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蜥蜴狩り  作者: 惹玖恍佑
24/67

24、二月九日、午前七時二十二分。 地下ケーブル坑内。 ジャグス。

相手と会話を交わしながら、水蒸気と神経ガスの混合気体の煙の中を、ジャグスは破損をまぬがれたケーブルの一本につかまり、するすると音もなく進んでいく。


話しながら近づけば、普通は相手が声の移動に気づくものだが、ジャグスには超人的な能力として、接近しながら適度に自分の声の音量を絞る機能が備わっていた。狙い通り、ラルジャンと名乗る相手はジャグスの接近に気づかなかった。


奴はもう、ルガーの射程の範囲にいる。


煙が晴れかかるなか、ジャグスは長い尾だけでケーブルからぶら下がり、両手を自由にすると、半身を反らしてもやの中の薄影に向かって狙いを定めた。


「捕まる気がないなら、なぜ逃げない?」


ジャグスが聞くとラルジャンは言った。

静かな自信に満ちた声だった。


「逃げるほかにも手はあるさ」


お互いのあいだをさえぎる白煙が、いま、完全に晴れつつある。


「貴様がただの警官なら、相手にはしないんだがな」


ラルジャンは、拳を握りしめた。


両の手のどこにも、武器は持っていなかった。




【公文書四:音声による交信記録c:極秘のこと】

注:●印は捜査官による発言


●「ただの警官でないなら…なんだ?」

「そっちこそ、三秒以内に立ち去らなければ、俺と勝負する羽目になるってことだ」

●「それは、それは…」




「光栄ですな」ジャグスはルガーの照準をぴたりと右眼に当てながら、ふと、イタズラ心が湧き上がるのを抑えることができなかった。また「心」か、俺にとっては重荷だな。


己に対する皮肉もまた心の作用だと意識せずに、次の瞬間、ジャグスは自分でも予期しなかった行動に出ていた。


第五部はのちにこのとき、この緑のミュータントに仕掛けられた意識のリミッターが外れかかっていた兆候を確認している。彼らはその理由を懸命に探したのだが、皆目、見当もつかなかった。カメレオンは口を大きくあけると、一瞬晴れた靄の中、浮かび上がった相手の右脚を狙って長い舌を飛ばしたのだ。


舌はものの見事に右脚を捉え、絡みつき、ラルジャンと名乗った相手はバランスを崩して後ろへ倒れた。どうだい!


ざまぁみろ! してやった!


それはこの爬虫綱有鱗目の生き物の「心」の動きと言えたろうか?


ケーブルから飛び降りると、ジャグスはルガーを構えたまま標的に近づいた。「悪かったな、タフガイ。こんな終わり方は満足じゃねぇだろうがな。立てよ、おまえを逮捕する…」


最後の言葉は呑み込まれた。


汚水の中から立ち上がったラルジャンは、左腕以外の身体をすべて銀色の特殊鋼に包んでおり、前を向くと同時に、頭部に備えた十基の光子銃を、近づいてくる緑の生き物に向けて一斉に掃射した。

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