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53、二月九日、午前八時五十四分。 第二変電所地下ケーブル坑内。
落下の途中には、またクリータスが現れてジャグスに言った。
「君はさらに命の不思議を見ることになる」
もう見たさ。もう充分、堪能したさ、と夢見心地で答えようとしてジャグスは張り巡らされたケーブルの一本に胸から激突し、ひっくり返りながら更に落ちた。肋骨の折れる音がして呼吸が苦しくなり、助けてくれ!と叫ぼうとしたとき、無様に、つぶれたヒキガエルのように床に着地した。縦坑の本来の底部だった。
振り向くと血まみれのラルジャンが頭の銃の照準を合わせて立っていた。二基だけが動いているのが確認できた。「あの程度で気絶しかけたか。おまえの実力はそんなものか?」
ルガーはどこかへ消えている。
「へへへ…」ジャグスは笑ってみようとした。いま味わっているのは恐怖だろうか? さっきまでの楽しさとは違う。極限の恐怖が誰かを笑わせるというのなら、いまの自分はそれではないか? この男には勝てない。そう思うが早いか、ジャグスは飛び上がり、ラルジャンの背丈を超えて姿を消そうと試みた。
だが、ラルジャンのほうが早かった。
消えようとする長い尾をつかまれて、思いきり床に叩きつけられた。




