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蜥蜴狩り  作者: 惹玖恍佑
15/67

15、二月九日、午前六時四十七分。 港区中央通り地下ケーブル坑内。 ジャグス。

いまやケーブル坑内の溜まり水は、点々とあるものが細々とつながるのではなく、徐々にかさを上げ、はっきりとした細い筋となって、ひとつの水流を形成するようになっていた。


「ちょうどいい。俺からも話がある」ジャグスは水の流れから目を離さずにマイクに告げた。水は高低差のある坑道を、奥に向かって流れている。

ベネシュからの応答がした。

「俺が先だ。いいか、よく聞け。どこかに下水道に通じる出口があるぞ」

「同じことを言いたかったようだな」


水流は暗い坑道の奥へと続いている。どこまで続いているものか、緑のカメレオンはそれを目で追ってみた。流れはケーブル坑内をもはや間違えようのない小さな水路と化した状態で、水かさを増しながら、生き物のように先へ先へと急いでいる。


「いま、坑内の地図をひらいているが、どこにも下水道とつながる出口があるとは書いていない。だがな…」

「誰かが穴をあけやがったか、それとも記録がいいかげんなのか…」

「そういうことだ。ああ、待て。水道局の確認がとれた」


ジャグスは水の流れに飛び込むと、足を取られもせずに、流れに沿って機敏に走った。いま、水かさはジャグスのくるぶしまで届いている。


* * *


ラルジャンは音を聞くために立ち止まって耳をすませた。


間違いない。誰かがひとりで近づいてくる。


いいだろう。腹は決まった。


* * *


「わかったぞ、トカゲ」

「何がわかった」

「この大雪で、水道局は汚水の大量放出を遅らせたんだ。凍った水道管の処置に手こずったらしい」

「おやおや。それで、いまになって、どっと流れるようになったのか」


流れは急激に勢いを増している。


ベネシュは地図の上を目で追いながらマイクに向かって語りかけた。「ここから数キロ先はもう海岸だ。奴は、官房副長官殺害のときは海へ逃げたんだ」

「下水道を伝ってか?」

「おそらくな。いま、そこの水溜まりはどうなってる?」

「水溜まりじゃねぇ。もう、ちょっとした小川だぜ。どんどんカサが上がってる」

「おそらく下水道への出口があいたままなんだ。その流れの先に犯人がいるぞ」


坑内に、ごおという音が響いた。


ジャグスが後方に目をやるのと、汚水が背後から津波のように襲ってくるのとは、ほぼ同時だった。


轟音と共に流れてきた大量の汚水は、どこから溢れ出したのか、突端に猛烈な水しぶきを上げながら、ケーブル坑本道の下半分を覆うほどの濁流となり、ヘドロに取り巻かれたゴミを撒き散らしつつ、あっという間に坑道を下水路に変えてしまった。ジャグスは危うく急流に流されるところを、長い尾で天井付近の一本の太いケーブルに飛びつき、難を逃れた。


「激流になっちまったぞ!」

「どこかに出口があるんだ! 犯人を探せ!」


冗談じゃねぇ、これ以上水かさが上がったら、俺まで流されちまう。そう思いながらジャグスはふと、クリータスの言い遺した言葉を思い出し、待てよ、流されることを嫌うとは、つまりは俺は怖がってるのかとの疑問を思い浮かべた。怖いかって? これが恐怖か? 笑わせるぜ。


本当に「可笑しさ」を感じているのかどうかを、また考えている暇はなかった。


誰かが近くを走っている。


よく見ると坑道の奥にはいくつか横穴があり、通り抜けられるようになっていた。水かさは、そこまでは達していない。


「警部。この本道の脇へ入ると、何がある」

「似たような坑道だ。どうした?」


天井近くのケーブルにしがみつきながら、ジャグスの耳は濁流のごおという唸りの遠くで、バシャバシャと水を蹴る足音をはっきりと聞き取った。


緑のカメレオンは、コートの胸元からルガーを出すと、ベネシュに告げた。


「見つけたぜ」

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