死神のような青年
友人の振りをした化け物が、座り込んで怯えていた私の首を掴み、天に掲げていた。
「コワカッタヨネ キモチ ワカルヨ」
息ができない。トラウマと対峙するというのは、こういうことなのか。
ふざけるな。馬鹿げてる。どうして私が、友達を手にかけなきゃいけないんだ。
「やめて、ナツキ、やだ」
「ダイジョウブ ワタシガ マモッテ アゲル」
違う。私は誰にも守れない。あの籠の中では、誰も私を守ることなんて、できなかった。
だからといって、ナツキが悪いわけじゃない。正義感の強い友達だ。本当に私をあの籠の中で守ろうとしたのだろう。
その眩しさに、どれだけ目が眩んだか。
その優しさに、どれだけ絶望したか。
腰のハンドガンに手をかける。今、ナツキを殺さなければ、自分が殺されてしまう。
簡単だ。引き金を引けば、私は助かる。この地獄からも、もしかしたら解放されるかもしれない。
「ヒビキ アソボウ ダイスキ」
・・・どうして、どうしてこんなことを、しないといけないの?
嫌だ。ナツキを殺すくらいなら、私は息をやめる。
目を閉じると、ナツキのポニーテールが陽炎のように揺れた。
私のことを嫌ってくれればよかった。
私のことを、虐めてくれればよかった。
私に、冷たい言葉を浴びせてくれればよかった。
そうすれば、私はお前を殺せたんだ。このトリガーを引くことができたんだ。
ところが、朦朧とする意識の中、気づけば私は宙を舞っていた。
地面に叩きつけられ、はっと我に返ると、化け物の腹に、大きな刃が刺さっていた。
「ヒビキ ダイスキ」
化け物が、砂に変わって消えていく。消えた先に、ぼろぼろの黒いローブを纏った人物が、大鎌を背負い立っていた。
「ちーっす。はじめまして」
死神のような出で立ちの人物が、深く被っていたフードを脱ぎ、ひらひらと手を振る。
「あなたは・・・」
藍色の長い前髪が特徴的な青年は、ぽかんとしている私をじっと見てから、困ったように頬を搔いた。
「あー。ごめん。なんかしばらく人と話してなかったから、そんな口開けたまま固まられても困るっつーか。あれか。自己紹介とかすればいいのか。ちょっと待って。仕切り直しさせて。次はかっこよくやる」
「わ、わかった」
なんだかわからないが、仕切り直せばいいんだな。えーと。こほん。
化け物が、砂に変わって消えていく。消えた先に、ぼろぼろの黒いローブを纏った人物が、大鎌を背負い立っていた。
「ちーっす。はじめまして」
死神のような出で立ちの人物が、深く被っていたフードを脱ぎ、ひらひらと手を振る。
「あなたは・・・」
「俺はヒカワ。お前と同じ、トラウマ持ちの自殺者さ」
にっこりと青年は白い歯を見せた。今度はうまくできたようだ。
「ねえ、ヒカワ君、だったけ。これ仕切り直す必要あった?」
「あったあった。主に俺のモチベーションが上がらない。やっぱ第一印象って大事じゃん?」
その第一印象が登場の仕切り直しを要求する死神だった訳なんだけど、それはいいのだろうか。
出会って数分しか経ってないが、この人物は自分のペースに相手を引き込むのが上手いのだろう。いつの間にか私の中のトラウマは、影をひそめていた。