29、二月九日。独白、そして午前七時五十分。
私は寒さに凍えている。凍てつく冬の朝に凍えながら私は思い出している。この私が、この街がまだ果てしなく広がる荒れ野だった頃、あの二人の足軽は死を賭して刀と槍で戦った。ひとりは刀の持ち方すら知らず、無手勝流に振り回し、対する槍持ちはよく鍛錬を積んだ猛者であった。二人の戦いは数時間に及んだが、決着は意外なほどあっけないものだった。槍持ちは長い槍を大きく振ることに疲れ果て、ほんの一瞬、槍を下げた。そこまでだった。刀を持った足軽はその隙を見逃さなかった。槍持ちの喉にぐいと差し込まれた刀は槍持ちの首を貫通し、そして彼は大量の血を吹いてどおと倒れた。なんということだろう。勝者も敗者も、あのときの二人はよもや私が見ていることなど気づかずに死闘を終えた。戦に狂う兵どもよ、私を怖れよ、私を感じよ、十五の先の遥かな数を、その果てしなさを知るがいい。今また、私の内部で戦い、争うものたちがいる。私は黙ってそれを見守るだろう。私は無限。私は永遠。雪景色のこの街の意識は私。
* * *
「あと、どのくらいだ?」ジャグスは迷い出た坑道を走りながら叫んだ。左脚は接地するたびに血を吹いている。
「聞こえない!いま、なんと言った?」ベネシュは渋滞にはまっていた。あちこちでクラクションが鳴っている。
「目的地だよ!あと、どのくらいで着く?」
「もう百メートルもない。踏ん張れ!」
背後からラルジャンの足音が迫っている。
「葬式の準備でもしてもらうとするか」緑のカメレオンは軽口を叩きながら、しかし、はっきりと己の生に対する執着を意識した。死にたくない。死んでたまるか。
ベネシュは相手が何者であるかをもはや考えず、それに応えた。第七課が何を企んでいようとかまわない。ひとつの生がもうひとつの死をもたらす結果になろうとかまわない。目の前で殺されかけている仲間を救う。
「貴様が死んでも葬式なんか出やせんぞ。瓶詰めのホルマリン漬けになるのがオチだ」
ジャグスが温血動物なら頰を紅潮させたことだろう。この情緒面の発達が遅れているはずの殺し屋は、普段なら聞き流すはずのベネシュの差別発言に呼応した。感情的になっているのか? それはこの緑の生き物自身にとって初めての心的な経験であった。
「いまのは忘れないぜ」
「文句なら出てきてから言え」
だが、動けなくなった車をどうする? ベネシュは藤澤を呼び出すと、携帯端末と発信機をつないであるか確認し、自分は飛び出すようにパトカーを出て、雪に脚をとられながら懸命に走って、腕時計型の端末に呼びかけた。
「真っ直ぐ進め!横穴が四つある。左右に二つずつだ。右の二つのどちらかに飛び込め!」
ジャグスは痛む脚を引きずりながら前に進んだ。
目指す横穴はすぐに見えたが…




