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蜥蜴狩り  作者: 惹玖恍佑
16/67

16、二月九日、午前六時五十ニ分。 港区中央通り公園広場。

ベネシュは藤澤を呼ぶと、指揮車からジャグスの着けたマイクの音を録音する準備をしろと命じた。

「犯人の声を録れるものなら録っておけ。声なんぞ聞く前に、あいつが始末して済ませるかもしらんが」


藤澤は黙ってうなずいた。


* * *



(資料・第七課部外秘メール・二)

宛:藤澤祐希巡査部長


・ドミニク・ベネシュ担当指揮官よりの指示の有無に関わらず、実験体二十八号からの音声は録音のこと。


・この指示はベネシュ担当指揮官には不問のこと。聞かれても答えぬこと。


・読後、破棄のこと。

・余計な情報を入れぬこと。



* * *


ジャグスは濁流に呑まれぬよう、右手でルガーを握ったまま、しがみついたケーブルの上で器用に身体の向きを変えると、本道に点々とあいた横穴のひとつに潜り込んだ。


足音が近い。


* * *


指揮車のベネシュに指示のメールが届いたのは、ジャグスが穴に入った直後だった。



(資料・第七課部外秘メール・三)

宛:ドミニク・ベネシュ警部


・科研より第七課へ報告あり。


・川俣移民保安省長官並びに先般の太田官房副長官謀殺の当該被疑者によると思われる機銃掃射の弾痕から、当該被疑者の持てる殺傷兵器は警察庁未知のものと推定。


・新規の技術による兵器の分析、並びに入手先を知りたし。


・加えて二件の殺害の背後関係不明の点も鑑み、兵器の入手元を探知したくば当該被疑者を通例通り射殺のことにて第七課任務完遂とするのは拙速と判断。


・依って被疑者は極力、生存の状態にて捕縛されたし。


・読後、破棄のこと。



* * *


ベネシュは我が目を疑いながらマイクをつかんだ。

「トカゲ、待て」

「なんだ、逃げちまうぜ」

「殺さずに捕らえられるか?」

「なに?」


* * *


ラルジャンは音が聞こえた方向へ近づいた。


* * *


「殺さずに捕まえられるか?」

「どういう意味だ?」

「言うことは分かるだろう。課長からの指示だ。七課が奴を殺すなと言ってる」


横穴にも汚水が侵入し始めていた。


「そいつはなんの冗談だ? 俺には必要ならあんたの指示を無視する権限があるぞ。課長に聞いてるはずだがな」

「いま言った通りだ。その課長からの通達だ。奴を殺すな」


足音は遠ざかるのでなく、むしろ近づいてくるようだった。


「ちっ」緑のカメレオンは舌打ちをすると、ルガーの装弾を確かめ、弾倉を戻して、狭い横穴を一気に走った。


「殺さなけりゃいいんだな?」苛立ちを感じたような気になっていた。これも遅れてきた情緒の発達ゆえか? いや、いまはどっちでもいい。


横穴を這い出る。


そこは最初の本道よりは、やや手狭な坑道だった。最初の坑道と同じような構造で、中央に大小何本ものケーブルが走っている。汚水はまだそれほど流れていない。


暗い坑道の遠くに、水を蹴る足音がする。


声をかければ撃ってくるに違いない。


撃ってくると承知の上で、ジャグスは暗がりに向けて怒鳴った。「止まれ!」

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