50、七百十二日前。 西アジア。
人でごった返すバザールの中心部に、その青年はいた。Tシャツにジーンズ姿の、どこにでもいる、ありふれた格好の若者だった。右手にハンドバッグよりも少し大きな紙包みを抱えていた。
バザールはクリスマスを前にして、とりわけ人で溢れていた。肉屋も八百屋も魚屋も、怪しげな土産物を売る店も、どの屋台も賑わっていた。
青年は路上で靴磨きをするために並んでいる子どもたちの脇を抜けると、古ぼけてはいるがやはり客でいっぱいのレストランの前に停めてあったピックアップトラックの下へ潜った。靴磨きの子どもの一人が面白がって覗きこんだが、それ以外は誰も彼に注目する者はいなかった。
「なにしてるの?」と子どもは青年に尋ねたが、彼は「修理だよ、あっちへ行ってろ」と、ややドスを利かせて追い払った。
三分後には爆発する。
青年の役割は、トラックの車軸にその包みを取り付けることだった。
あの子どもは巻き添えになるか? いいさ、知ったことじゃない。
ポケットに入れてあったガムテープを取り出し、包みを車軸に貼り付ける。それだけでことは終わるはずだった。
だが、どうしたことか、青年は包みから二本の導線がはみ出していることに気がついた。ビニールが裂けて金線がむき出しになっている。
当然、それには触らぬように気をつけたが、最後のガムテープを貼り付けようとしたそのとき、一台の野菜売りの荷車がトラックに近づいた。道路の段差で荷車はつまずき、荷台からは大きなトマトの山が転がり落ち、トラックの下になだれ込んできた。
青年の一瞬の不注意が起きた。
転がり込んでくるトマトを追いかけてひとりの幼い少女がトラックの下に近づいた。少女は下を覗き込むと青年を見つけて、ひどく無邪気に笑いかけた。トマトはいくつもが少女の脇をすり抜けて、青年のそばに転がり止まった。潜り込んでくる少女を、なぜかとっさに青年は止めていた。「来るな!」ちぎったガムテープを手につけたまま、青年は少女のほうへ手を伸ばした。
肘が金線に触れた。
次の瞬間、ピックアップトラックは少女も周囲にいた靴磨きの子どもたちやレストランの客も、通りすがりの人々をも三十人近く巻き込んで爆発した。
瞬時の激痛と共に身体ごと吹っ飛び、絶命したはずの青年は、その数時間後には意識を取り戻し、銀色に輝く鋼板で身体を固め、左腕と首以外を「システム」と呼ばれる機器に取り替えた戦士となっていたのだった。




