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プロローグ「正義は勝つ」

ようやえたな、隸王(れいおう)御前おまえたおため、俺はた……くぞッ!」



 せ返る程(かお)惡辣あくらつ瘴氣しょうきうず眼差まなざし。常軌じょうきいっした背筋に惡寒おかん正気しょうきたもつのは正に至難(しなん)

 邪惡じゃあくなる暴君ぼうくんの放つわざを受ける事はすなわち、死。故に、非戦闘員は全て避難(ひなん)

 救いをう人々のこえ無き懇願こんがんを受け取り希望への橋渡し。故に、奴を批難(ひなん)

 俺達の果敢かかんさを前にし、奴も感じ取っているはず、滅びの予感よかん

 いつわりの王冠おうかんを打ちこわし、皆の待つあの町へ帰還きかん

 さあ、いざかん!



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「アイン!治癒を頼む」


「いいですとも!」


 神しんせい魔術特有のやわらかな光が包み、みるみる傷がえる。

 剣を握る腕が再び力を取り戻す。

 額をつたう血をぬぐい、決意する。

 ――まだ、イケる…


 正直、ここまで奴が圧倒的な力を持っているとは思ってもいなかった。

 いや、予想は、予想はしていたんだ。

 不死軍団アタナトイと呼ばれる亡者アンデッドの兵を組織する隸王れいおうの力は、魔王と呼ぶに相応ふさわしい。

 単なる僭主せんしゅとして権謀術数けんぼうじゅっすうるだけではない事も、暴君らしい膂力りょりょくだけではない事も、勿論、分かっていた。

 しかし、何て事だ。

 複数の属性の魔術に加え、白兵戦に迄()けている。おまけに、その身体に宿る特異性、異常性。

 最早もはや、人ですらない。

 ひとえに、化物のたぐい

 その骸骨がいこつさながらの風体ふうていは、見掛け以上の化物。

 絶望的、だ。

 もっとも、それは一昔前の俺だったら、の話。

 今の俺であれば、決して勝てない敵、と迄はえない。

 手の届かない神域しんいきの存在、と呼ぶ迄には値しない、そのはず、だ。


 中距離では俺に勝ち目はない。

 奴の魔術の間合まあいは遠距離どころの話ではない。

 古代言語ならではの複雑な呪文は、詠唱えいしょう時間が極端きょくたんに短い。

 中距離でさえ、奴の魔術は怒濤どとうの速度で打ち出される。

 すでにアインとラナの防護シールド系魔術は打ち砕かれている。

 わば、俺は無防備に等しい。

 もう、接近戦以外、取るべき戦術はない。

 左右に体を振り、フェイントを入れつつ、前に踏み出す。


 隸王れいおうの濁った瞳から打ち出される邪視光デスゲイズはすに構えた廣刄ブロードで受け流し、奴の胸元に突き入る。

 軸足爪先(つまさき)にありったけの力を込める。

 距離は2メートル。

 俺の踏み込みであれば近間ちかま

 意識を集中、剣と体の意識を一体化するんだ。

 鬭技とうぎ劍氣體ブレード・インテグレート>。

 距離が近付く、より正確に、精密に、緻密に。

 150センチメートル、100セン、500ミリメートル、300ミリ、200ミリ、150、100、50…

 集中力が高まるにつれ、ミリ単位で敵を捕捉ほそく

 捉える。


 ――今、だ!


 突き入れた剣を左脇から横一閃にぐ。

 横薙よこなぎに振るう腕の角度に体重を乗せる為、右小指でつかを握り込み右肘をたたみ、僅かに、そう、4°(よんど)諸刃(もろは)を下向きにし、き出した隸王のあばらを斬る、いや、砕くんだ。

 無論、外しても背後の脊椎せきついを砕く二段構えの剣撃けんげき


 不気味によどんだ隸王れいおうの眼光がまたたく。

 ――はっ!?

 隸王はかすかに左肩を落とす。

 左肩甲骨と鎖骨、胸骨の連動に触発され、右肋骨が僅かに浮き上がる。

 剣の軌道から目標の肋が上向きに移動し、ずれる。


 しまった――


 体重を乗せようと刃に角度を付けた為、切っ先の軌道距離も短くなる。

 S字に反った胸椎きょうついは背中側に大きく湾曲し、切っ先が奴の脊椎に迄届かない。

 その距離、2ミリ。

 僅か、2ミリ、だ。

 併し、今はその僅かが、はる彼方かなた、遠い、届かない。


 ――くそっ!


 考え過ぎた。

 テクニカルに走り過ぎた。

 化物相手にロジカル過ぎた。

 来る!

 反撃、が。

 致命的な反撃、が!

 くそぅ…――


 ――ヒュッヒュン!

 不意に、一筋の弓矢。

 空気を切り裂く音に刹那せつな遅れ、隸王れいおうの頭蓋骨が揺れるのを見る。

 後方にたカーマの放った矢が奴の頭蓋を捉え、らす。

 対スケルトン用のやじり雁股かりまたは威力こそ弱いものの、奴の視線をらすには十分。

 続けざまにトゥックウォッカの投擲とうてきした流星錘ボーラ隸王れいおうの両足にからみ付き、自由を奪う。


 好機チャンス――

 仲間とものくれた一時ひとときの好機、これを逃す訳にはいかない。


 かわされた横薙ぎで右後方に投げ出されていた剣を手首を利かせ(スナップ)、左肩を内に入れ、体を横向きにし前後に開き、軸足に溜めを作り、右腕を大きく振りかぶる(スイング)

 鬭技とうぎ碎毆斬スマッシュ>!

 高々と頭上、を描き、うなりを上げて刃が隸王れいおうおそう。


 ――ゴキャッ!ゴキュ、ゴキキュッ!!

 隸王れいおうの左頭蓋に廣刄ブロードがめり込み、鈍く軋み、どろりとした暗灰色あんかいしょくの液体がき出す。

 その不快な汁こそ、生命を、人を、罪無き人々から奪った命の精髓(エキス)

 コイツ(・・・)が奪った無垢なる命の欠片かけら

 今、それを手放しつつある。

 刃から柄を握る手に、確かな手応てごたえが伝わってくる。

 命の波動、いや、ソイツ(・・・)を支える不死のエネルギー源の崩壊の序曲、が。

 もう少し――

 ――いま一歩。

 そう、あと一撃。

 たった、あと一撃で、決着する。


 正義の、正義が、正義は、勝つ!


「い、ま、だ、っ!」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



――本名、入間いるまたけし眞名まなをグロウ。れが俺の名


 職業は戰鬭士ファイター劍士(ソーズマン)の超越職“刄霸士ヤイバー”。

 ああ、無論、靈鄕錄プシュコマキアでの話、現實ウツツでの職業はしがない(・・・・)フリーター、さ。

 だが、今はそんな些末さまつな事、どうでもいい。

 そうさ、しき不死の壓制者(あっせいしゃ)隸王れいおう”ウグルゴウン・リーンスダインホッツビィを前に、そんな余裕はない。

 ヤツ(・・)を倒す為に、俺は、いや、俺達は必死にここまでやってきた。


 今日、正義は示される――


 見ていてくれ、みんな!



――いくぞっ!

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