒノの右手に武器が握られ危険から逃れる術が増えた、それだけが大事である。

「とにかくよくわかんないけどやったぜ!」

 と嬉々としてヒノは武器を握りしめガードに斬りかかった。

 ガキン!と金属音が大きく響く。


「うわあ!」ガードが軽々と大剣でヒノの攻撃を弾いたのだ。当然だった。結局使い手がダメだと道具がよくてもダメなのだ。

 所詮ヒノはド素人である。


 そしてさらにヒノを攻撃しようと踏み込んでくる。「ちょ、待て!」

 上手く下がって間合いをとりつつヒノは来た腹への横なぎを剣で防いだ。完全に見切って完璧にガードしたのにビリビリと手に重い衝撃が伝わる。

 防げなければヒノの下半身と上半身は確実に真っ二つになっていただろう。


 ヒノは、かなり危険なことをしているのだという実感が湧いてきてぞくぞくと恐怖を感じた。

 だがパニックになって逃げたりしない。

 逃げたく無いと、歯を食いしばった。

 小便漏らしかけたが上手く耐えた。


「行くぜ‼‼」

 自分を奮い立たせるためにカッコつけて叫んで、走って、振り下ろされる大剣をさっと避けて、ガードをヒノは切り付ける。ガードの胸に剣の傷がついた。

 コレは素人のヒノが奇跡的にやったスーパープレイだ。

「よっしゃあ!」「駄目!下がって!」

 喜びながらもアンズに言われてヒノは気づく。

 ガードの様子はどう見ても剣の傷を気にしてなどいないそれだ。


 有効打は与えられていない、

 ヒノの武器は切れ味が微妙なうえ軽いから威力が低かった。


 おそらくヒノの剣で”普通に斬る”のでは強い相手に対して効果無しなのだろうと、持ち主は理解した。

 だけど”普通に斬るより凄い”攻撃が思いつかず、怯んで、後ずさって、冷静さを取り戻して勢いよくバックステップしてヒノは距離を取った。


 そして剣を両手で握り直す、改めて見ると相手に隙が無く攻めかねる。先程攻撃が当たったのは運だとよくわかった。

「うおぉぉッ!」こうなりゃヤケだと、ヒノは走る。


 今日いきなり短時間のうちに現実感の無い出来事と相対していたせいで、ちょっぴり冷静さを欠いていることに彼は気づいていなかった。


 相手の攻撃の先に全力で攻撃をたたき込むつもりだった。

 そんな実力では、出来ないのに。


 ガードも大剣を振る予備動作をする、それを見て湧き起こる恐れを抑え走る。

 ヒノはそこでようやく、判断ミスをしたと後悔した。

 明らかに、ガードの攻撃の方が自分の攻撃よりも速い。

 このままいけば、確実に自分が死ぬ。


 だけどアンズの叫びが響く、勝利を確信した叫びが。

「ここだっ!」という叫びが。

 そして爆音。

 ヒノの右腕の一部が抉れ、ガードの胸部が吹き飛んでいた。


 ヒノは突然の腕へのダメージでバランスを崩し、ガードは活動できないほど破損し、どちらも前のめりに転げた。

 その原因のダメージはどちらもアンズの銃撃によるものであった。

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