18、二月九日、午前六時五十八分。地下ケーブル坑内。そして独白
地上には地下四十メートルでの機銃掃射の音は、むろんマイクを通してしか届かなかった。
くぐもった連続した轟音が、引き裂くノイズのように指揮車の中に響き渡り、ベネシュは隣にいた藤澤と谷口を無視して、マイクの向こうに叫んでいた。
「トカゲ!」
* * *
たったいまの光子弾の連射により引きちぎられた送電ケーブルは、横穴から流れ落ちて溜まった汚水に浸かりショートしたのか、何本もがバチバチと火花を上げている。
いま、爆弾の破裂と同じほどのエネルギーを一気に浴びた坑内は、急激に温度が上がり、蒸発する汚水のせいで、もうもうとした水蒸気に包まれている。
* * *
ベネシュはもう一度、呼びかけた。
「おい、トカゲ!」
* * *
水蒸気の白煙が辺りにたちこめていることと、バチバチと悲鳴をあげる切れたケーブルの散乱を除けば、坑内は一分前の静けさを取り戻しつつあった。
「トカゲ!」
* * *
ベネシュは思わず怒鳴っていた。
「ジャグス! 無事か!」
* * *
「ジャグス!」
こいつは面白い。緑のカメレオンは潜り込んだ横穴に腰を据えると、マイクだけに聞こえるようにささやきを返した。
「名前で呼んでくれたね」
言いながらジャグスは、意識せずにクックと喉を鳴らしていた。そしてそのことにすぐに気がつき、自分が本当に楽しんでいることを知って、ますます面白いものだと笑えるものなら笑いたくなった。なるほど、クリータス、俺にもちっとは「可笑しみ」が分かってきたような気がするぜ。
「馬鹿野郎! 無事ならさっさと返事を返せ!」ベネシュはマイクを握りしめたまま、額に汗をかいていた。
* * *
私は寒さに凍えている。私の中をどくどくと流れる液体。それはいま、命の管が破れるように別の管へと溢れだし、雷鳴とどろく中にあって、私の意思を無視するかたちで、迷い込んだ二つの異物のそのあいだを満たしている。
私は永遠。私は無限。十五の次の遥かな数を私のために数えるがいい。どこまでも続く暗い暗い地下の洞穴はこの私。