表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラウマの砂丘  作者: 桂木イオ
6/18

ヒカワのトラウマ

 ヒカワ君の視線の先にあったのは、奇妙な異物だった。

 大きな楠木の幹の中で、裸の男性と女性が絡み合うようにして抱き合っている。辺りには地面から突き出るようにして茨が生えており、時折それが鞭のように地面を叩いていた。


「なに、あれ・・・」

「・・・俺のトラウマだ」


 弱々しい声で、ヒカワ君は呟いた。彼はフードを被り、鎌を降ろす。


「全く・・・ほんと、死んで終わりだったらよかったのにさ。俺も大概女々しいわ。テルヌマ。あそこ見ろ」


 ヒカワ君が指さす方向に目を向けると、そこには楠木の周りから突き出ていた茨に苛まれる、あの子どもたちの姿があった。


「オカアサン」

「アー」

「・・・」


 茨が鞭のように、子どもたちを打ち付けている。私は腰につけていたハンドガンを抜いた。


「あいつらを頼んだ。俺は本体を狙う」

「わかった」


 砂上を駆けた。私が撃てる弾は6発だ。全て撃ちきれば消滅する。銃なんて使ったことないけど、ゲームセンターで遊んだことくらいはある。


 茨に標準を合わせて引き金を引くと、轟音が耳を貫き、痛みのあまり私は声をあげた。発砲音がイヤホンに圧縮されて聞こえてくるのだ。まるで頭を中から殴られているようだ。もう死んでいる身ではあるが、6発全部使わずとも消えてしまえるような気がした。


 反動で痛む手を押さえながら、茨を睨む。もう1人の自分が言っていた様に、子どもたちを攻撃していた茨は全て消滅していた。


「オカアサン」

「オカアサン」

「・・・」


 目玉のない子どもたちの姿はやっぱり怖いが、もう慣れるしかないのだろう。私は3人の子どもの様態をそれぞれ観察した。切り傷や打ち身の後はあるが、大きな怪我はしていないようだ。


「いい、みんな。ここから動いちゃだめ」

「ナンデー」

「危ないから」

「・・・」

「ワカッタ オカアサン イイコデ マッテマス」


 私は子どもたちから離れ、ヒカワ君の所へ急いだ。ヒカワ君の周りにはまだあの茨があり、それがヒカワ君の足に絡みついて動きを封じていた。


「ヒカワ君!」


 名前を叫ぶが、ヒカワ君に返事はない。鎌を握りしめたまま、首はぐったりとうなだれていた。


 きっとヒカワ君はトラウマに取り込まれているんだ。私は銃口をあの楠木に向け、躊躇うことなく引き金を引いた。


 2回目の轟音と反動に、身体は悲鳴をあげた。一瞬の間視界が暗転し、次に気づいた時、私は砂漠に突っ伏していた。


 どうやら短い間、気絶をしていたらしい。耳鳴りと頭痛のする頭を振って起き上がると、そこにはもうあの化け物は、ヒカワ君のトラウマはいなかった。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ