1、二月九日、午前一時二十二分。 移民保安省長官室。 ラルジャン。
部屋中が荒らされ血で染まった中に改めて立つと、ラルジャンには、部屋そのものがひどく小さく見えた。
実際には、ここは小規模な会議がひらけるほどの広さがある。だが、今しがたの「騒ぎ」が済んで、この長官室全体に赤黒く汚れた議事録や資料が散乱しており、デスクと革張りのチェア、飾り棚と来客用の応接セットは粉々に壊れている。オーク材の壁は四方すべてが穴だらけになっており、まるで機関銃の掃射を受けたあとに重機が部屋を掻き回したかのようだった。
その中で、川俣・移民保安省長官は、四肢を寸断されて飛び散っていた。
ラルジャンは二十秒前まで長官の頭部だったものをひょいと掴むと部屋の隅へ放り投げ、そうしながら、待てよ、なぜこんな真似をするのだろうと、自分の行動を奇妙に思った。
今までの暗殺で、事後に死体に触れたことはおろか、近寄って相手の死を確認したことすらない。彼の砲火を浴びれば、誰でも一瞬で穴だらけになるか、ばらばらになるか、どちらかなのだから。
ひとつの区切り…
そう。
俺はこれをひとつの区切りにしたいのかもしれないな…
一応は惨たらしいと呼べる相手の死に様を前にして、初めて、センチメンタルな感情にとらわれているのだろうか。
どっちでもいい。
さっきから建物中に響き渡る音で、派手に警報が鳴っている。複数の怒声と駆けつける足音が長官室に近づいてくるのが分かる。
ラルジャンは部屋を出ると、出会い頭にハッと動揺して銃をかまえた警備員三人に再びの砲火を浴びせ、今度は無数の散乱死体を見やりもせずに非常用通路へ向かった。