35、二月九日、午前八時十三分。
「ジャグス!」異変を感じたベネシュは、端末に向かって大声で怒鳴った。
「ジャグス!どうした!」
目の前の新大通りは大渋滞のまま、どの車も動く気配がなく、ただクラクションの合奏だけが続いている。
「ジャグス!!」
* * *
まだ生きてやがったか…
ジャグスの反応は遅くはなかった。
ラルジャンが頭部の機銃を撃つより先に長い舌を飛ばすと、落ちていたルガーを絡めて利き手に引き寄せた。そして、機銃掃射の第一撃が撃たれる前に跳びのき、今度は相手の左腕を狙って撃ち返した。それはラルジャンの左の上腕に当たり、ジャグスは相手が体勢を崩したと見るや、即座に移動して逃げた。
逃げながらマイクに怒鳴った。
「訂正するぜ!あいつ、生きてやがる!」
「なに? 犯人か?」
「ああ、まだ生きてやがる。ここから出口まで、別のルートはねぇのか?」
「いま探す。待て」
「警部!」藤澤が割り込む。
「第七課が警部を呼んでます! どうしたら…」
「放っておけ! それより地図データの残りを早くこっちに送ってくれ!」
ベネシュは人目もかまわず叫び続けていた。藤澤から地図データが端末に届く。
「ジャグス、俺の言う通りに走れ!そのまま進むと、また横穴がある!」
「今度は頼むぜ」
ラルジャンは喉から血を吹きながら、左腕からも出血しながら、逃げるジャグスのあとを追った。さっきの一撃で首を通る光子銃制御の導線をやられたらしく、機銃が数基、動かない。残りも電気系統の接触がおかしい。警察もなかなか凄腕を飼っているようだ。もしかすると…
もしかすると、俺はこの戦いで本当に決着がつけられるかもしれないな…
* * *
「そこに横穴があるだろう。飛び込め!」ベネシュが怒鳴った。
「今度は間違わないでくれよ」
横穴を這いずりながら、緑のカメレオンは考えた。喉に撃ち込んでも死なないとは、おそらく神経の中枢を保護しているに違いない。
どう倒す?
別の坑道に出る。
「そこを右だ」
奴の機銃を使えなくする以外に勝つ手はない。
だが、どうやって?
「今度は左の横穴だ」
生体であるジャグスのような突然変異種の弱点は、ロボットのように言われたことを確実にこなせる実行力がたまにおろそかになる点である。ロボットは間違わないがジャグスは間違うことがある。
このときも、緑のカメレオンは相手をどう倒すかばかり考えていて、送受信機からの指示に従うことがおろそかになった。
つまり、左と言われた指示を聞かずに、右にあいている横穴に飛び込んだ。
ベネシュが絶叫した。「違う!左だ!」
飛び込んだ穴は変電所地下の縦坑につながる落とし穴のような下向きの坑路だった。
ジャグスは仰天する間もなく、悲鳴をあげる暇も与えられずに奈落の底に落ちていった。




