三兄弟を探しに
ヒカワ君曰く、私に襲いかかったあの化け物は、私のトラウマを表したものらしい。
「化け物には『兵士』と『女王』がいるらしい。トラウマを克服するっていうのは、その内の『女王』を倒すことなんだとさ」
「女王を倒せば、ここから抜け出せる?」
「らしいよ」
友人の姿を真似た化け物。あれは兵士だったのだろうか、女王だったのだろうか。
もう1人の自分が口にしていた言葉を思い出す。
「トラウマは、自分の手でしか克服できない」
「ん?」
「私の姿をしたやつが言ってたんだ。ヒカワ君の言っていた事と合わせて考えると、多分、自分の女王は自分にしか倒せないんだと思う」
大鎌を気だるげに持った彼は私の言葉を「だろうな~」と呑気に欠伸をして返した。錯乱してた私が言うのもあれだけど、ちょっと気を抜きすぎてない?
「でもさ、さっきみたいに助け合うことはできんじゃない? あんた、俺いなかったらやられてたろ」
「・・・うん。まあ」
そうです。その通りです。仕切り直しさせてとか言われたから頭から抜けてたけど、あのまま化け物に首をしめ続けられていたら、もう1人の私が言っていた様にトラウマに飲み込まれていたのかもしれない。
「だったら仲間を探そう! 協力プレイだ!」
「仲間、仲間ってヒカワ君以外に人間なんて―――」
あ、思い出しちゃった。いたよ人間。
「心あたりある?」
「いや、あるといえば、あるんだけど・・・」
私はあの目玉の無い3人の子どもたちについて、ヒカワ君にかいつまんで話をした。ヒカワ君は私の話をうんうんと聞いていたが、すぐに「探しに行こう」と言い出した。
「ええ・・・ヒカワ君、あの子達顔怖いんだよ?」
「怖いって、目玉抉れてるだけだろ? 大したことないじゃん」
「いや大したことあるでしょ」
焦ったような私の声を聞いて、ヒカワ君はこてんと小首をかしげた。
「だってさ、俺等曲がりなりにも自殺者だよ? その子どもよりもさ、死んだ後の自分の死体の方がヤバいんじゃね?」
彼の何気ない言葉が、私に重くのしかかってきた。確かにそうだ。屋上から飛び降りた最後が、綺麗な死体で終わるはずがない。
「ちなみに俺は首吊りなんだけどさ、ほら、こんな風に死因って何か身体に表れてるみたい」
ヒカワ君は私に首を見るように指さした。言われるがまま、ヒカワ君の首を見る。ぼろ布のような長いローブで首を隠していたので気づかなかったが、首をぐるりと覆うように皮膚に太く黒い糸が縫い込まれていた。
「痛くないの?」
「別に~。取れないけどなんともないから気にしてない」
・・・この人はどうして、首なんて吊ったのだろう。一瞬だけ、彼のトラウマが気になったが、すぐに考える事をやめた。余計な詮索だし、それで想像力を働かせるのは、何よりヒカワ君に失礼だと思った。
「そういえば、名前なんていうの」
「テルヌマ」
「それ名字じゃん」
「いいの。お前だってヒカワでしょ」
「そうだけど。じゃあテルヌマ、あんたのその翼って、使えたりする?」
「・・・?」
翼と言われ、おそるおそる背中を触る。そこには、鷲にもよく似た、鳥の羽が生えていた。