30、二月九日、午前七時五十一分。 地下ケーブル坑内。 ジャグス。
「蓋が閉まってるぞ!」ジャグスは叫んだ。
左右、合わせて四つの横穴が、すべてマンホール状の鋼板で塞がれている。どれもボルトで留められていた。
「聞こえたか! 蓋が閉まってやがる!」
訓練されたプロフェッショナルでも、ときに日頃の訓練の役に立たない場面に立ち会わされることがある。
プロフェッショナルは日夜、様々な鍛錬を重ね、ありとあらゆる非常時を想定し、対処の方法を身につける。
だが、それでも想定外の場面はやって来る場合があるのだ。そのようなとき、本当のプロならどうするか。このときのベネシュがまさにそれだった。
「ひっぺがせ!」
ベネシュの怒声は、ジャグスにはどうにもならない最後通告の伝達であった。この爬虫類は右の壁を向き、ひとつの鋼板の蓋に両腕をかけると、人間の数倍はある腕力で、渾身の力を込めて引き剥がしにかかった。決して知的判断の賜物とは言えない悪態をつきながら。
「馬鹿野郎おぉ!」
ギリギリと両腕に力を込める。鋼板が少しずつ変形しながらはずれていく…全身に冷血動物らしからぬ熱い血が回るのが感じられ、痛む左脚からはさらに血が噴き出した。
ラルジャンの足音が迫っている。
ジャグスが絞り出す唸り声は、爬虫綱有鱗目の生物に、果たして特有のものだろうか? 緑の生き物は、かつて発したことのない雄叫びを何度もあげて、鋼板を手前に引いた。ぼきりとボルト状の留め具が折れる音がして、はずれた鋼板がごおんという鈍い音と共に床に転がる。ジャグスはそのまま横穴に飛び込んだが…
「嘘だろ…」
その横穴の出口もまた、鋼板で塞がれていた。




