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9月9日日曜日 裏切り者

 アンズが走るのをやめたのは、普通区のビルが立ち並ぶところから少し離れたところにぽつんとある寂れた薄暗さある公園だった、人がいる時が珍しいほど人気が無い場所である。


 ヒノはアンズが止まったおかげで追いついて、そして公園を確認した。

 ブランコだの滑り台だのある普通の公園だ、だいたいの遊具の整備が行き届いておらず汚い。


 そんな中に、ガードがいた。ガードという名前から連想するのが不可能な、青マネキンが剣を持ったというふざけた風貌の奴だ。

 チートを使ったり、世界の秩序を乱すものをデリートする奴らだ、数日前にヒノが苦戦した相手である。


 それが3体いて、そしてヒノたちと戦った旗使いの女を取り囲んで襲っている。

 女が旗や怪力といったチートを乱用していたのがバレたのだろう。


 3対1ではやはり1が不利なようで押されてしまっている。

 ガードは全て剣を使うため、一撃食らえばお陀仏になりかねない。だから女は守備以外できないほど追い込まれてしまっている。


 彼女はどうにか致命傷は受けていないが細かい怪我はしているし、いずれ大怪我するだろう。

 一応あの女は仲間にする存在だし、助けるべきだとヒノは思う、だが。


「無理かな、これ」


 ヒノは敵の数を見て即効諦めた。1体でも強いのに、3体もいるのである。

 はっきり言って嫌だ。

 別にあの女を特別好きなわけでもないのだし。


 人を見捨てるのは忍びないが自分が死ぬ方が怖いのでヒノは、アンズに見なかったことにしようぜと言おうとした。


 しかしすでにアンズは

「うおーっ!」

 叫んでガードたちに銃撃しながら走っていた。


「お、おい!」

 彼女が走ったなら俺も、とヒノも剣を虚空から出してガードたちに走る。

 アンズはもはやだいぶ関係が深く、見捨てるのは流石に無理だ。


「!?お前ら、何だ!?」

 女がヒノ達の到来に困惑した声をあげる。

「ちょっと、話は後!助けるから!黙ってて!」

 アンズはいちいち状況説明する暇はないと叫ぶ。

「……まぁ、そうだな」

 女はアンズに納得する。


 そうして、3対3の混戦になった。


「ヒノ君!二体引き付けて!」

「二体?!囮になれって?!」

「この場所は広いし逃げることに専念すればいける!ヒノ君頑張れ!」

「くそ……俺"しか"できないことか!」

 ヒノは手近にいたガード一体を斬りつける。

 するとそのガードはヒノへ狙いを変えた。


 ヒノは後退り、まともにやり合わないようにしつつ、さらにもう一体のガードを斬りつける。

 そのまま二体のガードを引き付け、後退りする。


「……今ならやれる!」


 ヒノのおかげで気にするガードが減った女は、少し楽に戦えるようになった。


「女の人!隙を作って!」


 女はアンズの指示を聞き、右前にいたガードを旗で殴りつけた。

 強化された腕力によって、ガードはよろける。


「銃撃つ!射線入んないで!」

 アンズが銃撃が、よろけて隙を晒すガードにトドメを刺した。


 ーーアンズはヒノごと撃ち抜いて怒られた経験のお陰で、女に注意喚起をできた。


「女の人!もう一体!!私がリロード終わったらお願い!」


 そしてアンズはリロードしながら女に叫ぶ、ヒノの方を見ながら。


 ヒノはアンズ達から少し離れたところで、二体のガードの猛攻を強化された視覚による超反応で全て避けていた。喋る余裕はなくて必死だ。


 女はアンズの意図を察し、ヒノを追う一体の背のそばまで走った。


 それからまた、ガード一体を旗で横に殴りつけよろけさせた。

 その隙にまたしてもアンズの銃撃がぶちかまされ、ガードは粉々と化す。


「それじゃリロードもう一回するから……」

「いや、一体なら私だけでいい」


 女はアンズのリロードを待たずにガードを旗で縦に殴りつける。

 ガードはふらりとよろけた。


 その頭部に女は何発も連撃をぶち込む。

 何度も何度も、強化された腕力で叩きつける。

 徐々にガードの頭部はへこみ、それでも女が殴り続けた。


 アンズは納得する。

 たしかに一対一であれば、素早く倒す必要はない。そうやって立ち止まって攻撃しまくるのも選択肢に上がる。


 それから女はしばらく、数十秒ガードを殴り続けぺしゃんこにしガードは、動かなくなった。


 これにてガードをすべて倒し、ヒノ達は勝利した。



「へっ、楽勝だぜ」

 戦闘中すべらせて挫いた脚の痛みを我慢しながらヒノは微笑む。

 囮になるという危険をくぐり抜けたことで、テンションが上がっていた。


「……」

 アンズは、ボコボコにして動かなくなったガードのボディを見て喜べなかった。

 人型のそれがいくつもボロボロに崩れ散らばると、どうしても彼女は死体を連想させる。


 もちろん、命が無い相手だから死もなにもないがそれでもボロボロに傷ついてしまった人型はどこか寂しい。


 ふぅ、とアンズは息を吐いた。そういう無駄な感傷はとっととやめる主義だ。

 そうしないと、数多の仲間を失った時壊れてしまうから。

 アンズは違う事を考える、今日この戦いは収穫もあった。


 そう、いきなりだったが三人で連携して戦えた。

 チームプレイが出来たというのは間違いなく良い事だ。


 そしてヒノの方を向くと。


「なんだよ!アンタ!ちくしょう!」

 女の怪力で振り回される旗を必死で避けている彼がいた。

「ヒノ君、どうしたの?」

 アンズは驚いて聞くが、ヒノに説明の余裕は無かった。


「邪魔くさいんだよ!」

 女がヒノに叫ぶ。

 ヒノが必死で攻撃を避ける。


 この状況になったのは、戦い終わって女にヒノが近寄っていて

「もう俺ら仲間だな!」

 とか、せっかく稀代の勝利を収めたからと、かっこつけたセリフを言いに行った。

 すると不機嫌だった女が「どけ」と本気で蹴りを入れてきたのだ。


「なんだよッ!」

 と、その反撃に跳び膝蹴りをぶちかまそうとしたら女に避けられ、そして女が旗で殴ろうとしてきて、それをヒノが体をねじって避け……と、お互いに短絡的な行動をなんどもした結果いつの間にか本気の喧嘩になっていたのだった。


「ちょちょちょ待って待って待って助けてあげたっしょ!?」

 焦るヒノ。

「頼んでない!仲間ヅラするな邪魔だ!」

 イライラして頭に血が上ってしまっている女。


 ヒノは女の攻撃を避け続ける、無駄に反撃しようとしないから安定して回避できている。

 アンズはヒノの姿に安心感を覚えた。

 数回とはいえ実戦経験を積み、ヒノは確実に成長しているようだ。


 それはカタツムリかナメクジのごとく遅い歩みかもしれないけど、それでも進んでいることは確実だ。


 さて、早く二人の喧嘩を止めなければとアンズは柔軟体操をして体の準備をした。


 そんな風にくだらない時間の中、現れる者がいた、突然だった。

 いつの間にか公園の中に入ってきていたが、それがいつのこと誰にもわからない。

 視覚強化を切っていなかった、ヒノだけがその者がいつの間にかいる事に気づき目を見やる。


 ヒノはその者は男か女かすらわからず戸惑う。

 美形な女顔ではある。

 すらりと長い脚を持ってはいる。

 でも、胸が完全に男と同じ程度のサイズだ。

 スレンダーという奴だろうか。


「秩序を乱すな‼‼‼‼」

 という大きな中性的声が、場を沈めた。

 旗使いの女も、アンズも、その声の覇気と唐突さに発声した者を見た。


 その者は、ひらひらとした飾り房がついている”槍”をヒノ達に向けて構えている。

 その表情はとても真っすぐで、決意を持ったものだ。


「大勢が憩いの場としてやって来る公園で本気で殴り合うなどふざけている!」

 と槍を使うのであろう……槍使いは言った。


「この公園どうみても寂れてるし誰も来ないと思うけど」

 ヒノの言葉。


「来ないと”思う”?ふざけるな、勝手に自分の都合の良い可能性だけを信じるな。来るかもしれないし、そもそも戦うこと自体が罪なのだ」

「戦うなっても、むこうがおそってきたんだが」

 と、女が反論する。


「そもそも、貴様らはこの世界の不備を利用し!そして秩序を乱し!秩序を是正する存在に反逆した!」

 槍使いはこれまでで一番大きな声を出した。


 ヒノもアンズも、槍使いの言っていることが分かった。

 世界の不具合であるチートを使い、世界の安定を保つガードを倒したことを怒られているのだ。


 槍使いはガードを指さしながら言っていたからすごくわかりやすい。


「そして、世界そのものにすら牙を向こうとしている貴様らのデータはBANだ!」

 槍使いは槍先をアンズに向ける。


「……久しぶりだね抵抗するよ、あなたの言う秩序より世界を守るほうが正しいと思うもん」


 アンズは槍使いに言い返す。


「久しぶりなのか」

 ヒノは、アンズが槍使いと以前から知りあっているのだと理解した。

 一体どんな関係なのだろう、と疑問に思っていると。


「この槍使いっていう人は、上位ガードっていうガードよりスゴイ権限と力を持った人だから気を付けて」

 と忠告してくれた。


 ヒノは”上位ガード”について色々聞きたかった、だけどべらべら駄弁る暇が無さそうなので言葉を今は心にしまった。


「とにかく、世界を守ることなど諦めて月や花でも眺めて過ごすことだ、恐怖でみじめに顔を歪ませ苦痛に溺れ、無に帰ることになる」

 槍使いはヒノに向かって槍を突き付ける。

「お、俺は世界を滅ぼさせない!守る!」

 ヒノは、突然話を振られたがどうにかヒーローっぽくかっこつけて返答した。


 その返答には高速で、攻撃が返ってきた。

 ヒノの顎に向かって、石突きが迫る。

 視覚強化を解除してなかったおかげで後ろに跳んでどうにか避けられた。

 もし解除していたら、何も見えずに鼻を折られていただろう。


「……視覚強化か」

 上位ガードと呼ばれた槍使いはスグにヒノの能力を理解し、足元の砂を蹴り巻き上げた。

「うわっ!」


 砂が目と口に入りヒノに隙が生まれた。それが見逃されるわけがない。

 槍使いはヒノの腹に蹴りを入れ、さらに持ち手のあたりで頭部を殴ろうとした。

 それをアンズが銃撃で槍をはじいて防ぐ。


 ダメージを抱えたまま戦える相手じゃないので、ヒノは後ろに跳んで距離を取る。

 それと入れ替わるように女が旗を持って槍使いに突撃する。

 女も、槍使いは協力して戦わないとまずい相手だと理解していた。


 そのまま荒くれる心を叩きつけるように、旗を振り回す。

 その威力は当たれば大きい。だが当たらない。

 パワー任せに旗を振り回しても全て紙一重で避けられてしまうのだ。

 槍使いは手練れだった、間違いなく達人と呼ぶべき存在である。



 そうして女が攻撃を続け。ふと生まれた致命的な、常人なら気が付かないような隙を生んでしまう。

 その隙に槍使いは一撃を叩き込もうと踏み出す。


 だがそれはアンズのタックルによって妨害された。

 アンズが槍使いの腰元に抱きつき押し倒そうとしたのだ。しかし上手く槍使いが腰をひねり、拘束をほどかされてしまった。

 だがアンズはすぐさま、とびかかるように殴る。

 槍使いはアンズの手を上手く受け止めパンチをブロック。


「あなたがチート使いの人を襲ってたんだね!?でも、なんで!?」

 右拳を掴まれたまま、アンズの言葉が槍使いに問いかける。

「他人行儀な貴様に教えてやろう!秩序を乱すからだ!人の世界にそんな超常の力があるなら!」

 槍使いの返答がそうだった。


「ヒノ君!女の人!今から逃げるよっ!」

 アンズがそう叫んで。ヒノと女は反応し。

「威力最大ッ!」

 アンズは地面に向けて発砲した。威力は常に最大なので気合こめても変わらないのに。ともかく高威力の銃撃によって砂が壁のように噴き上がる。

 槍使いの目や口に砂が入り、ひるんだ。掴んだアンズの手も離し……隙が出来た。


 すぐさまヒノ達三人は逃げた、自然と散り散りに。

 誰も槍使いをここで倒さなきゃならない理由が無いし、こうするのは当然だ。


 そして、この場に残されたのは槍使いだけとなった。


 さて、砂のせいで涙が止まらないから、槍使いはヒノ達を追うのを諦める。

 だが代わりに叫ぶ、もう姿が小さく遠いヒノに向けて。


「貴様のすぐそばに裏切り者がいるぞ!」

 ヒノは、走りながら遠くからの槍使いの言葉に耳を傾ける。


「裏切り者は秩序を乱すぞ!いいのか!?秩序が乱れれば幸福も崩れ去るぞ!?」

 その声は、切羽詰まっているようにヒノは感じた。

 だが、嘘をついているようには聞こえなかった。

 それはなぜだろう、疑問を抱いたまま、ヒノは走る。

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