22、二月九日、午前七時二十分。 地下ケーブル坑内。 ジャグス。
「野郎、声を変えてるぜ」
ジャグスは首につけた送受信機に向かってささやいたが、犯人がボイスチェンジャーを使用しているらしいことは、ベネシュもすぐに気がついていた。
「だが、推定二十五歳から二十ハ歳程度の男だ。おそらく外国人じゃねえ」
「なぜ歳までわかる」悩み深きドミニク・ベネシュは、またしてもこの緑の生き物となんの違和感もなく会話している自分に気づいた。
「俺の聴力と判断力は調整されているんだよ」ジャグスの声からは、本当に面白がっているとしか思えない笑みが含まれているかに聞こえる。ベネシュはこの怪物の話し方に引き込まれていく自分を嫌悪しようと意識してみたのだが、なぜか無駄な努力のようにも感じられた。
「それと、両脚を義足にしてるか、もしくは耐電スーツでも着込んでやがるな」ジャグスはまたクックと喉を鳴らしてマイクに言った。これが俺の笑い方かな?
「おまえの思考力による判断か」ベネシュが言った。
「さっきの銃撃でケーブルがぶち切られた。野郎、放電しながら水に浸かったケーブルのそばに立って、水浸しの床に足をつけても屁でもねえ」
「やはりヒューマノイドなんだな」
「らしいが、だとしたら呼吸器官もいじってるぜ。神経ガスのボトルを三本投げたのに、何の効き目もねぇ」
「神経ガス?」
「さっき、俺が持ってきたろう」
「待て。おまえは平気なのか?」
「何がだ」
「ガスだ!おまえはガスを吸い込んで平気なのか?」
「へへ。心配かい?」
「ふざけてる場合か!平気なのかと聞いてるんだ!」
ジャグスはおもむろにコートを脱ぐと、ルガーを手にして横穴の出口付近に這いつくばった。
「あんたら人間といっしょにするなよ。何のために作られたと思ってる?」
神経ガスを浴びても耐えうる強化された皮膚と呼吸器官…徹底的に管理され、訓練された生きている兵器…
ベネシュは目を閉じて言った。「…これからどうする気だ?」
「むろん、奴に近づく」
「待て、ジャグス…」
「安心しろ。殺しやしねぇ」
危険だ、と制止したい自分を、ベネシュはこらえた。
「しばらく話しかけないでくれ。二分でカタをつける」そう言い置いて、ジャグスはするりと横穴を抜けた。




