27、二月九日、午前七時三十五分。 港区中央通り公園広場。 ベネシュ警部。
「警部!」
パトカーに乗り込もうとするベネシュを藤澤が止めた。ひらいたドアに手をかけてベネシュを制止する。
「無茶です。指揮官がここを離れることは許されません」
「警部!」谷口も寄ってきた。「あちこちで停電が起きているようです。連絡が入りました」
ベネシュはゆっくりと谷口のほうを見ると「連絡と言ったな? 指揮車の回線をおまえが確認したのか?」
「…申しわけありません……しかし、お二人は手が塞がっていたので…」
「聞いたか、藤澤? 指揮車の管理は俺たちでなくともできる」
藤澤はあわてて言った。「そういう問題ではありません。指揮官がこの場を離れては、何か起きたときに対応ができません」
「いまがその『何か起きたとき』だ。俺を止めたいなら撃つしかないぞ」
「そんな…警部…」
「言いたいことはわかるが、曲げて頼む。指揮車のキャッチする信号を、この車と俺の腕時計端末にバイパスしてくれ。地図のデータ送信も必要だ。こいつを走らせながら、あるいは外に出てもジャグスに指示が出せるようにな」
「待ってください!」
「いいか、藤澤」ベネシュはドアに置かれた藤澤の腕をつかんだ。力のこもったつかみ方だった。「ひとには誰でも、守るべき信義ってものがある。七課の命令通り『殺すな』とジャグスに伝えたのは俺だ。皮肉な話だが、俺は普段なら喜んで伝えるはずの指示を出すことで、あの緑野郎の安全を軽んじた」
「命令に従っただけです。警部の責任ではありません」
「命令通り従ったせいで、いま、あいつには死の危険が迫ってる。奴を救う」
「それは越権行為です!」
「いいから手をどけろ」ベネシュは藤澤の腕を引き剥がすとドアを閉め、サイレンを鳴らした。「指揮車よりこいつのほうが、小回りが利くからな」
「警部!」藤澤は窓にすがった。
ベネシュは窓をあけると藤澤にニヤリと笑って「よろしく頼む。なんと言ってもな…」言いながら、エンジンをかけた。
「あいつは俺の相棒なんだ。知らなかったか?」




