表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蜥蜴狩り  作者: 惹玖恍佑
18/67

18、二月九日、午前六時五十八分。地下ケーブル坑内。そして独白

地上には地下四十メートルでの機銃掃射の音は、むろんマイクを通してしか届かなかった。


くぐもった連続した轟音が、引き裂くノイズのように指揮車の中に響き渡り、ベネシュは隣にいた藤澤と谷口を無視して、マイクの向こうに叫んでいた。

「トカゲ!」


* * *


たったいまの光子弾の連射により引きちぎられた送電ケーブルは、横穴から流れ落ちて溜まった汚水に浸かりショートしたのか、何本もがバチバチと火花を上げている。


いま、爆弾の破裂と同じほどのエネルギーを一気に浴びた坑内は、急激に温度が上がり、蒸発する汚水のせいで、もうもうとした水蒸気に包まれている。


* * *


ベネシュはもう一度、呼びかけた。

「おい、トカゲ!」


* * *


水蒸気の白煙が辺りにたちこめていることと、バチバチと悲鳴をあげる切れたケーブルの散乱を除けば、坑内は一分前の静けさを取り戻しつつあった。

「トカゲ!」


* * *


ベネシュは思わず怒鳴っていた。

「ジャグス! 無事か!」


* * *


「ジャグス!」


こいつは面白い。緑のカメレオンは潜り込んだ横穴に腰を据えると、マイクだけに聞こえるようにささやきを返した。


「名前で呼んでくれたね」


言いながらジャグスは、意識せずにクックと喉を鳴らしていた。そしてそのことにすぐに気がつき、自分が本当に楽しんでいることを知って、ますます面白いものだと笑えるものなら笑いたくなった。なるほど、クリータス、俺にもちっとは「可笑しみ」が分かってきたような気がするぜ。


「馬鹿野郎! 無事ならさっさと返事を返せ!」ベネシュはマイクを握りしめたまま、額に汗をかいていた。


* * *


私は寒さに凍えている。私の中をどくどくと流れる液体。それはいま、命の管が破れるように別の管へと溢れだし、雷鳴とどろく中にあって、私の意思を無視するかたちで、迷い込んだ二つの異物のそのあいだを満たしている。


私は永遠。私は無限。十五の次の遥かな数を私のために数えるがいい。どこまでも続く暗い暗い地下の洞穴はこの私。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=84228876&si
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ