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9月8日土曜日 駅頭学園

「ペンダントを自作したって言ってた人のsnsアカウント、学校の創立記念日で休みだって書き込みしてたんだよね」


 プレハブ小屋にヒノとアンズが集合し。アンズが開口一番言ったことがそれだった。

 仲間にした女にどうにかして近づくため調べたいsnsアカウントが個人特定につながることを言っているということである。



「そのアカウントは他にも色々個人特定につながること言ってたか?」

「うん、色々書いてたよ、ネットに詳しい友達に聞きながら調べた」


 ネット上に自分の情報を書き込んではいけないのは、こういう風にごくわずかな情報から特定する奴がいるから。


 そんな教訓を思い返しつつ、ヒノは悔しさを感じていた。

 もうかなりアンズがアカウントを調べてしまっているようである。


 出遅れた、とヒノは思う。


 7日の夜ヒノも調べてみようとしたが、SNSの使い方がいまいちよく分からずに不可能だったのだ。無能である。


 何というか、完全にアンズのペースなのがヒノは無念であった。

 さっきも言ったが悔しいのでもっと注意力とかそういうの欲しく思った。


「……で、そのアカウントの持ち主の特定は終わったのか?」

「近所にある駅頭学園っていう高校の女子”だった”ってところまでしかわかんなかった」


 テキスト形式のログだと伝わらないが、駅頭の読み方はえきとであった。ヒノ達には伝わっているので声に出すことは無いが。


「”だった”?つまり卒業してるのか……」

「二年か三年前くらいにね」

「そうか、じゃあやることは決まったな」

「うん、そうだね」


 ヒノは大きく伸びをしたり、アンズは手をぷらぷらしたり二人は準備運動をし始めた。


「よし、じゃあ行こうぜ」

「うん」


 二人は目的地を決めた、そしてそこに向けて移動を始めた。


 ――――移動中ヒノは、買い物袋を持って不気味に歩くフード男を見かけてビビった。

 昨日暴力を振るわれた理由が気になってく、彼の元に走ろうとした。怖いけど勇気を振り絞って。


 でもアンズが。

「どうしたの?あ、フードの人だ、挨拶でもするの?」

 と聞いてくるので、走れなかった。

 フード男の元に行って話を聴けば、先日の惨敗がアンズにバレるかもしれないからだ。


 つまり恥ずかしかったのだ。


 そんなこんなで駅頭学園の校舎前にヒノとアンズはついた。

 この高校には、もう時計の針が放課後と伝えているのに男女問わずたくさんの人がいた。

 部活生がかなり残っているようだ。


「大きな学校だねえ」

「やることは聞きこみだよな?あのsnsアカウントの」

「うん、そうそう」


 snsアカウントの持ち主はここの卒業生である、ならばその後輩が何か知っているかもしれない。だからここにやって来たのだ。


 よっしゃ行くぞと行き込むヒノに

「あ、ところでヒノ君、いいの?」とアンズが訊ねた。

「え?何がだよ?」

 水を差されたようでヒノはややむかついた。


「私たちのやろうとしてることって、人のプライバシーを暴き立てるようなことだし、やりたくないならやらなくていいよ?私はやるけど」

「あ」


 完全に、ヒノはそのことに気づいていなかった。


 たしかに今やってることは、ストーカーのようなものだ。

 世界の存亡がかかっているとはいえ、やっていいことじゃない。


 少し日和るヒノを尻目にアンズは堂々と校内に足を踏み入れた。

 校門を見張っている守衛もアンズの堂々っぷりに高校見学に来た子か何かだろうと思ったのか、大して呼び止めることもなかった。


「ちょ」

 このままでは置いてけぼりだと、慌ててヒノは高校の中に入った。

 心の中にこのままやっていのか?目的のためなら何でもやっていいのか?という疑問を抱えたまま。


「んじゃ、ヒノ君、手分けして聞きこんでみようか」

 アンズはそんな彼の引っかかる思いなど露知らず笑顔をヒノに向けた。

「……ああ、そうしようか」


 そしてしばらくsnsアカウントの持ち主について聞きこみをした

 ヒノがギャルっぽい剣道部員の女子に聞きこみをして


「新手のナンパ!?かっわい―!でも君好みじゃないの、君みたいな可愛いカンジじゃなくてあたしもっとゴツイ男の人が良いな~」

 とゲラゲラ笑われぐりぐり頭を小突かれたり。

 アンズが太った野球部のぼーっとしてる男子に聞きこみをして一分くらいうーん?と唸られてから「知らない」といわれたり。



 その他色んな人に聞きこみをしたが結果は得られず。

 持ち主を探すのは難航するかと思われた。


 しかし、ヒノが

『手芸部募集中』

 というプリントを掲示板に貼っている女子を見かけた。

 ふと、あのペンダントを作るほど小物作りに凝った人なら部活生でもおかしくなくね?と思う。


 試しに聞きこみをしてみると

「あ、先輩の作ったやつだ」

 と言われ物事は順調と化した。


 よっしゃ、とヒノは心の中でガッツポーズを決めた。


 ヒノは手芸部の女子にもっと深く聞いた、いったい持ち主はどんな人物か?と。


「先輩ら体が丈夫じゃなさそうだったんだよねー、今大丈夫なのかな?」

 ヒノは情報を持っているようである相手が目の前にいて気持ちをはやらせる。


「その人ってどこに行けば会えるっスか?」

「結構前にどっかの病院に入院したって聞いたことはあるよ、でもあの人と私そんな仲良くなかったから……どこの病院かは知らない、そもそも今も入院してるかわかんない」


 ヒノは推察した、アカウントの持ち主の体が丈夫じゃないなら旗を振り回している健康そうな女と持ち主は別人だ。

 そしてそうだとしたら持ち主と女は一体どういう関係なのだろう?と。


 だから思い切って踏み込むことにした。

「あの!その人って変な友達とかいませんでしたか?力が強かったりするような人!?」


 そのわざわざ『変な友達』などと聞く普通はしないようなヒノの質問は、ややまずかった。

 なにか違和感を目の前にいる相手に与えてしまったようでウーン、と手芸部員が唸る。


「……今思ったんだけど君、何なの?」

 手芸部はかなり怪しんでいた。

「あっ、それは……」

 ヒノはこういう時にどう応えればいいのか考えていなかったので返答に詰まってしまった。

「むぅ、怪しいなぁ」

 詰め寄る手芸部員。


 突然、いきなり、何処かから現れたアンズがひょいっとヒノ達二人の会話に割り込んできた。


「私たち、あのアクセを作った人のファンで……突然音信不通なっちゃったので心配だったんです!」

 旨い演技だ、ヒノは嫉妬する。

「あ、そうなの?そっか、でもファンだったら好きな人に迷惑かけないようにね?」

 手芸部は突如現れたアンズの口八丁に納得し、そしてもうヒノ達を疑っていないようでどこかに去っていった。


 そしてアンズ・ヒノは会話を始めた。

「助けてくれてありがとなアンズ、でも何でここに?」

「そろそろヒノ君と情報共有しよっかなーって、私が集めた良い情報はゼロだよ」


 ヒノはアンズに先程聞いた情報を伝えた。

 snsアカウントの持ち主は体が丈夫でなく、病院にいること。

 そのアンズが知らない情報を話すたびに、気持ち良くなる。

 普段勝てない相手より優位に立って、それがたまらない。

 どうしようもなく胸の深くから、喜びがせり上がる。



 アンズは、そのヒノの気持ちなんて気づいていないようであった。


「そっか、じゃあヨシ、もうすぐ夜だし情報も集まったし帰ろうか」

「えっ、もう帰るのか?」

「うん、空見てみなよ?」


 空は赤かった、澄み渡る赤。子供が出歩いているのは良くない時間にもうすぐなる。

 ヒノはアンズの言う通り、帰路につく。


 帰たまたま途中まで一緒になった帰路でヒノはアンズに聞いた。

「なぁ、さっき俺が困ってた時、助けてくれたけどよくとっさに出まかせが言えたな?」

 尊敬となぜできたのかという疑問があるのだ。

「え?出まかせじゃないよ?私このアクセサリ結構好きだし」


 そしてポケットに突っ込んでいたらしいハートのペンダントをアンズは取り出して見せつけた。銀色に光り輝いている。

「私、これなんというか、心臓というか”命”っていう感じがして好きなんだ~」

 アンズの顔は友達の良い所を語るようにほころんでいた。

「ヒノ君あのね、命っていうのは、大事なんだよ~」

「そっか」

 ヒノはついほころぶ顔に笑顔を返した。そう自然とさせる魅力が彼女の顔にあった。


 そんな道を行く二人の前にヒノたちより5歳下くらいの男の子が現れて。

 アンズの方をじっと見て、ヒノはああアンズの知り合いなのだなとわかった。

 そして子供はアンズに向かって泣きながら叫んだ。

「死神!死神め!死んじまえ‼‼‼お前がいなければよかったんだ!」


 そしてその子供がアンズに石を投げつけた。アンズは避けなかった。ゴツンと石が当たる。ダメージはほぼ無い。そして子供は「死んじまえ!」ともう一度言ってから走って逃げ出した。

 突然の出来事すぎてヒノは呆然としていた。

 しかし我に返って「お前!止まれ!」と叫び、とんでもないことをした子供を追おうとしたが、アンズがヒノの腕を掴んで止める。


「なんで止めるんだよ!?子供だからって、やって良いことと悪いことがあんだろうが!」

「……あの子がああなったのは私のせいでもあるから」

「なんだよ!?いったい何なんだよ!?」


「私が、世界を滅ぼそうとしてる奴と仲間と一緒に戦ったって話したでしょ?その仲間の中に私が戦いに誘った人がいたの」

「……そっか、なるほど、そのお前が誘った仲間にさっきの子供の家族でもいたのか?」

「そうだよ、あの子のお兄ちゃんは私が誘ったせいで死んだ」

「だからって、あの子のやったこと許していいわけないだろ!?」


「うん、だから私が行こうとしたの」

「え?」

「例えあの子に何と言われても、憎まれても、私が行って叱るべきかなって思ったの、ヒノ君に任せるのは違うかなって思ったんだあ」

 つまり、ヒノはアンズの邪魔をしたのであった。


 アンズはととと、と駆けてゆく。

「あの子に会ってくるからしばらく私帰れない!先に帰ってていいよ!」と言ってアンズは先ほどの子供の元に向かった。

 ヒノはアンズを追おうとしたが、アンズの走り出しが速く見失った。それに邪魔をしてしまった負い目もある……

 なので渋々帰った。


 アンズは子供に会い「私なんかのせいで死ぬほど君のお兄ちゃんはヤワじゃなかった、世界を守って死んだの」と思ったことを伝えた。

 子供は色々と考えて、アンズの言葉に納得した。


 そんなアンズたちの会話は知らず、とぼとぼ家に向かうヒノはなんか蚊帳の外だなぁと強めの力で髪をくしゃくしゃしていた。

「……ン?あの子、世界が滅ぶだのどうこうっていうの知ってるのか?意外と……そういうことについて知ってるやつっているんだな」ヒノはふと気づいた。

 世界を滅ぼす敵がいてそれと戦うお兄ちゃんがいる、あのくらいの子供ならそういった話を『嘘だあ』と否定せず信じられるだろう。


 だがしかしだとしたら、その『お兄ちゃん』はどこから世界の破滅を知った?それは『アンズが教えた』で通る、だがしかし、『アンズが世界の破滅を知ることが出来た原因』は何だ?という疑問が湧く。

 ヒノは考え込むと泥沼になりそうなので、速攻思考をむりやり止めた。


 世界を滅ぼそうしている存在がいるらしいことの原因もクソも知ったことじゃない、ヒノは存在がいる原因でなくいること自体の方を重視すべきなのだと思う。

 と、ヒノが思考にキリをつけたのと岩戸の家の前に来たのはほぼ同時だった。



「……岩戸さん」

 ヒノは今日も会おうかな、とインターホンを押すか迷う。無駄に待ちぼうけを食らったのは記憶に新しい。


 とりあえず窓を見てみた。

 岩戸の部屋から明かりが漏れていない。

 普段の岩戸は電気をつけるタイプの人だから、寝ているか、部屋にいないのだろう、とヒノは判断し。

 会うことは諦めて家に帰った。


 その普通の姿は英雄でも主人公でも何でもない模範的一般人だった。

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