演劇の練習の合間に
「わりぃ、俺がここに立ってたら、『地球』ちゃん客席から見えねぇわな」
大柄な青年が丸めた冊子を片手に数歩、窓に寄った。同じように冊子を携えた細身の少年が後を追う。
「オマエ下がんの? じゃあオレもー。離れすぎたら掛け合いしにくいからな」
地球と呼ばれた小柄な少女は、小さく笑って離れていく二人に会釈した。その隣には広げた冊子に高速で書き込みをしていく女性の姿がある。行間の広い台本なのに余白が真っ黒だ。少女は女性に向けて、冗談のように軽く言った。
「ああ、私の役、最初からずっと独り舞台だからさみしいな〜。掛け合いのシーン作らないの?」
「『地球』ちゃん、ナレーション的な位置付けだからね。無理」
「残念。そうだ、ねえ、小道具さんから聞いた?」
「何を?」
「怪我してるシーンのこと。もっとばんそうこうを大きくしたいって言ってたわ。それか包帯をぐるぐる巻きにするか。遠いと見えないんだって」
地球の歴史を大まかにたどっていく台本に登場するナレーターは地球の分身という役どころだ。戦争や災害のシーンで怪我人の扮装で出てくる。シナリオ担当の女性はふむふむと頷きながらそれを台本に書き込んでいく。
女性は少女と話し終えると、今度は休憩スペースで寛いでいる青年と少年に寄っていった。彼らは脇役コンビで、多様なシーンに必ずセットで登場する。練習を重ねるにつれ、息もますますぴったりだ。
少年はショートケーキの上に乗ったイチゴを口に放り込みながら青年に言った。
「もうオレ、何かしらイチゴの入ってるスイーツ、毎日のように食べてるよ」
「よく太らねぇなお前……俺もミルクココア好きだけど、飲んでも週一だぜ」
「はいはい。スイーツ談義は良いから。あんた達、台本気になるところない?」
「今のとこないかなー」
「俺も」
「それなら良いわ。甘いもの食べ過ぎてお腹出さないでよ」
あっさりと話を打ち切った女性は、まだ『イチゴ』とか『ココア』とか聞こえてくるのを背中に受けて、さっさと次の場所へ向かう。
その行く先は道具部屋だ。先ほどの話を受けて、脳内ではダンボールで作られた巨大なばんそうこうが少女の頭部にくっついている。
女性は勢いよくドアを開けて中へ入っていった。