25、二月九日、午前七時二十四分。
掃射のタイミングは一瞬、遅れた。官房副長官や移民省長官の四肢を八つ裂きにした十基の光子銃は、すべてが一点に照準を合わせるとき、ほんのわずかだが、それぞれの動きが合わないことが弱点だった。
このときも、〇.一秒、反応が遅れた。
とどろく轟音がやみ、あたりが静寂を取り戻すや、ラルジャンは白煙のカーテンを払うかのように周りを見渡してみたのだが、どこにも緑の爬虫類の死体はなかった。
「くそっ! どこだ!」
いま、ラルジャンの全身はあらわになっている。
銀色に輝く身体。左腕だけが生身の人間のそれだったが、そのほんのわずかの人間らしさは頭部から太い針山のように生えた十基の光子銃のせいで目立たなくなっていた。その左腕だけがラルジャンがかつて人間だったことの証だった。
一方、間一髪で坑道の壁に飛びついたジャグスは、銃撃の轟音の中、横穴のひとつへ潜り込んだ。
そのまま矢も盾もたまらずに、走っていた。
「警部、奴の武器がわかったぞ」走りながら、必死にマイクに向かって話していた。「光子銃は頭に取り付けてやがる。十基はあるな。誰も彼もが蜂の巣にされるわけだぜ」
「俺の責任だ。すまん」
「なんだと?」
ジャグスの声には驚きが含まれている。「いま、あんた、謝ったのか? この俺に?」
地上ではベネシュがマイクを固く握りしめていた。「俺が犯人を殺すなと言わなければ、失敗はなかった」ついさっきまでなら守ったであろう彼の倫理観は、いまは働いていなかった。
「へっ。まだ失敗と決まったわけじゃねぇ」カメレオンは横穴を飛び出すと、また別の坑道へ飛び降りた。今度もかなり手狭で、大人が二人も並べばいっぱいになる。そこを、やはり大小のケーブルが何本も伸びているので、さらに狭く感じられた。だが、さっきまでと違って、ここには汚水が溢れていない。「とにかくどこかへ誘導してくれ。この地下の中じゃ、右も左もわからねぇ」
「いま、そこから出してやる」ベネシュは自分のことのように焦って地図を広げたが、藤澤が彼を見た。「警部」
「なんだ? あとにしろ」
「犯人はあの捜査官を追ってくるはずです」
「だから出口へ誘導する」
「いえ、捜査官のことでなく…」
雪はもうやんでいた。
ベネシュは未明にこの公園広場に来たのだが、見通しの良い広場からは、雲間にもう朝の光が見えている。
藤澤は心配そうに遠くを見た。「いま、捜査官を外へ誘導したら、犯人もそれを追ってケーブル坑から出てくるのではないでしょうか…」
通勤・通学のラッシュ時が迫っている。
既に高速道路では渋滞が始まっていた。




