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最終回 ヒノ之丞

桜織町が10月10日に開放されてから、一週間がたった10月17日である今日。

ヒノが通う中学校は再開された。


もうすぐ朝礼だと言うのに、学校の教室でヒノは田中と話していた。

「減ってるな」

田中が言った。

「うん」

ヒノは教室にいる人数を見ながら返答した。

”壁”が出来て無くなるまでの間にクラスメートの三分の二がいなくなった。

理由は様々だ。純粋に死んでいたり、この街にいられない程のトラウマを背負ってしまったりとしている。

おまけに、今学校に来ている奴らの顔も大概は曇っている。



「……まぁ、アンズと、アンズが好きなお前が生きてて良かったよ」

田中はそうヒノに言って自分の席で机に突っ伏して寝ているアンズを見た。ヒノもつられて見る。

彼女は熟睡していた。

「疲れてるんだな、アンズは」

「うん、ずっと前からアイツはやるべきことがあって大変だったからな、安心の中で寝れるのは初めてなのかも」



「しかし、可愛いな」

田中がアンズを見てそんな感想を漏らす。

「……まぁ、そうかな」

ヒノは彼女が魅力的であることには同意するので、一応そう言っておいた。照れ臭いけど。

「俺、好きになる前はあいつのこと可愛いって思ったこと無かったんだけどな」

と田中君。

「……そういうもんだろ、多分」

「かもな」


そうこうしているうちに、先生が教室に入って来た。

そして教室の中を一通り見まわしてから

「失うモノもありますが、得るモノもある、いいかどうかはわかりませんが……今日の皆さんは新しい出会いを得ます、出来たらソレをいいモノにしてください、それでは転校生を紹介します」

なんてことを言った。


そして、ガラガラと入り口が開いて一人入って来る。

まず印象的なのは、高身長であることだ。大人よりも大きい。

でも、細身。スレンダーと言える。

その人物の生真面目な凛々しさを持った表情を見て、ヒノは言いたくなった。

――俺にとっては新しい出会いじゃないじゃねぇか――

明らかに入ってきた彼女は槍使いだった。

ヒノの仲間だった。


「ええっと、君の名前は?」

先生が聞くと、槍使いは黒板に

槍 使 と書いた。

そして

「名字が槍と書いて やり と読みます、そして名前が使と書いて つかい と読みます、ちょっと変わった名前ですけどよろしくお願いします」

と一礼をした。


「あ――、ところで君、席何処がいい?」

先生が槍使いに聞くと、槍使いはヒノの隣を指さす。

持ち主がこの街から引っ越したため、丁度空席になっている場所だ。


「じゃ、ヒノ、よろしくな」

先生が、槍使いの願望を尊重した。

そして、槍使いはヒノの隣に着席した。

「……なんで、ここに来たんですか?」

世界を救うとか滅ぼすとかそういう使命から解放された槍使いは、日本社会の中で生きていくことを決めたと皆に宣言して、アンズに協力してもらいながら戸籍をとったりしていた。

だが、中学生になることなんかは宣言していなかった。

「私は、社会経験が一切無いでしょう?だから、中学生から学ぶことにしました」

「でも、そっちは普通程度の大学に行ける学力はありますよね?」

「学力だけあってもダメでしょう、日本社会で生きるにはそれ以外も知りたいと思ったのですよ」

「なるほど」


「というワケで、よろしくお願いします、同級生ですから敬語も使う必要ないですよ」

槍使いが手を差し出した。

ヒノは、ソレを握り返して、握手をした。



そして、一時間目が体育。バレーだったので、高さを生かし槍使いが活躍していた。

二時間目が数学。帰って来たヒノの小テストの結果を見て、槍使いが「勉強教えましょうか?」と誘った。

三時間目が理科の生物範囲、奇虫の映像を見せられて、多少気分を悪くした者もいたがアンズは眠い目をこすりながら喜んだ。

そして四時間目に自習があった。

先生が大勢いなくなったから、自習時間がどうしても多くなっていた。

ヒノはいい機会だと思って、クラスメートが駄弁ったり遊んだりしている中一人手紙を書き出す。

「……誰に向けたモノです?」

槍使いが、たずねた。

「岩戸さんへのモノです、たまにしか会えないので」

「あぁ、あの方ですか、そういえば彼女は今どうしているのですか?」

「チート使いの研究施設に協力してます、体が消えてく病気がチート使いのバックファイアだってことがわかったから、俺達チート使いの能力を調べればその病気の治療法が見つかるかもしれないそうです」

「へぇ……」

話ながら、ヒノは手紙の上にシャーペンを走らせる。

「たまに、俺もその施設に行って能力の研究してもらってますよ、キョウコさんとかも言ってるし槍使いさんもどうですか?」

「私が役に立つなら当然行きますよ」

「じゃ、そのうち行きましょうね」

その言葉と共に、ペンの芯が折れた。

手紙を書くという使命を終えたようだった。


そして自習時間が終わった。

給食が出て、皆で食べた。

五時間目は国語だった。六時間目は英語だった。

そして今日の中学校が終わって、下校になった。


ヒノは、アンズと槍使いと一緒に下校していたが、途中で家に帰るための道筋がわかれるので

まず槍使いと別れた。

そして、アンズと一緒に隣り合って歩いた。

やれ、あそこにいる生えている樹は実は外来種だの、柔道でタックルっぽい技があるけど最近反則になっただの、そんな事を話した。


そして、ヒノとアンズもまた、家の方向上別れないといけないところまで来た。

そして。

「ねぇヒノ君皆、今どこで何してるか知ってる?」

アンズがふと、そんなことを呟く。

ヒノは当然知っていた。なので答える。

「キョウコさんは一応就職できたって、フード男は甘味処で働きながら高卒認定を目指す、岩戸さんは研究に協力」

「それでヨウスケは、まぁこれまでと変わらずだってね、一応安定した収入が貰えるよう色々調べて入るみたいだけど」アンズがヒノの言葉に付け足す。


なんでそんなことを聞くんだ?とヒノが質問する前にアンズは言った。

「で、私はせっかく世界が続いていくから、生き物とかかわれる道に進みたいんだ」

どうやら、本音だった。

「たぶんお前には向いてるだろうな」

ヒノも本音で答える。

「それでさ、ヒノ君はどうしたい?」

アンズに言われて、ヒノは答えようとした。

だけどハッキリした言葉が出てこず


「……う―――ん」

と唸って。

そしてしばらくしてから、考えがまとまってようやく話し出せた。

「なんというか、目の前で死んだり、苦しんだ奴がいっぱいいただろ、でもそんな嫌な事は特別なことなんかじゃなくて、世界にはたくさん転がってるんだろ?」

軽く頭を掻きながら、ヒノは言った。

「なら少しでもそんな嫌な事を無くせるような人間になりたい、医者でもカウンセラーでもいいし、壊れた街を掃除する役目でもいいよ」

「……嫌な事を見続けたヒノ君なら、それはつらい事と向き合い続けることだって知ってるよね」

アンズは確認を取った。

ヒノは頷いて答える。

「でも、俺は意地だけなら自信があるんだ」


そういうと、アンズは思いついたという顔になって、二人以外誰もいない周りを見回して

「ヒノ君、ちょっといい?」

とたずねた。

「え?うん」

そうヒノが答えたとたん、アンズはヒノを軽く、強く力で抱きしめて、思いっきりキスをした。

ヒノは頭が真っ白になった。

彼女がどういう意図でそんなことをしたのかわからない、そしてショックで考えることも出来ない。

混乱して、困惑して、そうしながら。反射的に、抱きしめ返す。

アンズがの拘束が、逃げようと思えば逃げられる程度の緩さになった。

そして何秒か経った。

アンズが、満足したかのようにヒノから離れた。

その顔は紅潮している。

「……ッなんだよ、いきなり?」

ヒノがたずねると、アンズはヒノの頬をつついて、笑った。

「きっとそのうちヒノ君は意地を張るのに疲れ果てちゃうと思う、でもそうなったら、その時隣にいる私に、頑張れるまで寄りかかってね」

「あ……あぁ、そうする」

アンズに、ヒノは答えた。

そして、それに

「だから、お前も疲れたら、そうしてくれ」

と続けた。


そして、ヒノはアンズと帰路を別れた後もしばらく歩いてポストに辿り着いた。

赤色で、手紙を入れるアレだ。

ヒノはポケットから先ほど書いた手紙を取り出して、内容を確認する。


――岩戸さんへ

岩戸さん、お元気でしょうか? 会う機会が少ないので直接言えないかもしれません、なので手紙で謝りたいことがあります。

俺は、岩戸さんに甘えたくて結構な迷惑をかけたと思います。苦しめていたのだと思います。

俺も貴方を追い詰めた一人なのでしょう。

病院で貴方に首を絞められたのは俺にも責任があると、今なら理解できます。

本当にすいませんでした。でも、そんな状態になるまで俺に甘えさせていただきありがとうございました。

正直あなたのおかげで、かなり救われました。

こんなことを言われるのをあなたは嫌がるかもしれませんが、コレは事実です。


さて、俺はあの先月の色んな事件で沢山のことを学びました。

例えば、不幸っていうのが道端に転がっていること。

劣等感を感じるのは他人を神聖視しすぎてるのかもしれないってこと。

暴力が本当にロクでも無いけど、暴力のおかげで助かったことが何度もあること。

ちょっと間違えただけでドミノみたいに世界は壊れてしまう事。

自分が案外成長出来ること。

他にも、色々。


それで一番思ったのが、嫌な事がいっぱいあるからって悲観したり、絶望したり、そうしているのがもったいないんじゃないかってことです。

綺麗事とか言われるかもしれませんが、俺はそう思ったんです。


ちょっと自分の話が長くなりました、すいません。

また会える日を楽しみにしています。

       

ヒノ之丞より――――――


確認を終えたヒノは手紙をポストにいれた。

そのまま、静かに力強く歩き出した。


これで最終回です。

いやぁ、長かった。

アンズがいっぱいいる世界の話と、ピンク色の化け物、桜織町が壁で封鎖されること、あたりの話が一切プロットに無かったのでかなり難儀しましたがどうにか完結させられました。


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