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9月6日 回帰区

 回帰区は江戸時代を基に作られた区域である。

 桜織町の3つの区域の中で一番小さい。

 生まれた理由は少々特殊だ。

 近未来区が生まれてしばらくしてから一部の人間が

「こんなに一気に技術発展してると怖いし暮らしにくい!」と言い出した。

 急激な文明発展の反動によって、古き良き時代に戻ろうとした人がたくさんいたらしい。

 そしてその一部に引っ張られて元々昔に興味があったり、流されやすかったりする多くの人間を巻き込んで生まれた区だと言われている。


 そんな場所でアンズの行く道をひたすらついていきながら、ヒノは聞き込みしていた。

 残り時間……おそらく約20日ぐらいの間に、世界を滅ぼす相手と戦う準備を整えないといけない。あから仲間を見つけないといけないのだ。


 しかし今日も聞き込みによる仲間探し効果は薄かった。というか無いと言っても差し支えない。

 成果はせいぜい超スピードでトップに上り詰めた会社の社長が全治9か月のけがを負わされたという情報を知った程度である。現代社会は病んでいると主張するために使える程度の成果。


「うーむ、なかなか情報集まんないねえ」

 裏道で印籠屋の壁に寄りかかってアンズはヒノに空を見上げながら言った。

「やっぱ、もっとこう色々手立てを考えるべきなんじゃないのか?」

 とりあえずヒノは提案してみた。

「そ――なんだけど、いい案ある?」「いや、別に」

 アンズは何かひらめいたようでパンと手をたたいた。

「え?何思いついた?」

「思いつかないからちょっと休憩しよう、いい店知ってるんだ私」


 そして有無を言わさずすたすたとアンズは歩き出した。

「ちょちょ、ちょっと待てよ、休憩してる時間はあるのかよ?」

「ヒノ君、休憩無しで終わりまで駆け抜けるっていうのは無茶だよ、マラソンでも給水するんだよ」


 マラソンに例えるならまだ水飲むほど走ってねえだろ。

 とヒノは言おうとしたが、ぐんぐんとアンズが一般以上の速度で歩いて行くその姿は黙って従えと言っているようだ、仕方なしにヒノは黙ってついて行くことにした。


 そして、複雑で暗くて陰鬱な裏道を出てアンズは人ごみを障害物など一つも無いように歩きぬけた。

 ヒノは人ごみをどうにかかき分け必死でついて行った。


 視覚強化を発動しようかなと思ったが、またガードが来たら殺されかねないのでやめた。


 しばらくして

「はい、ついたよ」アンズが指さす。

「お」

 ヒノは通りの一角にあるその店に感嘆の声を漏らす。

 その入り口にあるのれんを見ると甘味処だった、昔ながらの雰囲気が出ている。


 しかし少しだけ残念だった。入り口にパソコンで作ったような文字の「バイト募集は終了しました」という雰囲気ぶち壊しプリントがはっつけられている。

 ヒノはちょっと残念な気持ちになった。


 まぁ、それはそれとして店に入る。

 中は椅子だの机だのある普通の甘味処だった、あまり広くは無いが小奇麗である。

 外観と違い、現代風だ

「サムライさん、ぜんざい、ぜんざいください二人分」

 アンズは一人だけいる店員にそう頼んだ。

「ああ、ごめんアンズちゃん今材料が無くてさ、買い出しのバイト君もしばらく帰ってこないと思うよ」

 サムライと呼ばれた男は確かに見た目がサムライだ、つまりコスプレである。


 サムライって甘味処経営すんのかなとヒノは思ったが、表のプリントを思い出して深く気にしないことにした。


「へー、バイトってどんな人?」

 アンズは軽く聞いた、二人の付き合いが長いことをうかがわせるやり取りである。

「いやあ……物凄いよ、ゴミ捨て場から拾った上着着たままバイトの面接来たんだから」

「うわっ、何でそんな人採用したの?」

「いやあ、バイトなんて来るの初めてだから舞い上がっちゃって、ああその人の服はちゃんと洗ってるから安心してね」

「へぇ」

「あと、あの人は……」

 サムライはそう言いながらヒノに注目した。

 何?とヒノが聞こうとすると。


「ちょっと雰囲気が君に似てたかもね」


 ヒノは突然そんなことを言われ驚いた。

 だが似た人間がいることなどそうそう珍しい話ではないと、すぐ気にするのをやめた。


「じゃあサムライさん、何か作れるものあったら二人分お願いします」

 アンズが頼む。

「団子でいいかな?作る時間かかるけど」

「あ、いいですねそれ、水もお願いします、ヒノ君も団子でいいよね?」

「あぁ、みたらしが良い」


 そしてヒノ達は座席に座って和菓子と飲み水を飲みながら休憩開始。

「……」

 ヒノは座ってみて自分の体がとても疲れているということに気が付いた。

 何というか熱いし頭はぼーっとするし、そんなにいい気分じゃない。

 いったいいつから疲れていたのか考えてみても答えが出ない。


「ね、今日は日差しが厳しいヒノ君張り切ってたから疲れちゃったんだよ、やや熱中症気味なの」

 アンズはヒノの疑念に答えるように言った。

「俺は、まだいけるぜ」

「ダメだってば~ヒノ君、自分の命にも気を配らないとさぁ、死ぬのは”ここぞ”って時だけだよ」


 アンズはヒノよりも広く視点を持っているようで、ヒノはなぜだか自身の存在を否定されたような気がした。気がしただけで誰にも否定されてはいないと理性でわかっているのでその心は隠した。


 実際、ヒノの体調は本当にしばらく休んだ方がいいものだったし。


 そしてしばらく時間が経った、食べ終わって休憩終了。ヒノの体調も回復した、なので二人は金を払って外に出ようとする。

 だが出るより早く二人の目の前でガラッと入り口が開き、人が立ちふさがった。


「あ、バイト君帰って来たんだーおかえり」


 そこにはフードを深くかぶった男が立っていた。サムライの言っていたバイトの人だろう。

 ヒノはどうでもいいと思ってとっとと彼の脇をすり抜けていく。

 だがアンズはフードと目があって、立ち止った。


 フードの目が潤んでいた。

「……あの?」

 アンズはそのわけを聞いてみたが、そうしたとたん。

「ごめんな、アンズ」

 ぼそりとフードは呟いて、いきなりアンズを抱きしめた。

「は!?え!?」と振り向いて動揺するヒノと対照的に「なんですか」とアンズは冷静であった。


「ちょ!?なにしてんのバイト君!」

 とサムライが、フードをアンズから引っぺがす。

「ごめんね、いきなりバイト君が、ちょっと彼、変な子で……怖くなかった?」

 サムライの心配に答えるよりも、アンズはフードに「……なんなんですかあなたは」と聞くことを優先した。


 だがしかし彼はその言葉から逃げるように買ってきた商品の材料をサムライに渡す。アンズはその時のフードが痛々しい傷口を見るような顔をしていたことを、頭に焼き付けた。


 そしてアンズにした事でフードはサムライに本気で怒られて、「誠に申し訳ございません」とアンズに謝罪した。

 アンズは「……まぁいいよべつ、私発狂した人たくさん見てきたし」と許した。


 そしてヒノとアンズの二人は店から出た。

 お詫びとしてお金を払わなくていい事になったので、ヒノは嬉しかった。


 そしてヒノとアンズは結局いいアイデアは浮かばなかったなあと回帰区をうろうろする。

 まだ行動時間はある。

 しかしどこでどうすればいいのかわからず、ヒノの提案によって人通りのない裏道に来てみた。

 ここに来た理由は何となくだ。


 何となく来ただけだった。しかし来た意味はあったかもしれない。

「誰かッ!」助けを求める悲鳴がヒノ達の耳に届いたのだ。人通りが多い場所だったらその悲鳴が人並みにかき消され聞こえなかったかもしれない。


 アンズはその悲鳴で迷うことなく走った。もちろん助けを求める悲鳴の元に。

「迂闊に行くなよ!危ないかもしれないだろ!悲鳴あがってんだぞ?!」

 ヒノは素直な気持ちを叫ぶ。

「誰かの命が危険だったらどうするの!?早くいかなきゃその人が死ぬならどうするの?!」

 アンズも本気で叫んだ、走りながら。


 悲鳴に向かって走るアンズを追いかけてヒノは必死で走りだした。

 英雄願望のあるヒノよりも、躊躇なく人を助けに向かうアンズの背を追って。

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