魔王勇者
「魔王よ! 年貢の納め時だ!」
ついに辿り着いた魔王の城、そこに住む魔王に勇者が向き合っている。
意外なことに魔王は随分と老いて見えた。
「よくぞここまで辿り着いた勇者よ」
「貴様を倒し、世界の平和を取り戻させて貰う!」
「やれるものならやってみるが良い!」
勇者と呼ばれた男は輝く剣を振り、魔法を放ちながら魔王との激戦を繰り広げる。
「勇者よ、貴様は何のために我と戦うか!」
「言ったはず、世界の平和のためだ!」
「愚かしいことよ! 我が居なくなれば貴様ら人間は団結を失い、覇権を巡って争いの世が訪れるだけよ」
「……! そんなことはありえない!」
「そう言い切れるのか?」
魔王は戦いながら若い勇者に言葉を投げかけてくる。
「王は誰もが我こそが王だと言い出すであろうな」
「黙れ! 貴様の戯言に騙される俺ではない!」
激闘の末、勇者は魔王をあと一歩というところまで追い詰めた。
「どうやら我はここまでか。 勇者よ、新たな魔王になれ。 さすればこの世は調和を保っていられるぞ」
「何を!」
「我の最後の言葉に耳を傾けよ。 そして心して聞くが良い」
息も絶え絶えになりながら魔王は勇者に話しかけてくる。
ここにたどり着くまでに戦ってきた相手の話をしだす。
黒竜や魔族、ヴァンパイアなど手強い強敵だらけだった。
「それだけの力を持つものを従え、何故世界を征服し人間を滅ぼさなかったか? これも偏に我が悪役を買っていたからよ!」
勇者はそこでふと思う。
確かに魔王の居城にたどり着くまでに戦ってきた黒竜や魔族、ヴァンパイア達、あれだけの強大な手下を持っていれば、世界なんかあっという間に魔王の物になっていておかしくはない。
「何故だ?」
さすがに気になった勇者は魔王に聞いてしまう。
「我もまた……元は勇者だったからだ!」
「なっ!」
驚愕する。 まさか今さっきまで戦っていた相手が、元とはいえ勇者だったとは。
しかし思い返せば魔王が使った魔法などは全て勇者だけが使えるものばかりだった。
魔王は話を続ける。
その昔、1人の勇者が魔王討伐に立ち上がり見事に打ち倒した。
世界に平和が訪れると信じていた勇者は、その数年も経たないうちに各国が覇権を求め争いだす様を見ることになる。
人々が争い、苦しむも姿を目の当たりにした勇者は、その時になって打ち倒した魔王が言った言葉を思い知ることになり、そして人々の前から姿を消した。
その数年後、魔王が復活し世界に混沌が訪れると人間は争うのをやめ魔王討伐に団結した。
その勇者こそが今目の前にいる魔王だと。
「人間とは愚かな生き物だ。 せっかく手にした平和な世を捨て、理由をつけてまた争いだす。 一層の事滅ぼしてやろうと思ったこともあった……だが我もその人間の1人、それだけはどうしてもできなかった」
勇者は元勇者を名乗る魔王の言い分を信じられなかった、いや信じたくなかった。
「人間は変われる!」
「我もそう信じた! だが人間の本質は決して変わらない。 勇者よ、お前もその目でしっかり見て決めると良い。 我を倒した後の世の姿をな」
そう言うと魔王は力尽きてしまった。
老いた魔王の顔を見つめると、その顔には達成感すら感じる満足げな表情を浮かべていた。
「魔王は間違っている、人間は変われるんだ!」
勇者は魔王を打ち倒し凱旋を果たした。
世界中から讃えられ、これで世界に平和が訪れると思った。
しかしその数年も経たないうちに魔王の言ったことと同じことが起こる。
覇権を求めて人間は戦争を始めたのだ。
勇者はその力を持って各国をめぐり、必死に止めようと魔王がその昔勇者だった事も説明してまわったが、誰1人として耳を傾けるものはいなかった。
「なぜだ! どうしてせっかく平和になったというのに、なぜ人間同士で争うんだ!」
勇者はその後も必死に戦争をやめさせようと何度も各国を巡ったが、遂には魔王崇拝者と呼ばれるようになってしまう。
覇権を求める戦争は激しさを増し、貧困に苦しむもの達が盗賊や山賊に身を落としたりもしていく。
そんな中でも力のないもの達は無残に殺されていくだけだった。
まるで予言されたかのように魔王の言った通りになった。
「魔王、お前が言った事が本当なら……それで平和になるというのなら、俺が本当に魔王になってやろう!」
数年後、魔王が復活を遂げたと世界に広まる。
辺境の町が魔族に襲われ、ドラゴンによって燃やされる。
不思議なことに人間が大勢暮らしている場所は魔王に襲撃されることはなかった。
「魔王様、人間共が結託して魔王様の討伐に動きを見せ始めました」
「うむ、ご苦労。 引き続き流行り病で生存者がいない町や村を見つけたら、世界中に広まる前に目立つように焼き尽くしてくれ。 どんなに小さな村でも見逃すな」
「御意に」
「あと、素質のありそうな者を何が何でも見つけ出し、決して殺さずに見守ってやるのだ。 そして俺の寿命が来る前までに立派に成長を遂げさせよ」
「ハッ!」
それから年月が経ち、勇者だった魔王もだいぶ歳を重ねる。
「早く来い。 俺の寿命が果てる前に……」
そして遂にその日はやってくる。
「魔王! 貴様を倒しに来たぞ!」
遂に勇者が魔王の元までやってきた。
……長かった、やっと俺の役割が終われる。
いや、最後に一番大事な魔王としての仕事が残っているな。
「よく来た勇者よ、待ちわびたぞ!」