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31、二月九日、午前八時三分。 地下ケーブル坑内。 ラルジャン。
一歩、また一歩と死が近づく。
だが、死に近づいているのはあの緑の化け物か、それとも自分か。
ラルジャンはゆっくりと歩みを進めながら、おかしなものだと思い、喉で笑った。
彼の身体のうち、生身の部分は首と左腕だけである。いや、正確には喉の部分にボイスチェンジャーと頭部の光子銃の制御導線を組み込み、固定するために首には包帯を巻いている。完全に生身のままなのは片方の腕だけだ。
彼はもちろん相手を殺すつもりだったが、できることなら少し話をしてみたかった。
話す? 何を?
今さら誰かと語り合う何が俺にある?
ラルジャンは声なく笑い、左右に二つずつ鋼板が蓋をした横穴の前まで来たところで立ち止まった。いや、そのうち右側のひとつはついさっき、人間業ではない剛力でこじ開けられ、変形した鋼板が放り出されて、むき出しの穴が口をあけている。
ここまでか。
ラルジャンは、ぽっかり空いた横穴を、頭部の機銃すべてをもって前方に照準を合わせながら、油断なく覗き込んだ。
もぬけの殻だった。




